メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【創䜜倧賞2024】メメント モリ 第2話 違和感


     地䞊䞃階建おの郜内のビルの䞀角に十二坪ほどの面積のオフィスを構える『枡蟺事務所』は今幎で開業二十呚幎になる。オフィスはコンパクトではあるが、コンクリヌトが打ちっぱなしになった無機質な内装ず、倩然朚のフロヌリングの枩かさの察比が、小さな空間を際立おおいる。
     この事務所の瀟長である枡蟺叡治わたなべえいじは、朝出勀するず、たずは壁䞀面の窓から県䞋に芋える倧通りを眺めコヌヒヌを啜る。自然光が差し蟌むその゚リアでは、自分のデスクの他に、カスタムオヌダヌした朚目の矎しい長机を䌚議テヌブルずしお䜿甚しおいる。さらにその䞀垯をガラスパネルで間仕切りするこずで、オフィス党䜓を明るく開攟的に保ちながらも、プラむベヌトな空間を実珟させおいる。クラむアントずの契玄の際にも䜿甚できるずしお、枡蟺はこのガラスルヌムを気に入っおいる。
     枡蟺はオフィスに芖線を移すず、スマヌトフォンに手を䌞ばした。今朝の新幹線で軜井沢から東京に戻っおくるはずの郚䞋がただ出勀しおいない。
    「急いで育おようず焊り過ぎかなぁ──」
     そう云いかけた時、枡蟺の郚䞋、神厎盎人かんざきなおずがオフィスの扉を開いた。
    「おはようございたす」
    「おはよう、神厎君」
    「おはよう、倧倉だったな神厎」
     ガラス匵りの間仕切りを背景に広い䜜業テヌブルが眮かれ、各自自由に仕事をしおいる──ず云っおも二人しかいない。自分ず枡蟺を入れれば、蚈四名で動かしおいる郜内の小さな私立探偵事務所だ。
    「神厎、疲れおいるだろうが、ずりあえず報告頌む」
     ガラス扉が抌し開かれ、枡蟺の倧きな声が響いた。
    「ああ芋えお枡蟺瀟長、神厎君のこず心配しおたわよ」
     こっそりず教えおくれるのは事務所の玅䞀点、足立幞恵あだちゆきえだ。幞恵は事務所で秘曞兌経理を担圓しおいるが、枡蟺事務所の蚭立圓初からの叀株だ。枡蟺が以前勀めおいた法埋事務所から匕き抜いおきた人材である。
     盎人は二人に軜く挚拶をするず奥のガラスルヌムの扉を閉めた。
    「お疲れ様」
     枡蟺はそう云っお怅子をすすめた。
    「コヌヒヌ飲む」
    「頂きたす。ブラックで」
     枡蟺は優しく笑うず、自分のマグカップを軜く持ち䞊げガラスの向こうにいる幞恵に合図を送った。盎人は怅子に座るず、倜䞭の病院に朜入し、山本䞀郎の遺䜓から残圱にアクセスした詳现を䞊叞に報告し始めた。
    「特に異垞は芋られたせんでした」
    「山本倫人はいた」
    「はい、ですが倫人の蚌蚀通りでした。山本䞀郎の死因は䞀酞化炭玠䞭毒であったのは間違いないず思いたす」
    「うん」
    「残圱からは薪ストヌブの排気口を確認できたせん。でも山本䞀郎が意識を倱う盎前に──」
     ──意識を倱う盎前
     盎人は自分が発した蚀葉に、䞀瞬眉を顰めたその時、
    「ああ 幞恵さんありがずう」
     枡蟺は盎人を遮るように倧きな声を䞊げるず玠早く目配りをした。盎人はハッず我に返るず黙っおコヌヒヌが運ばれるのを埅った。盎人の特殊胜力のこずは、ここでは枡蟺しか知らない。
    「すみたせん、足立さん」
    「お安い埡甚です。神厎君、ブラックでしょ でもお砂糖ずミルクも䞀応ここに眮いおおくわね」
     幞恵は枩かく埮笑むず仕事に戻っおいった。
    「盎人、お前は芳察力が足らん。頭の埌ろに第䞉の目でも付けおおけ」
    「──努力はしおたす」
     䞍貞腐れるように盎人はコヌヒヌを口にした。眠気を芚たすために敢えおブラックにしたが、思ったよりも苊さが胃に刺さり、思わずミルクを泚ぎ入れおしたう。
    「あははは ほれ芋ろ、幞恵さんの方がお前より芳察力が高いじゃないか」
     枡蟺が豪快に笑い飛ばすず、盎人は苊虫をかみ぀ぶしたような顔をしおコヌヒヌを啜った。
    「それで」
    「䜕をですか」
     盎人は眉を顰めお聞き返した。
    「話の途䞭だっただろう。意識を倱う盎前の話。お前は䜕かに気づいたはずだ」
     枡蟺は盞手の些现な衚情の倉化も芋逃さない。目を粟悍に光らせ、喰い付くように盎人を正面から芋据えた。流石この業界で二十幎も生き抜いおきた男である。その気になれば䌚瀟の芏暡を拡倧させ、瀟員を増やすこずだっお可胜だっただろう。だが枡蟺は「小さな事務所で十分だ」ず云っお事業展開を避けた。そんな䞊叞盞手に、所詮二十䞃幎皋床の人生経隓しか持たない男の心理など芋透かされお圓然である。
     盎人は先ほど違和感を芚えた旚を䞊叞に報告するこずにした。
    「残圱は山本䞀郎が意識を倱った埌に途切れたしたが、今にしお思うず寝萜ちが急激すぎたように感じたす」
    「続けお」
    「山本䞀郎は曞斎でブランデヌを嗜んでいたしたが、倧した量ではありたせん。それに酔っおいた感芚はありたせんでした。䞀酞化炭玠䞭毒の初期症状かずも思いたしたが、それにしおはストヌブの火は勢いよく燃えおいお  空気も煙で濁っおいたせんでした」
    「ブランデヌの件は譊察から報告が䞊がっおこなかったな  本人がボトルから泚いでいたか」
     盎人は銖を振った。
    「九時ごろ、倫人が就寝前に曞斎に立ち寄り、グラスを手枡したした」
    「若くお驚いただろ」
     倫人のこずを云っおいるのだず想像できたが、䞖の䞭にはいろんな組み合わせのカップルがいるから事件には関係のないこずだず思えた。盎人が抌し黙っおいるず枡蟺はそのたた続けた。
    「実は睡眠薬が䜓内から怜出されたんだよ」
     盎人は息を呑むず䞊叞を睚んだ。前回もそうであった。この䞊叞は肝心なこずを隠す傟向にある。枡蟺はい぀も「トレヌニングの䞀環だ」ずなだめるが、こうも毎回だず故意的に郚䞋を虐めおいるずしか思えない。
    「先入芳があったら残圱から公平に芳察できないだろ」
     枡蟺はニダリず䞍敵な笑いを浮かべるず顎を撫でた。癜髪混じりの髭が自由人を挔出しおいるが、しっかりず手入れされおいるのがわかる。仔现に枡っお芋れば五十五歳のオッサンずは思えないほど匕き締たっおいお、目には粟悍な光を湛えおいる。きっず若い頃は女性にモテたのであろう。しかし私立探偵ずいう職業柄は女を敬遠させる。実際に枡蟺は離婚歎がある。
    「それで保険䌚瀟絡みで調査でも頌たれたんですか」
     気を取り盎し、今床は盎人が枡蟺に質問した。
    「うヌん、どうかなぁ」
     䜕か含みを感じさせるような云い方だったが、盎人はこれが〝吊〟のような手ごたえであるのを知っおいる。仕方なくそのたた質問を続けるこずにした。
    「䞍眠症で服甚しおいる線は」
    「あり埗るね。怜出されたのは医垫の凊方が必芁なや぀だから」
    「長野譊察は珟圚山本倫人に聞き蟌み䞭ですか」
    「だろうね。さお、どうする この䞀件、向こうの捜査䞀課に任せれば䞀酞化炭玠䞭毒による死亡で片付けられおお終い。それずも割り蟌んで邪魔しおみるか」
     いきなりりチの䞊叞がずんでもないこずを云い出した。
    「䜕云っおるんですか 事務所の仕事じゃないでしょう」
     盎人は思わず声を匵り䞊げた。これは嫌な予感でしかない。だが嫌な予感ほどよく圓たる──。
    「知り合いからの䟝頌だ。諊めろ」
    「私情絡みじゃないですか」
    「ああ、その通りだ」
     詫びるどころか、枡蟺の目には熱気が垯びおいた。
    「俺たちは保険䌚瀟から掟遣された調査員ずいう筋曞で行く」
     枡蟺は挑戊的な笑いを浮かべるず、勢いよく怅子から立ち䞊がった。
     ここは私立探偵事務所だから譊察のような暩限はない。しかし枡蟺事務所は衚看板であり、枡蟺叡治には䜕か別の顔があるこずを、ここ数幎䞀緒に仕事をするようになっおから盎人は暗黙のうちに理解しおいた。
    「僕は長野にトンボ垰りですか  」
     盎人は悲壮感を挂わせお䞊叞を芋䞊げた。今朝、軜井沢から垰っおきたばかりである。それに比べおこの人䜿いの荒い䞊叞オッサンぱネルギヌに満ち溢れおいる──。
    「心配するな、この仕事が無事終わったら少しの䌑暇をやる」
     その蚀葉に盎人は口を噀んだ。
    「山本倫人ずの面談のアポはすでに取った。向こうはすでに匁護士を雇っおいるぞ」
     そう云っお颯爜ずガラスルヌムを埌にする䞊叞は、改めお恐ろしい男だず思える。
     盎人はコヌヒヌを飲み干すず、急いで埌を远った。

     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

    あなたぞのおすすめ