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忘年怪異、毎週ショートショートnote

    会社の忘年会に僕は来ていた。
    社長の長い挨拶の末、乾杯して会が始まる。

    隣の同僚がビール瓶を持ち、泡が絶え間なく溢れる琥珀色の液体を、僕のコップに注ぎ始めた。名前を呼ぼうとして、喉元で言葉が止まる。そいつの名前が記憶から剥がれ落ちている。いや、それだけではない。さっき前で挨拶をしていた社長の名前すら思い出せない。

    わけがわからず、口の中がカラカラに乾いてくる。
    ビールを一気に飲み干すと、苦味が舌の奥を引き裂いた。こんなに不味かっただろうかと疑問が浮かぶ。目の前で同僚がまた瓶を差し出している。名前を思い出そうとするが、思い出せない。乾燥した唇がこわばり、次第に自分の皮膚が砂漠化していくような感覚に襲われた。

    一つ思い出したことがある。俺は引きこもりで仕事なんてしたことがなかったんだと。
    空っぽのグラスを置いたとき、空間の輪郭が滲んで消えていった。それでも部屋の中のざわめきだけは、妙に現実味を持ってまとわりついていた。

     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

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