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掌編小説 残されたメモ

    祖母の一年忌である。

    幼い頃、祖母と二人で暮らしていた。
    両親が離婚するまでの数か月だ。
    祖母は無口で、あまり思い出が無い。

    裏山の奥深くに祠がある。
    祖母は毎日、お参りに行っていた。
    「何をお願いしているの?」
    「なんも」と、祖母は言う。

    僕は葬儀には参列しなかった。
    仕事や家庭での問題を抱えている。
    それに、ここに来るのは少し気が重い。

    法要も終わり、手持無沙汰で散歩に出た。

    (十何年ぶり?二十何年ぶり?)

    ここは、そうは変わらない。

    ふと思い出し、山へと足が向いた。

    祠はあった。
    相変わらず崩れ落ちそうである。
    周りには野菊が咲いていた。
    振り返れば、大湾が一望できる。

    海岸には松林、波は穏やかで、光が差している。
    幼い頃は気がつかなかった風景だ。

    山から下り、茶屋に入った。
    注文したコーヒーを飲むと、インスタントである。
    やはり、変わらない。

    足元を見ると紙切れが落ちていた。

    ―――

    御崎から 湾奥向かう つづら折り 
    清風ながれ 煌めく波と
    幼い瞳 真にうらら

    ―――

    幼い僕の前で両親が激しく言い争いをしたことがあった。

    その時、祖母は僕の手を引き、この海岸に来た。

    僕は泣かずにいた。
    祖母も何も語らず。
    二人は波音だけを聞いていた。

    「落ちていましたよ」
    僕は、残されたメモを店主に渡し、店を出た。

    外に出ると
    潮風は、春風であった。
    そして少し、しょっぱい。


      ―了―



    こちらの作品は
    #拝啓文芸部の企画
    #残されたメモに
    参加させていただきました。



    ―最後まで読んでいただき、
              ありがとうございました―

                     
                    
     画像:vector_corp - Magnific

     
     
    物語やエッセイなどを書いています。 小説はカクヨム(はくらみね)でも公開しています。

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