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トレイルランニングと信頼性工学 第3講止まる時間はどこで増えるのか

    ――ボトルネックと復旧時間

    故障をゼロにするより、立て直せる仕組みを。

    ◼︎走行ペースだけでは説明できない

    同じ走力の二人でも、長距離レースの結果は大きく変わる。エイドで何を食べるか迷う。濡れた靴下を探す。ライトの電池が見つからない。こうした時間は一回なら数分でも、繰り返されれば大きな差になる。私は「止まった時間」を怠慢の証拠ではなく、設計を見直すための情報として扱いたい。

    ◼︎平均復旧時間という考え方

    設備保全では、故障から機能を回復するまでの時間を指標として考える。平均修復時間(MTTR)はその代表的な概念だ。ただし人の疲労や胃腸トラブルを機械故障と同一視して数値化するのは乱暴である。ここでは、トラブルをゼロにできなくても、気づいてから安全に立て直す手順を短くできるという発想を借りる。

    ◼︎エイドを小さな作業場にする

    エイドに着いてから次の行動を考えると、判断の回数が増える。飲む、食べる、ボトルを満たす、ゴミを捨てる、衣類を調整する、出発する。順序を決め、必要な物を同じ場所にまとめれば、作業を忘れにくい。デポ袋も「補給」「足」「防寒」「電池」と目的別に分ける。速さだけを追って必要な処置を飛ばすのではなく、安全に必要な行為を確実に終えるための標準化だ。

    ◼︎止まらないことと無理をすることは違う

    「停止を減らす」という目標は、危険な症状が出ても進めという意味ではない。低体温、意識の変化、強い痛み、呼吸の異常などがあれば、時間短縮より安全確保と必要な医療対応が優先される。短縮すべきは、迷い、探し物、準備不足から生まれる不要な停止だ。必要な休息は、システムを維持するための作業である。

    ◼︎記録の粒度を上げる

    時計に残る総停止時間だけでは、原因が分からない。エイド滞在、補給の立ち止まり、道迷い、衣類調整、身体の不調による休止に分けてみる。次に一つだけ改善するなら、最も頻度が高く、対策可能な停止を選ぶ。すべてを同時に変えると、何が効いたのか分からなくなる。

    ◼︎まとめ

    完走を近づけるのは、常に走り続ける根性だけではない。止まる理由を知り、必要な停止を守り、不要な停止を減らすこと。復旧時間を短くする工夫は、山での自由を増やす。

     
     
    トレイルランニングを通して、人間を研究する。」読書で得た知見と実体験をもとに、学問・文明・心理・社会・健康など多様な視点から考察しています。20講シリーズを中心に発信する個人の研究ノートです。一つの考え方・表現としてお楽しみください。

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