
え?森田さんは社会の先生でしょ?
取引先の森田さん(仮名)は、とても感じがいい。
業務上、定期的に電話で話すことがあるのだが、穏やかな話し方で、気まずくなると「へへへ」と笑って誤魔化す。いつもはちょっと頼りなさげなのに、いざというときは豊富な知識で頼りになる。
私は電話で話す森田さんに、「この人、社会の先生っぽいな」と思っていた。
私の中で社会の先生とは、穏やかで朗らか。
ちょっとめんどくさくて、いい加減なようでいて、いざというときには頼れる存在。
そして、よくコーヒーを飲んでいる。
そんなイメージだ。
少し前、電話でしか話したことのなかった森田さんと、直接会って打ち合わせをすることになった。
さぞかし社会の先生だろう。
もっさりした感じの、朗らかな社会の先生が来るに違いない。
フフフ。
コーヒーの香りを漂わせてね。
そう思っていた。
ところが、目の前に現れた森田さんを見て、私は固まった。
ピシッとアイロンのかかったシャツ。
細身のパンツ。
スタイリッシュなメガネ。
細身の体型。
そう。
森田さんは、数学の先生だったのだ。
衝撃的だった。
もっさり朗らかな森田さんは、どこにもいない。
あの森田さんが、まさかこの森田さんだったとは。
恐れ入谷の鬼子母神。
衝撃が大きすぎて、その日の打ち合わせ内容は、よく覚えていない。
正直、森田さんが何を言っても、「sinθ、cosθ、tanθ、∑、∫……」に聞こえていたと思う。
え?
森田さん、何話してるの?
だって数学の先生だったから。
打ち合わせの途中、森田さんの上司がペットボトルの飲み物を何本か差し入れてくれた。
「ありがとうございます」
私はコーヒーをいただき、森田さんはお茶を手に取った。
そして、森田さんは言った。
「僕、コーヒー飲めないんですよ。へへへ」
やっぱり。
森田さんは、社会の先生じゃなかったのだ。