メインコンテンツへスキップ
見出し画像

初めての体験

    ( #ショートショート  本文:853字)

     エステサロンの扉を押すのは生まれて初めてだった。


     店内は異国情緒漂うお香が香り、象の置物が並んでいる。
    「本日はどちらを?」
    「あの、丸ごと、いい感じにしてください」
     店員は一瞬固まり、にっこり頷いた。「では全身コースですね」

     まず顔に、ぬるい何かを塗られた。
    「フェイシャルです。お肌のターンオーバーを促します」
    「ターンオーバー……お肌が寝返りを?」
    「まあ、そうですね」
     店員は否定しなかった。寝違えなきゃいいけど。

     次は背中に温かい石を並べられた。
    「これで老廃物を流します」
    「どんどん流しちゃってください」
     想像しただけでトイレに行きたくなった。

     痩身エステでは、腹に謎の機械を当てられた。
    「脂肪を温めて燃やします」
    「燃えたぶんは、どこへ?」
    「……空気中に」
     私は自分の脂肪を吸い込まないように息を止めた。

     最後に脱毛を受けた。
    「これで生えなくなりますか」
    「六回から八回はかかりますね」
    「授賞式には間に合わないか……」
    「授賞式?」
    「実は、小説の公募でグランプリを」
     店員は目を輝かせ、仕上げに髪まで巻いてくれた。

     鏡の中には、知らない美女がいた。
    「先生、堂々と行ってきてください」
     先生と呼ばれるのは初めてだった。

     会場のホールは眩しかった。私は背筋を伸ばし、壇上に一番近い席に座った。司会者が告げる。
    「それでは、グランプリの発表です」
     私は立ち上がりかけ、ドレスの裾を整えた。

     呼ばれたのは、知らない名前だった。
     中腰のまま固まる私の前で、グランプリの人は壇上に登り、インタビューを受けた。会場は聞き入っている。

    「続いて、次点の皆さま。お一人ずつ、一言どうぞ」

     招待状の「次点」の文字が今さら目に刺さる。勘違いしてエステまで行った自分が惨めで、周囲の視線が痛い。冷や汗が止まらなかった。

     先に立った人たちが、喜びの言葉を簡潔に述べて頭を下げていく。最後に、マイクが私に回ってきた。

    「気持ちよかったです、ナマステ」

     思わず両手を合わせていた。会場は静まり返り、それから、なぜか一番大きな拍手が起こった。

    (了)

     先生、おめでとうございます!


    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
    コッシーさんの企画に参加します。
    よろしくお願いします。
    #チャレがや #エステ

    では、今日はこのへんで。
    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。

    #エステサロン #フェイシャル #ターンオーバー #痩身エステ #公募 #グランプリ #先生 #次点 #ナマステ

    あなたへのおすすめ