
掌編夜話集 ep2|笑い声が重なる夜
夜、老舗Barオシャンティに、ふたつの笑い声が重なった。
カウンターの端で、常連のサラリーマン二人が並んで座っている。
「お前さ、また弁当忘れたんだって?」
「いやぁ、気づいたら机の上に置きっぱなしでさ」
「奥さん怒ったろ」
「怒られたよ。でも“夕飯に回すからいいわよ”って」
ジェイコブはニコニコしながら、二人のグラスにそっとおかわりを注ぐ。
「いい奥さんじゃないかぁ」
「ほんとだよなぁ」
「俺なんか弁当箱洗わないだけで怒られるのに」
「それは怒られるだろ」
「だよなぁ」
くだらない話なのに、店の空気がふわっと温かくなる。
「ジェイコブ、聞いてるか?」
「ええ、聞いてますよぉ。仲良しでいいですねぇ」 「仲良しじゃねぇよ」
「いや仲良しだろ」 また笑い声が弾けた。
帰り際、二人は肩を並べて店を出ていく。 ジェイコブはその背中を見送りながら、 磨いていたグラスを胸の前でくるっと回した。
「……いい夜ですねぇ」
店の照明が、少しだけ柔らかく見えた。