
掌編: 23歳、秋の食卓
借りた本の内容が重くて、考え事が増えた。
僕が気軽にコーヒー豆を挽き、ふわっと上がる香りに満足して、多少濃い目だったかなと思いつつも、「お客さんは気づかない」くらいに考えていた自分が気まずく思った。
陽や雨を受けて、幹を伸ばしたコーヒーは人間の都合で刈り取られる。それは米やトマトも同じで、命の時間をこちらの都合で終わらせて、こちらの命につなぐ行為。
そんなことが頭をぐるぐる廻る。
「どうした。神妙な顔つきで飯食って。
身体の調子が悪いのか?」
箸を止めてタツジュンが僕を慮る。
「ううん。全然そんなことないよ」
汁椀を握り直し、ふと浮かんだ。
「ねぇ、『いただきます』って食べる前に言うのは食べ物への感謝でしょ?
じゃ、『ご馳走様』はなに?」
タツジュンは眉間に皺を寄せ、たくあんに手を伸ばした。
「キンクマ、どうした?ご馳走様?
ああ、あれはな。食事がここに届くまでに関わった人たちの手間や働きへの感謝よ」
軽い咳払いのあと、
「昔は今みたいに、欲しいもんがすぐ手に入るわけじゃないだろ。客をもてなすために、あっちこっち走り回って食材を集めた。だから『馳走』なんだってさ。食べ物だけじゃなく、そこまでしてくれた人の手間にも礼を言うんだよ」と、タツジュンは説明してくれた。
僕は汁椀の中を見た。
だしも、味噌も、ねぎも、豆腐も、ここに来るまでにそれぞれの時間があったんだろう。
「じゃあさ、食事って最初も最後も、ありがとうなんだね」
タツジュンはたくあんを噛みながら、
「まあ、そういうこったな」とだけ言った。
僕はもう一度、箸を持った。
さっきまでと同じ味噌汁なのに、少しだけ味が違って感じた。