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Photo byishi99

ありがとう0円

    ( #ショートショート  本文:970字)

     20xx年、0円紙幣が発行された。

     発端は、あるファストフード店の金額表だった。
    『ありがとう 0円』
    「感謝の気持ちは無料です」という、誰も深く考えなかった一文がSNSでバズり、「じゃあ感謝にも通貨をつけよう」という、誰も思いつかなかった発想が実現してしまった。

     店では商品の売り上げと並べて、「本日の感謝収入」を誇らしげに公開した。数字が増えるほど“いい企業度”が高くなるらしく、他業種もこぞって参入した。いい企業かどうかが数字で測れるなんて、なんて便利な時代だろう。

     やがて0円紙幣は商売だけでなく個人間にも広がり、「ありがとう」と言われたら支払うのが礼儀になった。礼儀とは、いつの時代も面倒くさい。

     0円は足しても掛けても0円なので、お釣りにも使えないし、両替もできない。つまり、価値はない。だが、人は価値のないものほど熱心に集める。
    使わないクーポンと利用していないポイントカードがそれを証明している。

     巷では「0円紙幣を何枚持っているか」が“いい人”のステータスとなり、
    人々はこぞって感謝を安売りし始めた。

     安売りされた感謝は、もはや賞味期限切れのパンより扱いが雑だった。
    会話の語尾には必ず「ありがとう」が付くようになり、日本語の言語体系が危ぶまれる事態にまで発展した。

    挨拶。
    「こんにちは、ありがとう」
    「今日はいい天気ですね。ありがとう」
    (なんか変だが、ここまでは許す)

    愛の語らい。
    「愛してるわ。ありがとう」
    「僕も愛してるよ。ありがとう」
    (愛の価値は0円だったらしい)

    学校での会話。
    「宿題忘れちゃった。ごめんなさい。ありがとう」
    「廊下に立ってなさい! ありがとう」
    (教育現場はすでに崩壊していた)

    銀行強盗。
    「金を出せ。ありがとう」
    「まだお渡ししていませんが、ありがとう」
    (もはや誰も状況を理解できない)

     もう何が何だか、感謝しているんだか、していないんだか。たぶん、してないよね。

     だが、言えば言うほど“いい人”に見えるのだから、人は言い続けた。0円紙幣の偽造、詐欺、闇取引が横行し、社会問題となったため、政府は日銀に増産を命じた。

     しかし、0円紙幣には貨幣価値がないため、作れば作るほど赤字になる。国民の心を豊かにするために、国の財布は貧しくなった。

     いつものことだ。ただより高いものはない。
     この国は、それをようやく思い出した。

    (了)

    これを読んでくださる皆さんに感謝!


    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
    甘野充さんの企画に参加します。
    よろしくお願いします。
    #アマノ文筆クラブ #ありがとう0円

    ストア、やってます。TALES作品を紙の本にしました。ここでしか読めない、作者あとがきを書きました。残りわずか。

    では、今日はこのへんで。
    はれるや( ´ ▽ ` )ノ。

    #紙幣 #ファストフード #感謝 #安売り #礼儀 #いい人 #ただより高いものはない

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