
【ショートショート】マッチョ華道 文武両道 [毎週ショートショートnote]
マッチョ華道 文武両道
「昔々、東の国で、代々華道師範を務める家の若者は、華道の修行を積みながらも、武人として身を立てる夢を諦め切れず、日々鍛錬を重ねていました。
ある日のこと、帝の姫が重い病に罹り、心を閉ざしてしまいました。花を好む姫のため、帝は華道の大会を開き、国中から優れた華道家を集め、花を活けさせました。若者も参加しました。
そうして活けられた花々を、姫は、見るとはなしに眺めました。どれも素晴らしい出来栄えでしたが、姫の表情は変わりません。しかし、最後、若者が活けた花の前に来て、若者を見、その表情がぱっと晴れ渡りました。活けられた花よりも美しく、咲き誇るようでした。
それから、姫の病は順調に回復し、喜んだ帝は、姫を若者に娶せました。若者は、姫の夫として数々の武勲を打ち立てました。
後に知られたことですが、姫は、帝に夫を選ぶよう強いられたことから、心を患ったのでした。それというのも、候補の男性は皆細身で、姫の好みではなかったのです。そこへ現れたのが、あの、筋骨隆々たる若者でした。
この故事から、華道を嗜む者は同時に身体を鍛え上げることが、かの国の伝統となりました。文武両道と言われています。それで、かの国の華道家は、皆、筋肉質なのです。
おしまい」
(以上516文字)
**以下 おまけ**
亡き妻によく似た、幼い息子の愛らしい顔を見詰め、父親は、思った。この子には、花が似合う。とりわけ、白い百合など、最高だ。
「お姫様の病気がなおって、よかったね」
笑ってそう言った息子の顔は、しかし、すぐに曇った。
「おれも、もっとからだをきたえて、きんにくをたくさんつけないと、お姫様を助けられないかなあ」
父親は、慌てて言った。
「いや、お前は、今まで通りで充分だ。そのままで大丈夫だよ」
息子は、剣術の修行を始めていた。しかし、体質的に、筋骨逞しくはなりそうにない。が、それでかまわない。この子には、この子の強さがある。だいたい、この、妻の忘れ形見の、少女のように可愛らしい子が、筋肉隆々になったら――悪夢だ。
「そう? よかった」
ほっとしたように言った息子に、父親は、内心、安堵の胸を撫で下ろしたのだった。
了(おまけ359文字 合計875文字)
今回、こちらのお題に参加させていただきました。
どうもありがとうございます。
前に参加した作品はこちらです。
本作は、拙作長編ファンタジー小説シリーズ〈隻翼の竜の書〉の『霜夜の星』のスピンオフですが、本作のみでもお読みいただけます。