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切り抜き、どうだ?

    ( #ショートショート  本文:756字)

     僕は紙を切り抜くのが好きだった。雑誌の端、レシートの数字、広告の角。世界の断片を切り取るのは快感だった。

     チラシの「半額」を切り抜けば、スーパーから半額商品が消えた。
     時刻表から「遅延」を切り抜けば、駅のアナウンスが自信に満ちた。
    「本日も問題なく運行しております!」
     回覧板の「掃除当番」を切り抜くと、家の前の落ち葉が風にさらわれた。
     世界が僕のハサミに合わせて変容していく。

     ある夜、ふと思いついた。人生も切り抜けるのではないか。

     過去の「余計な一瞬」を切り抜いてみる。胸が軽くなり、代わりに机に真っ白な紙片が増えた。切り抜いたはずの言葉が、手元ではただの白い余白に変わっていた。その紙片だけが、確かな手触りを持って残った。調子に乗って「言わなくてよかった一言」も切り抜くと、その日は不思議に穏やかに過ごせた。

     最後に、失恋の帰り道や上司に叱責された時間をまとめて切り抜いた。ハサミを入れた瞬間、街の喧騒がふっと途切れ、記憶の前後が不自然に繋ぎ合わされる感覚があった。それでも羽が生えたように心が軽い。

     机には「嫌な思い出」の紙片が山積している。無色のはずの紙が、夕日に照らされてキラキラと輝いた。僕はそれらを画用紙に貼り付けた。出来上がったのは、奇妙で前衛的なコラージュだ。
     見つめていると、辛かった出来事もただの面白い模様に見えてくる。それは僕の人生の欠落でありながら、同時に僕だけが知っている世界の裏側のようだった。
    「これはこれで、何かに使えるかも」

     その時、ぐうっと腹が鳴った。空腹を覚えて冷蔵庫を開けると、お気に入りのプリンが入っていた。それを取り出し、テーブルへと運ぶ。ふと、「賞味期限」を切り抜いてみようかと思ったが、それはやめた。

     期限があるからこそ、この一口はこんなに甘くて美味しいのだ。


    (了)

     先日、ちょっとお高い「焼きプリン」を買ってきました。おいしかった!


    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
    甘野充さんの企画に参加します。
    よろしくお願いします。
    #アマノ文筆クラブ #切り抜きどうだ


    TALESにて、アマノ文筆クラブ作品を連載中。毎週木曜6:30をお楽しみに。

    では、今日はこのへんで。
    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。

    #切り抜き #チラシ #半額 #時刻表 #遅延 #回覧板 #掃除当番 #ハサミ #人生 #コラージュ #プリン #賞味期限

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