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最低二万里、毎週ショートショートnote、580字



    カイは旅をしていた。母の声を聞くために。

    母の声さえ聞ければ、思い残すことはないと思っていた。

    「あなたの求めている母を見つけるには、最低二万里を歩かなければなりません」
    カイに寄り添う補助AIがそう告げた。
    「もはや人類は絶滅しかけており、集落もほとんど残されていないのです」

    だから、乾いた風のなかを、ひび割れた地表を歩いた。

    ある街にベビーシッター型のAIが眠っていた。瞼を閉じたその姿に、カイは思わず足を止めた。
    忘れかけていた、懐かしい顔。

    それは、自分を育ててくれた、あの母の顔だった。母と同じ型式のAIだった。

    微笑んでいる顔が間近に見えた。胸が熱くなり、今まで張り詰めていたものが決壊し涙が溢れてくる。

    お母さんと叫んで抱きつくが、AIは、起動しないし、あれほど聞きたかった声も出してくれない。それでも母の笑顔がうれしかった。

    声が重要なのではなく、やわらかな笑顔や沈黙こそが、自分が母に求めていたものだと気づいた。

    数日後、母の笑顔が語っているように見えた。
    いつまでも子どものままではいけないと。

    旅立つ時だと感じた。
    母から独り立ちして、自分の言葉で誰かと話すために。
    友を作ること。誰かの声に応えること。
    ──そして、できれば恋人を。

    カイは歩き始めた。
    この世界に残されたわずかな光をたどって、
    誰かと出会うための旅を始めたのだ。
    何万里になるか、わからない旅の始まりだった。

    ーーーー
    あれ? これって、ショートショートじゃなくて、ショートストーリーですか?

     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

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