
【硝子の味方】Fragment #05 ―砕かれた正義、折れた芯の音。―
深夜の法律事務所。窓の外に広がる湾岸の光を背に、私は一人、林檎を剥いている。 シュル、シュル。静寂の中に響く音の隙間に、時折、あの「音」が混ざる。四年前、駅のゴミ箱に彼女が「あの子」を投げ捨てた時の音だ。
かつて太陽のように真っ直ぐだった彼女の瞳が、光を失い、深い淵のような「空っぽの目」に変わったのを見た瞬間。私の中で、自分という人間の「芯」が、根元からパキリと音を立てて折れた。
それは、どんな法廷の木槌(ガベル)の音よりも大きく、鋭く、私の鼓動に響いた。
依頼人を、組織を守るために一人の女性の真実を「無効化」した報酬が、この袖口で冷たく光る銀のカフスボタンだ。一度折れた芯は、二度と元には戻らない。剥き身になった林檎は、空気に触れたそばから茶色く変色していく。それはまるで、隠しようのない私の罪そのものの色のようだ。
剥きかけの果実をかじる。舌の上に広がる瑞々しさの奥底には、常に、酸化した林檎のような鉄錆(てつさび)の味がこびりついている。
私は、折れた芯の破片を抱えたまま、拾い上げたあの青い万年筆を握り直す。 彼女が「あの子」と呼び、命を託していたそのペンだけが、私の犯した罪を、そしてこの壊れた世界を修復する唯一の「鍵」になると信じて。
今夜のBGM。
組織という巨大な力に抗えず、折れてしまった「芯」の痛み。 泥に塗(まみ)れた夜景を眺めながら、かつて自分が信じていた、あの青い空のような誠実さを想う。
Honesty is such a lonely word, everyone is so untrue (誠実さはあまりに孤独な言葉。誰もが嘘をついている)
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この物語が、あなたの夜に一滴の蒼を添えられたでしょうか。もし、心のどこかが微かに震えたなら、その共鳴を『スキ』という形で預けていただけたら嬉しいです。それは、私たちが繋がっている唯一の証になるから。
硝子の味方:目録(Digital Archive Index)
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