
月を見る|シロクマ文芸部
月を見ることが出来なくなった日のことは、鮮明に覚えている。
その日はいつもより仕事が遅く、
終電ギリギリの最寄り駅からの帰り道だった。
ふと空を見上げた時に、
月と目が合った。
気のせいであると言う人もいるだろう。
それは違う。
確実に目が合ったのだ。
そこからだ、月が見られなくなったのは。
見られなくなったのに加えて、
満月の日は視線を感じるようになってしまった。
その視線というのは、クラスで当てられた時に集まる視線ではない。
上司が私に用事があって近づいてくる時に感じる、あの種類のものである。
困るのは視線だけではない。
人の目を見ると、そこに月がいる。
黒目のまんなかに、小さく白い。
だから誰とも目を合わせられなくなった。
それでは、親しくもなれない。
親しくなれなければ、「月が綺麗ですね」と言う機会も来ない。
あれがI love youの訳だという話を、どこかで読んだことがある。
これを読んでるあなたへ。
何かおかしいと感じた夜道、月を見るのはやめたほうがいい。
小牧幸助さんのお題「月を見る」に参加させていただきました。