
ТRPG物語 Session #0 テーブルトークロールプレイングゲームというボードゲームがある。 その遊戯の本質は、 選択と結果の積み重ねだ。
ТRPGというボードゲームがある。
その遊戯の本質は、 選択と結果の積み重ねだ。
決められた筋書きもない。
あるのは、その場にいる者達の意志とサイコロの偶然だけ。
それらが重なり、やがて壮大な物語となる。
それが、テーブルトークRPG。
これは、そんな冒険者達の冒険譚である。
窓から差し込む午後の光が、机の上に斜めの影を落としていた。
カーテンが風に揺れて、チョークの粉がかすかに舞う。
後ろの席では、誰かが小さく笑っている。
前の方では、先生の声が単調に続いているのに、半分くらいは誰も聞いていない。
シャーペンの音、ページをめくる音、ヒソヒソ声、
全部が混ざって、この教室だけのリズムを作っている。
ふと顔を上げ、窓から外を見ると
桜と青い空が妙に眩しい。
この何気ない時間が、ずっと続くと思っていた。
突然に後ろから軽く小突かれた。
振り返ると、いつものあいつが、妙に楽しそうな顔をしている。
「今日の放課後さ、テーブルトークRPGやらね?」
あまりにも唐突で、思わず「は?」って声が出た。
「いやだから、TRPG。サイコロ振ってさ、冒険するやつ。ルール簡単なの持ってきたから」
机の下から、くしゃっとした紙の束を取り出して見せてくる。
授業中なのに、やけにワクワクした顔だ。
「今?」
「いや、放課後!でも軽くキャラだけ決めようぜ」
前では先生が黒板に何か書いているのに、こっちはもう別の世界の話だ。
「お前は戦士な。絶対戦士」
「なんでだよ」
「顔がそれっぽい」
意味がわからない。
けど、気づけばシャーペンで、ノートの端に“名前”なんて書いている自分がいた。
窓の外では、風がまたカーテンを揺らしている。
教室のいつもの空気の中に、少しだけ違う物語が紛れ込んだ気がした。
ノートの端に書いた“名前”は、思ったよりもそれっぽく見えた。
「じゃあ次、ステータスな」
あいつは小さなサイコロを机の上に転がした。コロコロと乾いた音が、教室のざわめきに紛れて転がる。
「おい、授業中だぞ」
少し焦りながら小声でそう言うと、
あいつはニヤッと笑った。
「だからいいんだろ」
意味がわからない。でも、その“意味わからなさ”が妙に楽しい。
「筋力は…っと。お、当たりじゃん。お前、ゴリゴリの前衛だな」
「だからなんなんだよ、それ」
「いいからいいから。ほら、次は敏捷」
サイコロを受け取る。ほんの少しだけ手の中で転がしてから、机の上に落とした。
コツン、と小さな音。
その瞬間――
なぜか、教室の音が一瞬だけ遠くなった気がした。
シャーペンの音も、先生の声も、誰かの笑い声も、全部が少し遅れて聞こえるような、不思議な感覚。
「……出た?」
あいつの声で、現実に引き戻される。
「……ああ」
目を落とすと、サイコロの目は“6”を示していた。
「お、やるじゃん。回避型もいけるな」
あいつは満足そうに頷いて、紙に何かを書き込む。
その横顔を見ながら、ふと思う。
ただの遊びのはずなのに。
たったそれだけのはずなのに。
どうしてこんなに、胸の奥がざわつくんだろう。
「じゃあ最後。名前決めろよ、戦士」
「……」
さっき書いた“名前”を見つめる。
少しだけ迷って、ゆっくりと口を開いた。
「――レイ」
「お、いいじゃん。“戦士レイ”な」
その瞬間。
教室の窓の外で、強い風が吹いた。
カーテンが大きく膨らみ、桜の花びらが一気に舞い上がる。
ひらひらと、光の中で踊る花びら。
その景色が、なぜか――
知らない“どこかの世界”と重なった。
「物語、開始だ」
あいつが、そう呟いた。
軽い調子のはずなのに、その一言だけは妙に重く響いた。
そして――
放課後。
俺たちは、本当に“冒険”を始めることになる。
まだその時の俺は、
それがただの遊びじゃ終わらないなんて、
これっぽっちも思っていなかった。