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【硝子の味方】創作者の声明 ― 硝子の檻に、一滴のインクを。 ―

    バスの車窓から流れる、眩しい夜景を眺めていました。 その光の中に、かつての私や、今のあなたが閉じ込められている「見えない檻」が透けて見えた気がしたのです。 なぜ、私はこの物語を書くのか。2月の連載開始を前に、その理由を綴りました。


    バスの車窓から、ライトアップされた眩(まぶ)しい都内の景色を眺めていました。

    窓の向こうを行き交う見ず知らずの人。 そして、同じ車内に揺られている見ず知らずの人。

    皆、どこかへ向かい、それぞれの日常を生きている。 皆それぞれに幸せそうで、自由に見えるかもしれません。

    けれどふとした瞬間、思ってしまうのです。

    この車窓から見える湾岸の輝きを、かつて希望を持って見上げていた誰かや、今まさに、冷たい檻(おり)の中から見つめている誰かが、この街のどこかにいるのではないか、と。

    眩しい光の奔流(ほんりゅう)の中に、かつての茜(あかね)が、今の栞(しおり)や美鈴が、私と同じように揺られている。そう思うと、見ず知らずの人々の背負っているものが、ほんの少しだけ透けて見えるような気がするのです。

    誰もが、外からは見えない自分だけの「檻」を抱えている。それは、この物語の舞台となる「組織」の不条理だけではないかもしれません。 どうしても乗り越えられない心理的な壁や、自分自身を縛り付けてしまう過去の記憶、あるいは、誰にも打ち明けられない孤独。

    形は違えど、誰もが何らかの「檻」と向き合い、懸命に今日を生きているのではないでしょうか。

    乗り越えるべき壁は、形を変えて何度でも私たちの前に現れます。その正体が何なのか、名前をつけることさえ難しいまま、立ち尽くしてしまう夜がある。

    かつての私がそうであり、そして今も、この先の私もそうであるように。

    私は、そんな終わりのない葛藤の中に今もいます。だからこそ、この物語を綴る必要がありました。

    「あの子」を捨てた夜のこと

    私が描く物語の中に、自分の魂そのものだった青い万年筆を「あの子」と呼び、絶望の末にゴミ箱へ投げ捨ててしまったひとりの女性がいます。

    彼女の指先の震え、喉の奥で凍りついた言葉、そして「あの子と一緒に、自分も消えてしまえばいい」と願ったあの夜の静寂。

    それらは、私自身の記憶にある「痛み」と分かちがたく結びついています。

    信じていた絆が音を立てて崩れ、真っ直ぐに歩んできた道が、巨大な力によって突然閉ざされたとき。

    私を救ってくれたのは、誰かの慰めではなく、皮肉にもその「痛み」を言葉に変えようとする意志でした。

    それは、言葉を奪われた私が、もう一度自分を取り戻すために必要な、たった一つの道だったのかもしれません。

    真実(資料)と、想い(日記)の共作

    この物語の主人公たちは、私にとって単なるキャラクターではありません。私の心の断片を預け、この「硝子の城」という舞台に立ってもらった二人の女優です。

    栞という女性は、私が日々の生活の中で「こうありたい」と願いながらも、なかなか届かない『揺るぎない誇り』や『凛とした強さ』を演じてくれています。現実の私は彼女ほど聡明ではありませんが、不条理に立ち向かうための理想の姿として、彼女はこの舞台で知略を巡らせてくれました。

    一方で、茜という女性は、喉の奥に氷を抱え、沈黙を選び続けた私の内の「痛み」や「祈り」を体現しています。彼女がペンを握り直し、自分自身の言葉を刻もうとする姿は、私自身の魂が再生していくプロセスそのものでもありました。

    演出家としての私の仕事は、ビジネスの論理(資料)という厳しい照明の下で、彼女たちがどう震え、あるいはどう凛として立ち振る舞うのかを、舞台の袖から見守ることだけです。

    論理という舞台装置は私が整え、そこに宿る命は彼女たちが吹き込む。その共作こそが、[資料]と[日記]という二つの入り口を持つ、この物語の正体です。

    書き換えることのできない「真実」を

    万年筆のインクは、一度紙に落とせば消すことはできません。

    巨大な力によってどれほど「嘘」に書き換えられようとも、私たちが確かに感じた痛みと、守りたかった誠実さだけは、誰にも奪うことはできないはずです。

    「硝子の味方(ガラスノミカタ)」というタイトルには、祈りを込めています。

    誰かに裏切られ、何も信じられなくなった夜に、そっと差し出される「白湯(さゆ)」のような温もりでありたい。 冷たい硝子の向こう側で、独り震えているあなたの、静かな「味方」でありたい。

    この物語は、私の物語であり、そして今、檻の中で息を潜めている「あなた」の物語でもあります。

    2月の連載開始に向け、まずは彼らが抱える孤独な「断片(エッセンス)」を、この場所へ置いていきます。

    それぞれの情景を五感で、より深く感じていただけるよう、物語には一曲ずつ、私が大切に選んだ音楽を添えました。

    もしよろしければ、BGMを聴きながら、夜景の美しさの裏側に隠された「檻の音」に、静かに耳を澄ませてみてください。

    一綾(いちあ)


    【Update:2026/01/30】 この信念から生まれた物語の全記録を、『目録(Digital Archive Hub)』として公開しました。 蒼いインクが描く軌跡を、ここから見届けてください。



     
     
    数字と論理の世界に身を置きながら、夜は言葉の綾を編む。 科学捜査ミステリ『TOKYO SILENT FILES』創作大賞2026入選(推薦:文藝春秋)・連載中/連作『硝子の味方』完結/短編集『綾なす日々に、一音(ひとね)の物語を。』随時更新。 声なき声を物語に変えて届けます。

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