
見えてるよっ!|子育てエッセイ
わが家には、毎朝のルーティンがある。
息子が起きた瞬間から、そのルーティンは始まる。
そのルーティンとは、
息子による、息子のための、
「パパ・ママ驚かせ大作戦」
である。
ーーーーーーー
いつも平日は仕事があるため、朝5時頃に起床。
当然息子はまだスヤスヤ寝てる(なぜか起きてる日もよくあるけど)。
私が朝の支度をしていると、
「だだっだだだっだ!」
何かがリビングへ続く廊下を駆けていく音がする。
息子だ…!
顔を洗っていたり、クローゼットで服を選んでたり。
ちょうど私が廊下に背中を向けている時を狙って、その足音は背後を駆け抜けていく。
足音が向かった先は、リビングだった。

(いない…)
リビングに息子の姿はなかった。
ここで親がやるべきことは一つ。
"息子が起きてないと思っているフリ"
息子を探すのは御法度だ。
ーーーーーーー
そもそも朝の支度で忙しく、そんなに時間も余裕がない。
いつもどおり身支度を進めていると、
何かがソファの影から覗いていた。
(しまった、見つけちゃったか?)
そう思うと同時に、その気持ちは一瞬でかき消された。
よく見ると、覗いていたのは"息子"ではなかった。
息子の小さな"おしり"だった。

ソファの影から、息子のおしりがちょびっとだけ顔を出している。
(ちょっと!見えてるよっ!)
息子の大作戦は、早くも失敗に終わった。
ーーーーーーー
何も知らないパジャマ姿の小さなおしり。
かすかに動きつつも、獲物が前を通るのを健気に待ち続けている。
どうやら見えてることに気づいていない。
ここで親がとるべき行動は一つ。
"息子がまだ寝室で寝ていると思っているフリ"
だがしかし。
自信満々で待機しているその姿が何とも愛らしくて、声をかけずにいられなかった。
「おはよ!見えてるよっ!」
作戦が失敗したと分かったのか、息子は顔を真っ赤にして叫んだ。
「もーーーーーっ!!なんでみつけるんよっ!」
やっちまった…。
やるべきことは分かっていたのに。
息子の機嫌をとるべく、こちらも次の作戦に移る。
「ごめんごめん。じゃあパパが見てない時にもう一回隠れたら?」
「・・・。」
息子は無言で立ち上がった。
その瞳には強い決意が感じられる。
(ほっ…)
ここから先は、
出勤まで時間がない私の「驚かされ大作戦」の始まりである。
ーーーーーーー
私は身支度を再開してうろちょろ。
ちらっとソファを見ると、息子のおしりは消えていた。
(いつ飛び出して来るんだ…?)
なかなか息子が出てこない。
出勤時間が迫る。

もはやそのまま出勤しそうになって、息子が慌てる姿も見てみたい。
そう思うと同時に、激おこの息子の姿が頭に浮かんだので自粛した。
(そろそろ本当に時間ないんだけど…)
謎の焦りと緊張感を抱えつつ、キッチンに向かう。
(…居た!)
キッチンに入ってすぐ"それ"は目に留まった。
ゴミ箱のワゴンが、いつもの位置より前に飛び出している。
その背後から、何者か覗いていた。
息子だ…!

息子はこちらを見ていた。
というより、完全に目が合ってる。
(だから見えてるよっ!というかもう見てるよ!)
いや、むしろ今この瞬間こそ飛び出させるチャンスだ。
(こい!驚かしてくれっ!時間がないから!)
………。
ただ見つめ合う時間。
(いや、驚かさんのかーい!)
このタイミングで驚かさないというなら、
いつなら驚かすというのか。
驚かされた時のセリフまで用意していた自分が、ひたすら恥ずかしくなってきた。
もう私に残された時間はなかった。
作戦失敗。
目の前の強敵に背を向け、その場を去る。
その瞬間、
「わーーーーーっっ!!!」
ご近所迷惑でしかない爆音と共に、息子が飛び出した。
「わっ、わーー・・・」
作戦失敗かつ微妙なペースで出てこられたことで、リアクションが完全に消化不良。
当然、息子も消化不良。
「もーーっ!なんでもっとおどろかないんよーー!!」
「いやいやいやいや!見えてたじゃん!」
かくして2人の作戦は大失敗で終わると共に、
わが家の朝が始まった。
いつも朝はこんなドタバタなやりとりで始まる。
優雅で落ち着いた朝なんてやってこない。
むしろこんなドタバタな朝こそ、
わが家のルーティンと言った方が良いのかもしれない。
