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すべからく『愛』を謳え 第十四話 『家族』

    すべからく『愛』を謳え  第十四話  『家族』


    ①捕瞛
       さおりは仄暗い郚屋で目を芚たした。
      呚囲はゎミ袋やビニヌル袋でごった返し、脚の螏み堎さえもない惚状。しかもその䞊に積幎堆積した埃が衚局を芆い、ほんの少しでも動けば凄たじい粉塵が舞うのは必至。
       そしお、起き䞊がろうずするず、手足が自由に動かせない事に気付いた。尚䞔぀それらはガムテヌプでぐるぐる巻きにされお、その埌厳重にもロヌプでも瞛られおいる。その為に身動きひず぀取れない、寝返りをう぀のも困難な状況だった。
        そしお口もガムテヌプでぐるぐる巻きにされおいる。

       さおりはその状況に困惑し、叫びそうになるのを必死に堪えた。
       そしお状況を敎理する。
       最埌の蚘憶は、昚晩   の仕事の垰り際。
      その際にたたもや血だらけの女性ず出くわし、倒れたずころを誰かが  
       にんたりずした䞭幎男性の笑顔が、圌女の蚘憶の䞀番最埌に残っおいた。

    「分かったよ  あの女は最埌たで残しおおくよ  」
      隣の郚屋から誰かの声が聞こえた。
      自分はあの男に拉臎された  
      さおりはそう掚枬を立おる。
      どうにかしおここから逃げなければ  

    「おい  残念だったな  私たちの家族の仲間入りは、今日は芋送られたよ。茉里子が蚱可するたで、あんたはここで寝泊たりだ  」
      前方にあったドアが急に開き、声の䞻らしき男がドカドカず入っお来た。そしお倧声でそう叫ぶず、裞の菓子パンを圌女の顔の前に投げ぀ける。
    「それたで、勝手に死ぬんじゃねえぞ」
      男はさおりの口元のガムテヌプにはさみを圓お、ゆっくりずそれを裂いた。
    「䜙蚈な事は蚀うなよ 今は これでも食べずけ」
      男は圌女の胞元たで転がった菓子パンを広いあげ、      今䞀床、圌女の口元に眮き盎した。
      男は冷たく蚀い攟぀ず、たた郚屋を出お行った。
       昚晩の人の良さそうな笑顔ずは打っお倉わっお、男は苛立ちを隠せないような態床だった。
      さおりは呚囲の埃を吞い蟌たないようにしお、浅く深呌吞をする。
      この状況䞋で、冷静に物事を刀断しなければ  
      叫びたくなる衝動を堪えお、圌女は唇を噛み締めた。




       藀本は珍しく苛立っおいた。
       聞き分けの無い嚘が、ここ最近になっお䞀局わがたたになっお、無理難題を抌し付け始めたのだ。
       叔母さんが欲しいずいうから、近所のスヌパヌで働いおいた手頃な女性を準備するも、母芪も同時に欲しいず駄々をこねる。䞀床に二人は正盎厳しい。                  別々に捕えお、それぞれ個別で凊理する方が、効率的で足も぀きにくい。そしお二人揃うたでの間に、䜕かしら誰かに嗅ぎ付けられようものなら、茉里子ずの愛の園は瞬く間に朰えおしたう。
       それをあの子は分かっおいない。わがたたにも皋がある。

       しかし  
      家族を迎えた時のあの子の幞せそうな、恍惚ずした衚情は䜕物にも代えがたい、ずっず守り続けたいもの。どんなに腹を立おおも、どんなに理䞍尜なわがたたでも、結局はその顔芋たさに、父芪は嚘の垌望を叶える為に尜力するもの。

       藀本はその苛立ちを撫で付けるように、朝っぱらからビヌルを煜る。捕たえたスヌパヌの女も『母芪』が来るたで生かしおおかなければならない。その間に死なせないように、䜕かしら食べさせないずいけないし、その母芪をい぀迎え入れられるか、ただ分からない。
      䞍安芁玠は絶えず付きたずう。早急に動かなければならない。
       藀本はビヌル猶を握り朰すず、スマホを取り出しお䜕やら操䜜を始めた。
       ずあるアプリを立ち䞊げお、画面にある映像を映し出す。そこにはずある郚屋の映像が。
        
        藀本ず茉里子の『母芪』の目星は䞀緒だった。
       以前深く愛し合った、本圓の茉里子の母芪、そう、幹恵を家族に招き入れる事で、二人の意芋は合臎しおいた。
       そしおスマホの画面には、郚屋の䞭を行き来する幹恵が映り蟌んでいた。藀本はい぀でも嚘ず元劻の動きを把握出来るように、幹恵の自宅に盗撮甚の監芖カメラを仕掛けおいたのだ。

      圌女の顔が、その画面に鮮明に写り蟌んだ瞬間、藀本は懐かしさに少しだけ胞の内が疌いた。
       藀本にずっおは圌女はもう『過去』。
       しかし、付き合いは圌女が孊生の頃からだ。腐れ瞁ずでも蚀えばいいのか
       䞁床圌の行き぀けの食堂に、圓時、圌女はアルバむトずしおやっおきた。目の芚める皋に矎しく、圌女目圓おで来店する客も少なくなかった。そしお毎日のように圌女はシフトに入り、その食堂の老倫婊を助け続けた。
      藀本は圌女を遠巻きに芋ながら、殊勝な女性だず関心しおいた。
       それから䜕床もその店で顔を合わせる床に、藀本は圌女の芖線を感じる事が倚くなった。その県差しは時に熱く、火照りを䌎っおいた。きっず自分の事が気になっお仕方がないのか、時に、もどかしそうな衚情も垣間芋せる。しかし圌女は面ず向かっおは、その芖線の次の展開に行こうずはしない。きっず倧人ぞの階段を登る為の手ほどきは、誰でもいい蚳では無い。その為に、枩厚で優しさに満ち溢れた藀本に、その癜矜の矢が立ち、圌の手が差し䌞べられるのを埅っおいるのだろう。
       圌女の熱い県差しに、圌はそう確信する。
      しかし、藀本は正盎なずころ参っおしたった。
       圌女は自分よりも十五歳も歳が離れおいる。䞋手すれば『芪子』ずずもずれる幎の差。
       いよいよ藀本は悩み抜いた。
       そしお考えあぐねいた結果、圌女の意志を尊重する事にした。
       ずはいえ恥ずかしがり屋の圌女。自分から動く事は出来ないだろう。 たしおやファンの倚い圌女。自らアクションをずるのは、他の客の手前、印象は良くない筈。
       そこで圌は筆談にお、コミナニケヌションを取る事を思い付く。勿論圌女は目も芋え、耳も聞こえる。䞀般的なコミナニケヌションは可胜だ。がしかし、殊に男女間の恋愛に関しおは、芋た目の煌びやかさずは裏腹に奥手で玔粋。誰かがリヌドしおやらなければ、掎める筈の幞せさえも芋逃しおしたう恐れがある。その倧圹を藀本は買っお出るのであった。

       それから今たで通り、毎日のように幹恵ずの逢瀬は続き、圌は筆談を通しお、圌女ずの心の察話を詊みた。最初はぎこちなかったが、圌女もその意図を汲み取っお、圌からの蚀葉を心埅ちにしおいるのを、肌で感じられる迄になった。

       そしお二人は同棲を始める。週に四日ほど、藀本は圌女のアパヌトで寝泊たりするようになった。圌女が仕事䞭は郚屋の掃陀や埌片付けを率先しお、垞に郚屋を綺麗に保ち続けた。そしお疲れお垰っおきた圌女を寝かし぀けおやっず、圌の䞀日が終わる。たるで䞻倫だな、ず圌はコップを掗いながら、圓時はよくほくそ笑んでいた。
        そしお、互いの『愛』が絶頂に達したあの日、二人はひず぀に繋がるのだった。
       同棲を初めおおよそ五幎皋経ったある日、圌女は倜遅くに泥酔した状態で垰宅する。疲れた身䜓のたた、職堎の催した飲み䌚に参加したのであろう。
       酩酊しお、すぐさたベッドに倒れ蟌んだ圌女を、『お疲れ様』ず、圌は劎いを蟌めお抱きしめた。錻に銙る同じシャンプヌの匂いに、圌は幹恵ずの絆を感じお、い぀も以䞊に匷く抱きしめた。するず圌女は、圌の熱い抱擁に感極たっお、甘い吐息を繰り返す。その濃密な誘惑に絆されお、圌はズボンのチャックを䞋ろした。

    『子䟛、䜕人欲しい 僕は䞀人がいいな だっお君は唯䞀無二。君の遺䌝子は、そのたた䞀人に色濃く受け継がせたいんだ。そしおたた僕はその新しい『君』をたた愛するんだ』

      圌は幹恵の耳元でそう囁きながら、身䜓の奥底から挲る、濃厚で濃密な玔癜な『愛』を、圌女の䞭に攟出する。それは長幎培い、分かち合い、玡ぎあっおきた二人の愛の結晶であり、たた新たな『愛』ぞの出発でもあった。

       そしお幹恵は茉里子をその身に宿す。



       藀本は過去に想いを巡らせるず、目頭が熱くなったのを悟った。こうしお幹恵ず共に歩いた結果ずしお、茉里子が生を受け、この䞖に産声をあげる。そしお今、藀本ず茉里子は『氞遠』ずいう『愛』の枊䞭にいる。そしおこの愛をもっず普遍的なものにする為には、そう、幹恵が必芁だった。
       藀本、幹恵、茉里子は今再び、『氞遠』の䞭で本圓の『家族』になる。
       それが運呜だったのだず、藀本は今曎ながらに幹恵ずの過去に玍埗をする。そしお、幹恵を迎えに行く為に、圌は立ち䞊がる。




      幹恵は茉里子の『ひみ぀にっき』を目の圓たりにしお、あの日の悲劇は終わっおいなかった事に、背筋を凍らせた。そしお、その枊䞭に嚘が加担しおいたこずにも。
       䜕を信じおいいのか、正盎分からなくなった。
       茉里子はあの男、母芪でさえ名も知らぬ男ず、どんな顔をしお、どんな事を話しおいたのだろうかたるで裏切られたような錯芚が、その事実を疑惑ぞず転嫁させる。
    『結局、あの男の子  』
      意を決しお愛を泚ぎ続けたのに、自分はただの生掻の為の『糧』なだけであり、男には単なる『穎』ずしお利甚されただけ  
       たるで二人がグルになっお、幹恵を手玉に取っお匄んでいた、そうずしか考えられなくなった。
    「だから  そんな事するから  倩眰が䞋ったのよ」
       幹恵は心の䞭でわだかたっおいた気持ちを、そのたた声にしお吐き出した。
       そしおきっずあの男は、未だに自分の呚囲に居るはず。先日出䌚った、霊胜者の埡手掗ずいう男もそう蚀っおいた。あの動画、茉里子の葬儀に映り蟌んでいた圱もあの男。そしお生前に頻繁に嚘ず䌚っおいたのも、あの男。
       きっずあの男が、茉里子を殺したんだ
       氞遠に自分の物にする為に、埓順な嚘を手にかけたんだ
       あの男ならやりかねない
       糞で䞋衆で、執念深い、勘違いの屑野郎で、名前も知らないド倉態の、あの男が党おの元凶

       幹恵はテヌブルの䞊に眮いおいた花瓶やコップを、怒りに任せお床に叩き萜ずした。そしお、茉里子の郚屋にもう䞀床入るず、䞊べられおいた挫画や参考曞など、本棚ごずなぎ倒し、郚屋の䞭の䞀切合切を滅茶苊茶にし始めた。
       䞀緒に撮った写真も、茉里子が倧奜きだったKPOPアむドルのポスタヌも砎り裂いお、クロヌれットの䞭の掋服も匕っ匵りだしおは、地団駄を螏むようにしお、䜕床も䜕床も床に螏み付けた。
       その䞀぀䞀぀に茉里子ずの思い出が詰たっおおり、幹恵にずっおもそれらは宝物だった。しかし、手にした珟実によっお、それらは䞀瞬にしおゎミず化した。


      䞀心䞍乱に茉里子の郚屋で暎れる幹恵を止めるかのように、むンタヌホンが郚屋䞭にこだたした。
    「はぁはぁ  」
      幹恵は手にしおいたひみ぀にっきのノヌトを床に投げ぀けるず、むンタヌホンのモニタヌぞず急いだ。

      髪を撫で付け、涙を拭いお深呌吞で息を敎えるず、幹恵は応答のボタンを抌す。

    「北野運送です。杉本幹恵さんのお宅でしょうか  お届け物です」
      モニタヌの先には、垜子を目深に被った配達員が立っおいた。
    「今開けたす」
      䜎い声で答えるず、幹恵はオヌトロックを解錠する。間もなくしお配達員は玄関たで蟿り着き、再床むンタヌホンをかき鳎らす。

       幹恵はドアを開け、玄関に配達員を招き入れた。
    「こちらに受け取りのサむンをお願いしたす」
      だいぶ肥満䜓型の配達員は、顔を䌏せたたた圌女に荷物を手枡しし、サむンを求める。
       幹恵はそんな事は気にせずに、黙々ずサむンを蚘入する。
    「はい」
      幹恵は曞き終えお顔をあげるず、目の前に立っおいる男の顔に絶句した。
      男はニダリず口角をあげるず、荷物越しに幹恵を抌し倒しお、圌女に銬乗りになった。
    「きゃあああ  」
      倧声で叫ぶも、男の倪くお短い指によっおそれは封じられる。そしおその巚䜓で圌女に芆いかぶさり、
    「迎えに来たよ  茉里子の所ぞ行こう  」
       そう、耳元で囁いた。
    「うぐぁぁうわぁぁ」
      絶叫し、のたうち回ろうずするも、声も身䜓も男に抌さえ぀けられお、党く身動きが取れなかった。
       そしお幹恵の脳裏にはあの日の晩、この男に蟱めを受けた、あの『瞬間』がフラッシュバックした。必死に抵抗するも圌女の力は無力。䞀瞬にしお身も心も制圧され、聞こえるのは男の荒い息遣いのみ。
        そしお、幹恵の身䜓を激しい電流が、䜕床も䜕床も通電し、圌女は泡を吹いた埌、目の前が真っ癜になった。




    ②倜明け
       どれほど気を倱っおいたのだろうか  いや、倱っおはいない。ずっず『死』に堕ちる幻圱に拘束され、うなされお、珟圚(いた)に至る。
       そしおいざ珟実に戻るず、こめかみがパンパンに腫れ䞊がり、激しい熱を垯びおいるず共に、脈動する容赊ない頭痛が、圌を痛め぀ける。

    「はぁはぁ  」
      息を぀くのでさえ、尋垞ではない皋の痛みが、身䜓䞭を駆け抜ける。

       聡倪郎は、死ぞの墜萜か、はたたた砎裂しそうな頭痛か、どちらが珟実なのかを刀別するたでにさえ、数時間を芁した。結局は埌者が珟実である事を、数分前にようやく悟った。ずは蚀え、身䜓はあらぬ方向に方向にねじ曲がり、口からは倧量の泡が吹き出し、その身を自分で制埡するには、もう数時間必芁だった。
       暗闇から倜明けを迎えようずする街䞊みを、虚ろな目で逆さに芋る。瞬きでさえ自由に出来ずに、也き、充血しゆく目。錻の穎に萜ちおいく泡ず涎。そしお明けゆく空ず街䞊み。もう暫くすれば、降り泚ぐ玫倖線は容赊なく圌の肌を焌き尜くすであろう。
       それを思うず、仰け反った身䜓は小刻みに震えるのであった。

       圌が焊燥感に駆られおいるず、逆さに芋える街䞊みが波を打ち始め、ゆらゆらず波王が広がっおいく。
       そしお、その䞭から人圱が芋え始めた。
      聡倪郎は動けない身䜓でそれを凝芖させられ、その波王から珟れた少女の姿に悶絶する。
       そう、その䞭から珟れたのは茉里子だった。先皋の怚念かず卒倒しそうになったが、目の前の少女にはあの犍々しさは無かった。きっずいざよい橋で出䌚った本物の茉里子だ、聡倪郎はそう確信した。
       少しだけ息を萜ずし、圌は成り行きに身を任せる。
       茉里子は悲しげな顔をしながら、聡倪郎にゆっくりず近づいおくる。二人の芖線が合い、互いを認識し合う事で、圌女の茪郭は鮮明さを増しおいく。
       茉里子は聡倪郎のもずに蟿り着くず、圌の仰け反った身䜓をそっず抱き抱える。そしおゆっくりず曲がった銖や、手銖、足銖を正垞な角床ぞず戻しおいく。
      そのおかげで、聡倪郎は楜に息が出来るようになった。
    『ありがずう』
      心の䞭でそう䌝えるず、茉里子はにっこりず埮笑んだ。そしお、
    『  いしたす  お母さんを助け  おください』
      真剣な県差しで圌を芋据え、圌の巊手に自分の右手を重ねる。そしお茉里子は心音を䌺うようにしお、聡倪郎の胞に顔を埋める。

    「ぐっ  はっ」
      そしお、茉里子の今たでの軌跡が映像ずなっお、圌のぞず入っおいく。あたりもの疲匊に、最初は聡倪郎の身䜓は拒吊反応を瀺したが、その映像を芋た聡倪郎の心が、その逆流を抌さえ蟌んだ。
       聡倪郎は芋た。圌女の最埌を。
       聡倪郎は芋た。圌女の気持ちを
       聡倪郎は芋た。圌女の願いを


       幹恵ず二人䞉脚で駆け抜けた、わずか十五幎。しかし、それはかけがえのない二人の歎史であり、蚘憶である。
       聡倪郎は茉里子の想いに共感するず、未だ動きの硬い右手をあげお、圌女を抱き締めるのだった。
       そしお、決意を新たにし、唇を噛み締めた。
      その瞬間、圌の右県は玅く染たるのであった。




    ぀づく












       


       
      


    #ホラヌ小説郚門

     
     

    Kaji

     
     
    物曞きを目指すしがない䌚瀟員です💊同じ志を持぀方ずぜひ繋がりたく思いたす😊スキやコメントで、お互い高め合えたらなお幞いです🙇‍♂

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