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十冊のモテた本たち | シロクマ文芸部




     

    借りた本を、読まずじまいで返す。



    市の図書館で借りられるのは十冊まで。 

     
    返却期限は二週間。


    その本に予約が入っていなければ、延長で更に二週間。



    二週間前の私は、この十冊の本を全部読むつもりだったのだろうか。


    どう考えたって無理ではないか。


    週に五日仕事に行き、他にも予定がある。


    私は二週間後、この本を延長するのだろう。


    そして更に二週間後、未読の本を抱えた私は図書館へ行く。


    「全部読みました」という顔をして、返却コーナーへ。


    返したその足で、また小説のコーナーに移動して、懲りずにまた十冊の本を選んでいる。





    私は、ここにある本たちに旅をさせたいのだろうか。


    このお堅い市の管轄下に置かれている本を。


    我が家にホームステイさせたいのだろうか。


    読み切れないとわかっているのに本を選ぶ。


    上限いっぱいに本を借りようとする。




    そうか。  



    私は、本を選ぶ時間を楽しんでいるのだ。


    背表紙のタイトルに惹かれる。


    作家の名前に信頼を預ける。


    表紙の装丁の美しさに心奪われる。


    本を開く前の様々な情報を頼り、今日の十冊を抜き取っていく。


    本にも、縁というものがある。


    十冊借りて帰ったその日。


    まずはこの本から、と心に決めていた本を開く。


    十数ページを読んだところで、手が止まる。


    私の中に、内容が入ってこない。


    次の本を開いて読み始める。


    文体が高尚すぎて、ついていけない。


    そして、優先順位の低かった、ある本を開く。


    あら? 読みやすい。


    するすると話が入り、映像が浮かんでくる。


    私の中に、物語が浸透していく感覚がある。



    そう。

     

    だから私は、本をたくさん借りてみる。


    人と同じで、相性があるから。


    自分に浸透してくる本に出会えた時、


    私の中に一つまた、誰かの人生が滲んでくる。


    私は、私の人生しか生きられないけど、


    小説を読むと、主人公の心の中に自分を放り込める。


    どこにも行っていないのに、


    誰かの心の中にいる。



    返した本は、すぐには元の本棚に帰らずに、


    しばらく「返却された本」という一時置き場に置かれる。


    ここにある本は、誰かが選んでいた本なんだ。


    本当に読まれたかどうかは別として、


    貸し出されて、ちゃんと帰ってきた本。


    誰かが読んでみようと抜き取った本。


    誰かに選ばれていた、モテた本。


    私が読まずに返却した本も、


    「この本、誰かが借りてたんだ」


    と、次の誰かの目に留まるかもしれない。


    それはそれでいいじゃないか。


    私が読まなかった本が、


    次の誰かには、するすると浸透していくかもしれない。


    本を旅させるだけでもいい。


    我が家にしばらくホームステイして、


    また図書館へ帰っていく。


    そして、「返却された本」の棚に置かれ、


    誰かの目に留まり、


    今度はその人の家へ旅をする。


    誰かに選ばれて、


    また、モテた本になる。


    私が次に借りる本は、


    あなたが借りて読まなかった本かもしれない。


    そして、私も読めないまま、


    また次の誰かにつながっていく。









     
     
    「継続できている、未来の自分に会いたい」 それをモットーに、書いています。 noteは、私が自分であり続けるための大切な場所になりました。 テーマを絞らずに書いています。 もし、興味があるページがありましたら、クリックしてみてください。

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