
初めての体験
エステサロンの扉を押すのは生まれて初めてだった。
店内は異国情緒漂うお香が香り、象の置物が並んでいる。
「本日はどちらを?」
「あの、丸ごと、いい感じにしてください」
店員は一瞬固まり、にっこり頷いた。「では全身コースですね」
まず顔に、ぬるい何かを塗られた。
「フェイシャルです。お肌のターンオーバーを促します」
「ターンオーバー……お肌が寝返りを?」
「まあ、そうですね」
店員は否定しなかった。寝違えなきゃいいけど。
次は背中に温かい石を並べられた。
「これで老廃物を流します」
「どんどん流しちゃってください」
想像しただけでトイレに行きたくなった。
痩身エステでは、腹に謎の機械を当てられた。
「脂肪を温めて燃やします」
「燃えたぶんは、どこへ?」
「……空気中に」
私は自分の脂肪を吸い込まないように息を止めた。
最後に脱毛を受けた。
「これで生えなくなりますか」
「六回から八回はかかりますね」
「授賞式には間に合わないか……」
「授賞式?」
「実は、小説の公募でグランプリを」
店員は目を輝かせ、仕上げに髪まで巻いてくれた。
鏡の中には、知らない美女がいた。
「先生、堂々と行ってきてください」
先生と呼ばれるのは初めてだった。
会場のホールは眩しかった。私は背筋を伸ばし、壇上に一番近い席に座った。司会者が告げる。
「それでは、グランプリの発表です」
私は立ち上がりかけ、ドレスの裾を整えた。
呼ばれたのは、知らない名前だった。
中腰のまま固まる私の前で、グランプリの人は壇上に登り、インタビューを受けた。会場は聞き入っている。
「続いて、次点の皆さま。お一人ずつ、一言どうぞ」
招待状の「次点」の文字が今さら目に刺さる。勘違いしてエステまで行った自分が惨めで、周囲の視線が痛い。冷や汗が止まらなかった。
先に立った人たちが、喜びの言葉を簡潔に述べて頭を下げていく。最後に、マイクが私に回ってきた。
「気持ちよかったです、ナマステ」
思わず両手を合わせていた。会場は静まり返り、それから、なぜか一番大きな拍手が起こった。
(了)
先生、おめでとうございます!
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
コッシーさんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#チャレがや #エステ
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。