メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bypasteltime

姉の話

    あれは私が20歳前後の頃。

    姉の運転する車に乗せてもらったとき、CDをかけていた。
    当時の私は、出したものを元の場所に戻すという機能がほぼ搭載されていなかったので、適当にその辺にあった別のケースにしまった。

    姉が言う。
    「ねぇ、決まったケースにちゃんと戻して?
    嫌いなんだよね、バラバラになるの」

    そう。姉はきちっとした性格だ。
    曲がったことが大嫌い。
    基本的には優しい。ただ、本当に曲がったことが嫌いなのだ。

    でも私は、それを無視した。
    「まあいっか」で乗り切れると思っていた。

    「ねぇ。ケース、バラバラにしまわないで?」

    私は姉の忠告を無視した。
    そう、二度も。

    結果、山に連れて行かれ、捨てられそうになったのだ。
    姉のお仕置きは、日本昔ばなしの匂いがする。

    車を停めた姉は、静かに、しかしはっきりとした口調で言う。

    「おい、降りろ」

    最初は「うわー怒ってるな」くらいに思っていたけど、途中から「これ、本当に降ろすやつだ」と理解した。

    私は意地でも降りなかった。
    ここで降りたら、普通に置いていかれると思ったからだ。

    実際、あの人はやる。
    そういう人なのだ。

    ここで降ろされたら、歩いて帰る前に日が暮れる時間帯だ。
    猪や猿や鹿が出てもおかしくない場所だ。

    自宅から車で数分で、随分ちょうどいい場所があるなと、感心している場合ではなかった。

    姉は、基本的には私の味方だ。
    小さい頃から、意地悪な人や嫌な人からは守ってくれた。

    ただし、それは「外敵」に対しての話であって、こちらがルールを破った場合は、普通に敵側になる。

    しかも、わりと強めの敵。

    怒り方も、ただ感情的というよりは、
    「最後までやりきるタイプ」なので、途中でうやむやになることがない。

    謝ったら終わり、みたいなシステムではなく、しっかり最後まで追い込まれる。

    なので私は、両親よりも姉のほうが怖い。

    仲はいい。
    普通に会話もするし、親友のように仲良しだ。
    でも同時に、「ここを超えると終わる」というラインが明確に存在している。

    姉は、そういうシステムなのだ。

    そして私はその日、山には捨てられなかったが、
    もう二度と姉の持ち物を雑に扱わないと、強制的にインストールされた。
    今のところ、アンインストールはできない。

     
     

    猿吉

     
     
    食いしん坊ロマンチストの猿吉(さるきち)です。日々の出来事などを綴るかわEお猿さん。結構更新するけど覚悟はE?箱根駅伝

    あなたへのおすすめ