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猫は決して「モー」と鳴かない

     両手を上げたまま「命乞いしてもいい?」って聞くと食い気味の、ダメ、という返事でおれは撃たれた。腹や足じゃない。顔だ。しかも二発。殺意が高すぎる。

     さすがに仰向けに倒れて、冷静には自分が肉体のどこで考えているのか少し考えた。一発目の銃弾は左の眼窩から入って、おれの脳をめちゃくちゃにしてそのまま抜けた。二発目は頬骨を砕いたが貫通せず、頭蓋の中に留まっている。

     もともと治安の悪い町だ。裕福なやつらは大抵残酷だったし、貧乏なやつらはもっと残酷だった。どちらも他人が命乞いをしている間だけ、自分のことを「こいつと比べたらまだマシだ」って安心する。ならシャオネイもおれの命乞いに耳を貸すべきだったんだ。

     おれは、にゃあ、と鳴いた。
     発声器官が喋るようにできてないんだから仕方ない。塀の上からは、さっきまでおれだった身体が倒れているのが見えた。間違いなく、ばっちり、疑いなく、死んでいるのがわかった。

     おれを撃った女、シャオネイの中には多分おれに押し出された猫が入っている。猫は二足歩行が気に食わないのか、それともデカい身体が気に入ったのか、銃を放り出して背中を地面につけ、ゴロゴロ喉を鳴らしている。

     じゃあ、猫に弾き出されたシャオネイの中身はどこだ。耳を澄ませると、姿は見えないが、近くのアパートから小さな子供の声で「畜生!」という怒鳴り声が聞こえた。多分彼女だ。

     猫の身体は不思議と馴染んだ。どんな姿になってもおれのすべきことは変わらない。
     おれは、ミンミの学校に過去のおれが仕掛けた爆弾を、なんとかして解除しなければならないのだ。

     ぜんぶおれが間違っていた。だからおれは死んだ。それはいい。それは仕方ないことだ。ただ、一度死ぬたびに、記憶が少しずつ曖昧になってゆく。何を忘れてしまっても、ミンミのことと爆弾を止める手順だけは忘れるわけにはいかない。

     おれは今は猫で、身を翻して塀を降り、駆け出してゆく。

    (つづく)

     
     
    ヲベロン太と呼ばれていたこともあります。

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