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紫陽花男子、毎週ショートショートnote、410字




    六月の演劇部の稽古の舞台に、佐原が立っていた。紫陽花のようなやつだな、とふと思う。相手によって色を変える。誰にでも合わせるようで、実は誰にも染まっていない。

    佐原は主演だ。劇の中で死ぬ少年の役。リハーサルのたびに、佐原が少しずつ透明になっていく気がした。感情を表に出すことなく、泣きもせず怒りもせず、ただ台詞の温度だけで、観る者の心を動かしていく。

    「なあ、佐原」
    言いかけてやめる。
    「お前のそういうところ、いや、お前のこと、好きだよ」って。でもそれは、紫陽花の花びらを一枚だけ千切って自分のものにしようとする行為かもしれない。

    彼は僕の気持ちに気づいているのかもしれない。けれど何も言わない。それが彼のやり方だ。
    公演の日、カーテンコールの拍手の中、佐原がこちらを一度だけ見た。口の形が「ありがとう」と動いた。俺はただうなずいた。

    帰り道、小雨が降っていた。傘をささずに歩く彼の後ろ姿を見て思った。

    いつか、きっと。いつか、きっと。

     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

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