
燈の守り人『あかりび祭』【感想】――舞台の感想を書こうとしたら、娘と一緒に灯台沼へ落ちて、霧笛が牛になった話
「おかあさん、わたしこれ、知ってる」
持ち帰った袋に印刷されたロゴを指さして中学2年の長女が言った。
「ほらこのロゴ。伊豆に行ったとき、あったやつ」
そのひと言で、二年前の南伊豆の記憶が蘇った。
◇
話は、名古屋へ向かう数日前に遡る。
発端は知人からのメール。
「仕事で関わってるんだけど、興味あったらぜひ観てほしい」
添えられたURLを開いて思わず、うわっと声をあげた。名古屋までの距離を考えて、行くことを諦めていたイベントが表示されていた。
何かあった? と声をかけてきた夫に、私はそのまま訊いてみた。
「これ、前から行きたかったイベントなんだけど、私行ってもいいかな。名古屋なんだけど」
「行っていいよ。俺も予定あるから一緒には行けないけど、こっちのことは心配ないよ」
私は、名古屋行きの切符を手に入れた。
灯台を擬人化したIP『燈の守り人』。
この存在を知ったのは二年ほど前。犬吠埼灯台をネットで検索していたときだった。
母の話にはときどき犬吠埼灯台が登場した。夏休みを過ごした親戚の家からは、遠く水平線と、風に波立つ海が見えていた。あのころはまだ霧笛が使われていて、霧の夜に響く牛の鳴くような音は、ヒトならぬものを小さな私に連想させた。
大人になってからも、犬吠埼には訪れている。子どもたちを連れて行きたくて調べたら、擬人化された灯台に出会った。なんで灯台が人なのかと最初は思ったが、見ていくうちに、魅力的な灯台たちのファンになった。
◇
2026年8月1日、名古屋。

『燈の守り人』の舞台イベント、あかりび祭。
声優陣の朗読劇が壇上で展開された。
コスプレイヤーが朗読に合わせて行う演舞と、映し出されたアニメーションが調和していた。俳優が演じる従来の演劇と異なる面が、『燈の守り人』の物語の構造と非常によく合っていた。精緻に再現された衣装を纏うコスプレイヤーたち。その演舞は、守り人の動の部分を生き生きと見せてくれた。声優が目の前で繰り広げる朗読劇は、守り人が実体のない存在であることを感じさせているのかもしれなかった。
声優の古川登志夫さんが室戸岬灯台の声を演じるのだが、台本を持ちすっと中央に立つだけで、舞台上の空気が変わっていた。温かく照らされていた感覚を、今でも思い出せる。声優として刻んできた長い時間が、灯台の守り人という役と一体化していたようだった。
犬吠埼灯台の声は阿座上洋平さん。灯台に思い入れはあったが、阿座上さんの活動自体はあまり知らなかった。いきなり舞台で声を聴いて、驚いてしまった。何故ならあまりにも、想像していた犬吠埼灯台の声そのものだったから。あの灯台は岩場に建っていて、ほぼ全周を岩に砕ける白波に囲まれている。そんな灯台の守り人として、低く強さのある、そして人情味ある声を想像していたのだ。
朗読劇のあとは出演された声優の皆さんによるトークショウもあり、浸っていたい気持ちは充分に満たされた。
ストーリーと声優陣に魅了された、あっという間のひとときだった。
◇
翌日、名古屋から帰宅した私を待っていたのが、冒頭の娘の言葉だった。
「伊豆で見たの、どの人?」
「えーと……あった、これ、この人!」

©︎燈の守り人製作委員会
「あ、見覚えある気がする」
長女はとってあったポストカードを探し出した。それには確かに同じ男の子のイラストと、石廊埼灯台の名前と守り人の紹介があった。
ちなみにこちらは、私が最初に出会った灯台。

長女は、二年前の伊豆旅行で石廊埼灯台の守り人のキャラクターに出会ったことを記憶していた。私の持ち帰ったパンフレットや台本、Webページの文章を片っ端から読み、灯台ひとつひとつをしばらく検索していた。
「おかあさん、次の旅行からは灯台のあるところにしよう。いつかキャラクターになってる全部の灯台に行きたい」
守り人マップというのがあるが、現在63基の灯台が載っている。その全部の灯台とはまた気の遠くなる話だ。
それでも、行けるところには一緒に行きたい。きっと、面白い。
舞台を観る。娘が石廊埼灯台を思い出す。キャラクターから灯台の歴史やレンズへ潜る。アーカイブを一緒に観る。
霧笛が鳴る。
「……牛でしょ」
「……確かに」
これを作り上げたおとなたちの想いは、わが娘に確実に届いた。
このIPから何を感じ、どんな想いが自分に生まれたのか。作り上げた方々と、わが娘と、まだ守り人たちを知らないひとに手渡したい。今その気持ちで満たされている。
(1,804字)
キャラクターその他の説明は、長女・秋桜の記事に書かれている。まずは覗いてみてほしい。感想を書くと言っていた娘が、気づけば私より先に、ずいぶん詳しい記事を公開していた。笑
この記事は、灯火杯 7th 2026 Summer に参加させていただいています。
灯火さん、今回もよろしくお願い致します。