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氷河期世代AD、テレビの片隅で。#21「戦友ディレクターと競い合い、スーパーサイヤ人になった」

    30歳になった頃。

    僕は、キー局のレギュラー番組を担当していた。

    ロケバラエティ番組だった。

    ディレクターは、

    みんな個性的だった。

    変な人ばかりだった。

    ■井下さん…個性的なディレクターたちを、カリスマ性でまとめていた。
    でも本当は一番やばいヤツ。

    ■柿山さん…どんなVTRでも面白く仕上げてしまう、番組のエース、
    哀川翔みたいな声。

    ■古田くん…甲子園常連の野球部出身。
    元パチプロ。

    ■伴田さん…「お上手ですね~、
    お上手ですね~」が口癖。

    ■藤田さん…365日24時間、いつもお酒くさい。酔拳を使える。

    ■竹中さん…当時まだ30代だったのに、見た目が70代のおじいちゃん。

    ■大村さん…AGA治療で発毛を頑張りながら、同時に脱毛にも通っていた、
    何を目指していたのか、今でもよく分からない人。

    でも、みんな抜群に優秀だった、

    抜群に変だった。

    そして全員、

    「自分のVTRが一番面白い」

    と本気で思っていた。

    スタジオ収録が終わると、

    毎回のように飲みに行った。

    気づけば朝だった。

    8時間くらい、同じ店にいたこともある。

    ずっとテレビの話をしていた。

    「今日のあのくだり強かったな」

    「いや、お前のVTR、編集長いわ」

    「いや、絶対オレの方がおもろい」

    みんな、ずっと張り合っていた。

    時には、本当に殴り合いになった。

    どっちのVTRが面白いか。

    そんな、バカみたいな理由で。

    そのせいで手を骨折したディレクターもいた。

    今思うと意味不明である。

    でも、不思議と嫌な感じではなかった。

    たぶん、

    みんな本気だったのだと思う。

    面白いVTRを作ることに。

    視聴率を取ることに。

    テレビに。

    あれが戦友ってやつだったのかもしれない。

    一生の仲間なんだと思う。。。

    そしてこの番組の演出担当の局員は、

    かなり厳しい人だった。

    でも、優しさもあった。

    そして何より、

    ちゃんとプレイヤーだった。

    自分でロケへ行く。

    自分で編集する。

    自分でVTRを作る。

    だから、言葉に説得力があった。

    “キングダム”で言うなら、天下の大将軍、王騎。。。

    それまで僕が会ってきた他のテレビ局の中には、

    編集室にほとんど来ない人もいた。

    13時間遅刻してきて、
    不機嫌なままVTRを見て、
    「おもしろくない」とだけ言う人もいた。

    自分では何も作らず、
    あとから評論家みたいにダメ出しだけする人もいた。

    もちろん、
    頭も良くて、
    口も達者だった。

    でも僕は時々、

    「この人、自分で一本作れるのかな」

    と思ってしまうこともあった。

    でも、この番組の演出の局員は違った。

    評論家じゃなかった。

    現場の人だった。

    だから、みんなついていった。

    そして他の局員たちの空気も、
    今までとは違った。

    偉そうな人がいなかった。

    「仕事をくれてやってる」

    みたいな感じもなかった。

    外部スタッフとも、ちゃんと対等に話していた。

    たぶん、テレビ局にもカラーがあるのだと思う。

    この番組は、本当に忙しかった。

    1週間ロケ。

    1週間編集。

    終わったら、またロケ。

    そしてまた編集。

    その繰り返しだった。

    寝る時間は、かなり少なかった。

    でも、不思議と楽しかった。

    AD時代の忙しさは、

    ただ苦しかった。

    でも、この頃の忙しさは違った。

    自分で企画して、

    自分で撮って、

    自分で編集して、

    自分で笑いを作る。

    昔、

    テレビの前で憧れていた、

    “テレビディレクター”

    みたいな生活だった。

    たぶんこの頃、

    僕はかなり鍛えられたと思う。

    ロケ。

    編集。

    構成。

    ナレーション。

    演出。

    全部。

    気づけば、

    毎週何本もVTRを作っていた。

    世の中には、

    「量より質」

    という言葉がある。

    でも僕は、

    どちらかと言うと、

    「質より量」

    だと思っている。

    もちろん、

    最初から質の高いものを作れれば理想だ。

    でも僕にはそんな才能はなかった。

    だから数をやるしかなかった。

    他のディレクターが一日一本ロケに行くなら、

    僕は二本。

    二本行くなら、

    僕は三本。

    とにかく現場へ行った。

    無職だった時期が何か月もあった。

    だからなのか、

    ロケに行けること自体が楽しかった。

    朝早くても、

    夜遅くても、

    現場にいるだけで嬉しかった。

    たぶん僕は、

    他のディレクターよりも、

    たくさん失敗したと思う。

    でも、

    その分たくさん経験できた。

    一本目では分からなかったことが、

    十本目で分かる。

    十本目で分からなかったことが、

    百本目で分かる。

    そんな感じだった。

    気付くと、

    少しずつVTRの作り方も分かるようになっていた。

    ゲームで言うならレベル上げだ。

    そしてある日、

    僕は気付いた。

    AD時代の戦闘力が5だった僕が、

    少しだけ強くなっていることに。

    サイヤ人が、

    スーパーサイヤ人になるみたいに。

    もちろん今でも、

    完全体にはなれていないけど。

    とにかく、毎日がウソみたいに楽しかった。


    そんなある日、運命的な出会いが訪れた。


    #テレビ業界 #実話
    #創作大賞2026 #お仕事小説部門


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    バラエティー番組のディレクター。東北出身の氷河期世代。「元気が出るテレビ」に憧れバイトADからテレビ業界へ。佐久間さんでもマッコイさんでもない普通の僕。AD時代の過酷な経験、震災、家族の事、ほぼほぼ実話の話を書きました。今もテレビの現場で働いています。登場人物や設定は一部変更。

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