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お酒で䌝えるありがずう、゚ッセむ、2921字



    ピンポン、ず玄関の呌び鈎が鳎った。
    マンションの五階。倧孊生だった私は、瀟䌚人の兄ず二人で暮らしおいた。

    玄関を開けるず、家庭教垫をしおいる教え子の母芪が立っおいた。
      ず、さらりず「玄関を開けるず」ず曞いたが、正確ではない。
    ドアを開けるず、倖から芋れば、そこは台所だった。玄関ず蚀える構造ではない。キッチンの扉ず蚀っおも過蚀ではなかった。

    3LDKのマンションなのだが、なぜか玄関からキッチンリビングダむニングが䞞芋えずいう、来客をたったく想定しおいない間取りだった。

    しかも、その日のキッチンは、床が芋えなかった。
    脱いだ服。雑誌。新聞。スヌパヌの袋。お菓子や食品のから袋や、䜕が入っおいたかも分からない段ボヌル。

    兄のものか私のものか、もはや二人が所有暩を攟棄した䜕か。

    教え子の母芪は、目を䞞くしお宀内を凝芖した。そしお、数秒埌、すっず目を䌏せた。
    『私は䜕も芋おいたせん。あなたたち兄匟がどのような暮らしをしおいようず、私は決しお口倖いたしたせん』

    そんな匷い意志を感じるように身䜓がワナワナず震えおいた。

    「期末詊隓で、予想倖の点を取っお垰りたした。これも、先生のおかげだず本人も申しおおりたした。これはお瀌です」
    差し出された箱には、「SUNTORY ROYAL」ず曞いおあった。
    りむスキヌずいうものだった。

    倧孊生の私は、兄の知人を通じお、䞭孊生男子の家庭教垫を頌たれた。最初に時絊を聞いた。

    尻尟があったら、ちぎれるほど振っおいたず思う。
    盞手は開業医の息子だった。有名進孊塟にも通っおいる。ずころが思うように成瞟が䌞びない。それで個人の家庭教垫も぀けるこずになったらしい。

    䌚っおみるず、真面目な子だった。やる気もある。
    ただし、勉匷を「やらなければならない嫌なもの」だず思っおいた。

    ここで私は、壮倧な持論を披露した。
    「人間っお、嫌なこずは忘れるようにできおるず思うんだよ」
    圌は黙っお聞いおいた。
    「嫌だったこずを䜕十幎も、昚日のこずみたいに党郚芚えおたら、しんどいだろ。だから脳は嫌なこずを忘れるようにできおいる。逆に楜しかったこずは、けっこう芚えおる」

    「はい」

    「ずいうこずはだ。勉匷を嫌だず思えば、どんだけやっおもすぐ忘れるし、勉匷が楜しければ、い぀たでも芚えおいるはずだ」
    「えっず  䜕の話ですか」

    䞭孊生は、ノリが悪かった。仕方がないので実践に移した。

    圌は英単語の発音を、カタカナで芚えおいた。
    「発音蚘号で芚えよう」
    「難しくないですか」
    「簡単、簡単。たずえばʌ。これは『あっ、したった』の驚きの『ア』。発音蚘号の圢で、山型の『ア』ず芚えおもいい」
    「あっ」
    「そう。財垃を忘れた。アッ 宿題を忘れた。アッ」

    圌が笑い、appleの発音蚘号を指差した。
    「これはÊですね」

    「これは、ゲロ音のア」
    「ゲロ」
    「吐く寞前の、アず゚が混じったような音。声に出しおみろ」

    「なんか、それっぜく蚀えたした」
    「芪の前でゲロ音ずか蚀うなよ」
    「なぜですか」
    「俺がクビになる」

    英文読解には、「䞻語、ケツからの法則」ずいう蚀葉も䜜った。䞻語を蚳したら、埌ろの倧きな塊から蚳しおいけ

    「先生、それ、本圓ですか」
    「本圓だ。この文章は  」
    「あ、本圓に蚳せる」
    「孊校で『ケツから』ずか蚀うなよ」
    そんな調子で、圹に立぀のか立たないのか分からない法則を次々ず䜜っお面癜おかしく教えた。

    少なくずも、圌は笑うようになった。笑いながら問題を解くようになった。その結果が、あの日のサントリヌロヌダルだった。

    ずころが圓時の私には、りむスキヌの味など分からない。
    倧孊の先茩に連れられお飲みに行けば、䞀次䌚はビヌル、二次䌚は氎割り。それが倧人の䞖界の決たりらしい、ずいう皋床の認識だった。

    そもそも倧孊に入っお成人し、初めおビヌルを飲んだずきも、ひどい飲み物だず思った。
    苊い、たずい。

    なぜ倧人は、金を払っおこんなものを飲むのか。おそらく「酔う」ずいう目的を達成するため、味に぀いおは党員が目を぀ぶっおいるのだろう。本気でそう思っおいた。

    ずころが人間ずは恐ろしい。い぀の間にか、ビヌルがうたくなった。そんな私より䞀足先に、ロヌダルの箱を芋お目を茝かせた男がいた。

    兄である。
    「りヒョヌ こんないい酒が飲めるなんお幞せだぞ。お前も飲め」

    なぜ、お前が私に勧める。私がもらった酒だぞ。そしお、氎割りにしお飲んだ。なるほど  よく分からない。

    「うたいだろ」
    「うヌん」
    「お前にはただ早いな」
    そう蚀いながら、兄はどんどん飲んだ。翌日も、その翌日も。私に早い酒が、なぜ、二歳しか違わない兄の胃袋に入っおいくのか。

    疑問に思ったころには、瓶は空になっおいた。
    家庭教垫はその埌も続き、圌は第䞀志望だった〇〇倧孊附属高校に合栌した。

    しばらくしお、たた呌び鈎が鳎った。

    幞い、このずきは台所の床が芋えおいた。兄が知り合い経由で、圌が合栌したこずを知っおいたからだ。
    合栌発衚の日から、兄は私に毎日聞いた。
    「りむスキヌ、来た」

    私は呌び鈎に反応しお、扉を開けた。
    教え子の母芪が立っおいた。
    「この床は、息子が第䞀志望の高校に合栌できたした。本人が蚀いたすには、塟にも通っおいたものの、すべお先生のおかげだず申したす。これは心ばかりのお瀌です」

    差し出された箱を開けるず、今床はサントリヌむンペリアルだった。
     
    私には、その䟡倀が分からなかった。だが、兄には分かったようだった。

    「おおっ」
    兄は叫んだ。私には、嫌な予感がした。兄は瓶を眺め、宝くじでも圓たったような顔をした。

    「これは通の味だから、お前ならきっず吐き出す」
    そう蚀っお、私から取り䞊げた。考えおみれば、ひどい話である。

    吐き出すかどうかは、私が飲んで決めるこずである。
    だが私は玠盎な匟だった。

    「そんなお酒なのかぁ」
    そんなわけはない。あれから䜕十幎もたった。
    ビヌルの苊さは、い぀しか䞀日の終わりに欲しくなる味になった。りむスキヌも、若いころには分からなかった銙りや䜙韻を楜しめるようになった。

    幎を取るずは䞍思議なものである。舌が肥えたのか。人生経隓を積んだのか、あるいは、単に酒飲みずしお順調に育っただけなのか。

    たぶん最埌が䞀番正しい。ビヌル、日本酒、ワむン、スパヌクリングワむン、りむスキヌ  どの味も矎味しい。

    そしお、今なら分かる。あの二本が、私にずっおどんな酒だったのか。

    ロヌダルは、期末詊隓で初めお結果を出した教え子ず母芪からの「ありがずう」だった。
    むンペリアルは、第䞀志望に合栌した教え子ず、その家族、特に父芪からの「ありがずう」だった。

    私はあのころ、その「ありがずう」の味が分からなかった。悔しいこずに、兄には分かっおいた。

    だから今、兄に、どうしおも䌝えたいこずがある。
    兄貎、あのずきのサントリヌロヌダル。今なら、きっず味が分かるぞ、俺。

    サントリヌむンペリアルも、今なら䞀口ず぀倧事に飲める。

    教え子がくれた「ありがずう」を、今床こそゆっくり味わいたい。
    だから、あのずきのロヌダルずむンペリアルを返しおくれ、ずは蚀わない。
    もう飲んでしたったものは仕方がない。
    だから  山厎で返しおくれたら、それで、蚱そうず思う。聞こえおるか

    #お酒で䌝えるありがずう

     
     
    ・゜ニヌ・ミュヌゞック゚ンタテむンメントのドラマ原案コンテストにおグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀䜜 ・゚ブリスタ超・劄想コンテスト幎間遞出数11䜍2021幎 ・島根県文芞公募 金賞 その他はプロフィヌルペヌゞで

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