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ビートルズ最後の新曲、"Now and Then" が完成しなかった理由と、失われたセクション、その他のあまり議論されてない話題について


    11月、ディズニープラスで配信される「ビートルズ・アンソロジー」の新たに追加されたエピソード9では、ジョン亡き後、残った3人、通称「スリートルズ」が再結集して、ビートルズとしての人生を振り返ったり、おそらくスタジオで「新曲」に取り掛かる様子が見られると思われます。

    その公開前に、その時に取り組んだ "Now and Then" はなぜ完成しなかったのか、そして完成版では失われたと思われる、”I Don’t Want To Lose You”セクションについて、そしてあまり議論されてない"Now and Then" に関する話題についての、発売されてから今まで2年間自分なりに考えた、事実に基づく推測を、書き記しておきたいと思います。



    "Now and Then" が1995年に完成しなかった理由


    公式では「デモ音源に入っている雑音を除去することができず、それをジョージが拒否したため」となっています。
    その他に「ジョージが曲を気に入らなかった」という意見がありまして、これはポール自身も何度かそれについて語っています。(2012のBBC制作のジェフ・リンのドキュメンタリー等)

    他にもいろいろな意見がありますが、私としては完成しなかった理由を、簡単に言うと「やる気がなくなったから」だと推測しました。

    これを聞いたら、なんて投げやりな推測だ、と思われるかもしれませんが、最終的にやる気がなくなるまでの経緯があるのでそれを今から説明します。


    まず、Now and Thenの曲構成は扱いが難しく、95年の時点で、ジョンのデモから大きく変更されたことが判明しています。

    ジョンのデモの構成は、 

    Verse 1 (I know it's true) → Verse 2 (And now and then) → Bridge もしくは Pre-chorus (I don't want to lose you) → Chorus (Now and then, I miss you) → Verse 3 (And if you go away) → Bridge もしくは Pre-chorus (I don't want to lose you) → Chorus (歌詞なし) → Verse 4 (歌詞なし)もしくは Outro

    となっています。

    一方、95年の曲構成と思われるメモがビートルズ研究家の野良さんという方によって発掘されており(写真①)、そこには

    V(verse)1 → V2 → CH(chorus)1 → (Chorusの)Repeat → V3 → CH2 → Bridge → V4
    ※()内は補足

    とあります。

    画像
    写真① - "Now and Then"の1995年当時の構成メモ。
    出典: https://x.com/nora_fabs/status/1853081256181092411?s=46

    ご覧の通り、2回あったBridge もしくは Pre-chorus (I don't want to lose you) セクションを1回にし、最後のヴァースに持ってくるなど、デモからはかなり大胆な改変が行われています。
    そしてこれはおそらく主にポールによるものだと考えられます。

    なぜならポールのいくつかの発言から、主に"I Don't Wanna Lose You" セクションをあまり気に入ってないことが分かるからです。おそらく、ビートルズっぽくないと思ったのでしょう。

    この "Bridge" にあたる部分がおそらくデモにおける"I Don't Wanna Lose You"のセクション。
    そこと、1回目のChorusのリピートが削除されたこと、そしてイントロが少し短くなったこと以外、完成版の構成自体は95年版とあまり変わらないであろうことがメモから読み取れます。

    特にエンディングはドキュメンタリー(下記動画)で95年当時から変わってないことが示唆されています。

    (動画の3:54〜から、95年当時のリハーサルと思わしき音が聞こえ、それは完成版のエンディングと一致します。)

    "Bridge"は、ジョンのデモではF#mから始まるものでしたが、95年の時点で、これもおそらくポール主導でDmから始まるものになり、いくつかのコードの変更などを加え、レノン的な突飛なものでないものにしたと考えられます。
    2021年の時点でポールがその部分に触ってなければ、今間奏になってる部分が95年のメモにおける "Bridge" であり、聞こえないところでおそらく95年のポールが "I Don't Wanna Lose You”パートを歌っているものと考えられます。(これに関しては後ほど)

    「ジョージが曲自体を気に入らなかった」という意見について、私は違うのではないかと考えます。
    ピーター・ジャクソンがレコーディングの未発表素材14時間分を見たところ、ジョージは真剣に取り組んでいたそうです。
    そもそも本当に曲自体を気に入ってなかったら、取り組まないはずです。

    なので「ジョージが嫌がった」のは曲自体ではなく、その後の作業、大きく曲構成を変更し、作業を進めても「ビートルズの新曲」として仕上げることが困難だと感じたということについてだと私は考えました。
    確かに音質の問題もありました。しかし、それより先述の理由が大きかったのだと思います。

    とにかく、95年中に完成することはありませんでした。
    しかし96年4月にこの曲を完成させるべく、セッションが予定されてました。
    ですがそれは反故になってしまったのです。

    これはかなりあやふやな記憶かつ情報ですが、おそらくリンゴがジョージにその理由を尋ねたところ、"Two's enough!"と言ったといいます。

    さらにそれはポールでさえそうだったのです。
    彼はドキュメンタリーの中で、こんなことを言っていた。

    “We just kind of ran out of steam a bit”
    (なんとなく、やる気が尽きてしまった。)

    https://youtu.be/APJAQoSCwuA?si=7eJI60u_eFfnqOHH

    本質はここにあるのでしょう。

    長くなりましたが、まとめると、"Now and Then" が95年に完成しなかったのは、95年のセッションで完成を試みたが上手くいかず、時間が経つにつれ、やる気がなくなったから。

    95年にうまくいかなかった原因は、おそらく主にジョージが "Now and Then" をこれ以上いじっても "Free As A Bird" のようにビートルズの新曲としてふさわしいクオリティにできないと思ったから。
    音質はその一因であるが、主な理由ではない。

    と私は推測します。

    失われたセクションはどこへ?

    ここからは、完成版での"I Don’t Want To Lose You” セクションについての扱いについて事実をもとに推測したことをまとめます。

    私は完成版が出た当初、"I Don’t Want To Lose You” セクションは完全にカットされ、代わりにポールが間奏にあたる部分を完全に新しく書いたのだと考えました。
    しかし、間奏をよく聴くと、ポールがピアノで "I don't want to lose you” のメロディを弾いているのが聞こえます。このことから、ネット上などでは「削除されたセクションは、間奏に生まれ変わった」と言われました。

    果たしてそうなのでしょうか。

    まず、ジョンのデモでの "I Don’t Want To Lose You” セクションのコード進行は、

    F#m → E → F#m → E → A#m → D → E → C/G→ B7

    となっています。

    次に、完成版でのその部分にあたるという間奏のコード進行は、

    Dm → C → Dm → C → Em → Am → D → Dm → G

    となっています。

    ちなみにF#mからDmには2音分の間隔があるため、ジョンのデモの進行をそのまま2音下げると、

    Dm→ C → Dm → C→ Em → Bb → C → A# → G

    となります。

    完成版と比べると、

    デモ2音下げ :
    Dm→ C → Dm → C→ Em → Bb → C → A# → G

    完成版 :
    Dm → C → Dm → C → Em → Am → D → Dm → G

    となり、BbがAmに、CがDに、A#がDmに変更されているのが分かります。

    とはいえかなり進行が似ているため、やはり完成版の間奏はジョンのデモでの "I Don’t Want To Lose You” セクション、そして95年版での "Bridge" が生まれ変わったのだと考えるのが自然でしょう。

    では、コードの変更は果たして2021年に行われたのでしょうか、それとも1995年の時点で行われていたのでしょうか。

    その前に、完成版の間奏の長さと、当時の曲構成のメモの構成の横に添えてある秒数を比べてみます。

    まず完成版の間奏の長さは2:27から3:12までの約45秒。
    そして95年の曲構成のメモでの "Bridge" の長さは2:48から3:42までの約54秒。

    つまり95年版の方が約9秒長くなっており、何かしら2021年の時点で「削られた」ことになります。
    仮にテンポの差異があったとしても9秒も短くなるとは考えにくく、Now and ThenのドキュメンタリーやMVなどでも見られる通り、テンポはほぼ当時のままを維持していると思われます。

    これらから考えられることとしては、

    1. 95年時点で、ジョンのデモのままのキーで、"Bridge" を完成させ、そこから9秒近くの何かしらの要素を「追加」した。そして2021年の時点で、"Bridge" からボーカルを削除し、キーを2音落とし、そこからコードに変更を加えた

    2. 95年時点での "Bridge" はジョンのデモのコード進行のまま2音下げられており、9秒近くの何かしらの要素を「追加」していたが、2021年にそれらを削除し、コードに変更を加えた

    3. 95年時点で完成版の間奏のコード進行と同じ形が出来上がっており、9秒近くの何かしらの要素が「追加」されていたが、2021年になりその追加された要素のみを削除した

    4. 2021年に間奏になるセクションをポールが新たに作った。

    この4つでしょう。

    しかしポールの右腕的エンジニアであり、"Now and Then" の完成に大きく貢献した、スティーブ・オーチャードは間奏でポールがギターソロを加えたことについてSound & Visionの記事でこんなことを言っています。

    “It was part of what was already there. We didn’t take anything out or add anything.”
    (間奏は)元からあったもので、何も削ったり追加していない。

    https://www.soundandvision.com/content/creation-beatles-last-song-and-rebirth-red-and-blue-0

    この発言が本当なら、この時点で4.が消えることになります。しかし約9秒の追加はどうなるのでしょうか?
    最初は疑わしいと感じたこの発言、しかしよくよく考えれば、先ほどの3.のように、95年時点で完成版の間奏のコード進行と同じ形が出来上がっており、約9秒「追加」された部分、そして2021年におそらく「削除」された部分についてオーチャードはかつての"Bridge"つまりは間奏の一部として考えなかったとすれば説明がつきます。

    これは推測ですが、その追加された部分はおそらく"Bridge"の後に来ていて、それはイントロの繰り返しのようなものだったのではないでしょうか。
    ポールはドキュメンタリーでこんなことを言っています。

    "I'm thinking verse 3 could be like the intro again."
    (ヴァース3はもう一回イントロみたいにしないか)

    https://youtu.be/APJAQoSCwuA?si=u5yGrIUW6Ld5wkeE

    "Bridge"の後はメモではV4、つまりverse 4となっていますが、V1とV2は場合によっては1つのヴァースとしても考えられ、そうなるとメモでのV3が V2、V4が V3として考えられます。
    あのメモはポールが書いたものではないと思うので、メモを書いた人(おそらくジェフ・リン?)とポールらの認識に齟齬があるというようなことは普通にあると思います。
    そうなると、メモを書いた人が歌の始まりをV4の始まりとして考えていた場合、"Bridge"の秒数が9秒長くなった理由も説明がつきます。

    それか、ポールがV4をV3と勘違いした可能性もあります。

    どちらにせよ、1回目のコーラスの後にすぐイントロのようになるのは、あくまで私の考えですが、あまりピンと来ません。
    イントロのようにして変化をつけるなら、曲の終わりに近い、ブリッジの後にする可能性の方が高いでしょう。

    なのでまとめると、95年の時点で"Bridge"は完成版と同じコード進行で、それが終わったら、約9秒のイントロのようなフレーズが挿入されていた。
    ポールはそれを "verse 3" の始まりと思っていた。
    しかしメモを書いた人、おそらくジェフ・リンは"Bridge"の後、歌が始まる部分からを"V4"としてメモした。
    そして2021年の時点でポールとオーチャードは追加部分をカットした。その追加部分をおそらくオーチャードはポールの考えるように "verse 3" の始まりとして考えたため、"Bridge"が生まれ変わった間奏部分に関しては「何も追加したり、削除したりしてない」と言った。

    と私は考えました。

    "Now and Then" にまつわるあまり議論されてないこと

    ジョンのボーカルについて

    勘違いする人が多いのですが、ジョンのボーカルはデモからMALで分離されただけで終わりではないのです。

    推測ですが、MALで分離のみ行われた後、izotopeのRXなどの復元ツールで修復したのち、サチュレーター、コンプレッサー、エンハンサーなどを通り、呟くようなボーカルをスタジオ・クオリティ並みの力強いものにしたあと、僅かにピッチが直され、タイミング補正がされ、スラップバックエコーをかけ、完成。だと思います。
    どっちかというと、MALで分離された後の方が大事なのです。

    (ちなみに、MALで分離されただけの状態と思われるジョンのボーカルは3:16〜で聴けます。)

    しかしピッチ補正はそこまで目立たないのですが、タイミング補正に関しては、最初聞いた時、かなり手が加えられていることに驚きました。
    "of you" や、"that I"、"you never" などの節回しが完全に変わっています。
    これはポールがゴーストで歌ったものに合わせたのだと思いますが、そんな大胆なことをするのかと。

    この修正はかなり目立つと思いますが、このことについて言及している人は私が見たところ、なぜかほとんどいません。

    アーガイル・バージョン

    2024年公開の映画「アーガイル」に使用されたバージョンの "Now and Then" は完成版とはミックスが違います。

    一番分かりやすい違いは、ヴァース2の "will love you" の箇所。
    ポールはおそらく1995年にジョンのデモでは、"Well we will know for sure that I " に続く"love you"と聞こえる箇所を、"will love you" に変えました。
    完成版では、ポールの "will love you" にジョンの "love you" がほとんどかき消されてしまっていますが、アーガイルバージョンでは、ジョンの "love you" がはっきりと聞こえます。
    その他にも、ポールのボーカルが全体的に際立っていることや、間奏のスライドギターソロのフレーズをポールがハミングしているのが割とはっきり聞き取れること、心なしかジョージのギターもはっきり聞こえるという違いがあります。

    なぜアーガイルバージョンのミックスが違うかは分かりません。
    考えられるとしたら、映画の完成に間に合うようにスパイク・ステントが、最終ミックスの前に作ったミックスの一つを送ったか、ジャイルズがアーガイルのために特別にミックスしたかだと考えられますが、果たしてどうなのでしょう。

    FUTUREISMO バージョン

    オーストリアで "Parlogram Auction"という主にビートルズのレコードを販売するサイトを運営している人のYouTubeチャンネル、"Parlogram"が投稿したある動画の最後の方で非常に興味深いレコードが紹介されました。

    上記動画の27:02〜

    彼が取り出したレコードにはアーティスト名も曲名も書いておらず、"FUTUREISMO" とだけ書かれています。
    何を隠そう、それは "Now and Then" のテストプレス。
    もちろん極秘のため、"FUTUREISMO" という偽名を使ったということなのです。

    この人が言うには、「これにはピーター・ジャクソンが入手する前、つまり、MALによってジョンのボーカルが修復される前の "Now and Then" が収録されている…」とのことですが、それは正しくないでしょう。

    これがプレスされた日付は2022年6月27日となっています。

    Sound & Visionの記事(https://www.soundandvision.com/content/creation-beatles-last-song-and-rebirth-red-and-blue-0)によると、2022年2月初旬に、マルチトラックテープに入ってたジョンのピアノとボーカルの音源が、ピーター・ジャクソンのパーク・ロード・ポスト・プロダクションズの機械学習責任者であるエミール・デ・ラ・レイの手に渡り、同年2月21日に分離された状態でポールに送り返された。そして同年6月にスパイク・ステントにより、ミックスが行われた。とあります。

    "FUTUREISMO" バージョンにはそのミックスが使われていると考えられます。

    リンドラムの謎

    例によって先程のSound & Visionの記事によると、"Now and Then"の95年版でのキックドラムとスネアドラムはリンゴによって演奏されておらず、リンゴのキックとスネアをサンプリングしたものをリンドラムで再生したものが使われ、リンゴはスネアとタムタムのフィルインのみ演奏しているそうです。

    リンドラムのレコーディングは1995年2月1日に行われたそうですが、翌2日に撮影された映像にはリンゴがフル・キットを叩いている映像があります。

    これは一体どういうことなのか。

    私が思うに、あくまで仮に録音されたリンドラムの音ですが、リンゴが普通に叩いてみたもののうまくいかなくて、そのまま採用されたのでしょう。

    最後に

    1995年の "Now and Then" がニュー・アンソロジーのエピソード9でどれだけ取り上げられるかは分かりません。
    しかし、新たにわかることはあるはずなので、エピソード9が公開された暁には、ここで推測したことと新たにわかったことをまとめた新しい記事を書きたいと思います。


    拙文でしたが、最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

    不明な点や、こうじゃないかという点などがありましたら、是非コメントに書き込んでいただきたく思います。

     
     
    ビートルズのことを書きたくてnote始めてみました。 拙い文章ですが、よろしくお願いします。

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