
書籍レビュー『久米宏です。』久米宏(2017)ニュースステーションの時代
【約2800字/7分で読めます】
【こんな人にオススメ】
・テレビやメディアの裏側に興味がある
・表現者
・'70~‘90年代のテレビっ子
【こんな時にオススメ】
・仕事で迷いを感じている
・コミュニケーションについて学びたい
・コンテンツについて考えたい

私たちの世代でいうと
久米宏といえば、『ニュースステーション』なんですよね。
『ニュースステーション』の放送開始は'85年で、私の物心がついた頃には、もうこの番組がはじまっていました。
平日の22時台に放送されていた帯の報道番組で、お昼のバラエティー帯番組『笑っていいとも!』とともに、時代を象徴するような番組だったと思います。
とはいえ、私自身は子どもでしたから、それほど熱心に観たことはなく、でもなんとなく「『ニュースステーション』といえば~」みたいなイメージはありました。
何か他のニュース番組とは違う「味」があったんですよね。
本書は、著者の久米宏が、自身のキャリアについて語ったもので、その「味」の秘密が明かされています。
報道の人というイメージだったが
本書を読むと、最初からそうだったわけではないのがわかります。
そもそも、彼は最初からアナウンサーになりたかったわけではなく、たまたま受けた TBS の面接に受かり、アナウンサーになったそうなんです('67年のこと)。
学生時代は演劇部に所属しており、表現することには関心があったようですが、最初からアナウンサー志望だった人たちとは、根本的に違っていて、アナウンサーになってから、そのノウハウを学びました。
入社して間もない頃に結核を患い、長期の休業を余儀なくされ、これが彼の運命を大きく変えた出来事だったようです。
同期のアナウンサーたちがテレビのレギュラー番組を獲得していく中で、久米宏がレギュラーになったのはラジオ番組でした。
永六輔がパーソナリティーを務めた『土曜ワイドラジオTokyo』('70~'75)で、中継リポーターを務めたのです。
このロケは体当たりの企画が多かったようで、映像で見えるわけでもないのに、本書に掲載された写真を見ると、海に浮かぶ氏の姿があります(伊豆半島の海でのものと思われる)。
果ては、日活ロマンポルノの撮影現場を訪れ、実況中継するという前代未聞のリポートに、スタジオの永六輔からストップがかけられたエピソードも披露されていました。
この頃はまだラジオでしか認識されていなかったのですが、それがきっかけで、欽ちゃん(萩本欽一)が目をつけて、『ぴったしカンカン』('75~'86)の司会に抜擢されます。
『ぴったしカンカン』は、欽ちゃんが企画したクイズ番組で、コント55号が出演していました。
当時のクイズ番組は、アメリカの番組を模倣したものが多かった中、『ぴったしカンカン』は、日本独自の企画で新しいおもしろさを追究した番組だったのです。
久米宏自身は、局アナとして番組に出演していたのに過ぎませんが、コント55号の番組作りをそばで見て、学んだことが多かったと書かれています。
その後も、さまざまなバラエティー番組を経て、'78年にはのちに大人気となる音楽番組『ザ・ベストテン』の司会に黒柳徹子とともに抜擢されました。
本書のサブタイトルには
「ニュースステーションはザ・ベストテンだった」とあります。
久米宏が『ザ・ベストテン』の司会を通じて学んだのは、番組の「リアル指向」なんだそうです。
『ザ・ベストテン』は、それまでの音楽番組とは違い、ヒット曲をランキングで発表することにこだわりました(しかも、本人が出演し歌う)。
その集計方法も、単なる売り上げだけではなく、番組独自の調査(視聴者によるハガキのリクエスト数など)を取り入れ、厳密な審査をしたのです。
当時はテレビ出演しないニューミュージック系のアーティストも多かったので、上位にランクインした人が出てこないことも多々ありました。
しかし、番組はそれを調整することなく、そのまま放送したのです。
こういったリアル指向なテレビ番組の作り方は、のちに久米宏が TBS から独立して企画から手掛けた『ニュースステーション』でも発揮されました。
本書でも、自身が『ニュースステーション』へ出演するにあたって、当時のリアルな空気を伝える工夫をしていたことが書かれています。
そういった指向であるがゆえに、『ニュースステーション』はセットにもこだわって作られた番組でした。
例えば、今では当たり前のようになっているかもしれませんが、『ニュースステーション』はキャスターがいるデスクの配置が変わっていたんですよね。
本の中では「ブーメラン型」と書かれていましたが、一般的なテレビ番組だと、横並びに出演者が座るような配置が多いんですが、同番組のそれは斜めになっていて、共演者同士が真横に配置されないのです。
このテーブルは特注品で、かなりの金額をかけて作られたものでした(放送が終わるごとにカバーをかけて大事にした)。
当時はテレビ番組の制作予算も豊富にあり、セットにもこだわって作られた番組だったのが、本書を読むとよくわかります。
私は子どもの頃、テレビを観ていて、番組のセットなどにも興味を持っていたのですが、たしかに『ニュースステーション』のセットは異質に感じました(久米宏の意向により、オシャレな住宅をイメージして作られた)。
もちろん、そのこだわりはセットだけでなく、中継や VTR を入れるタイミング、一つひとつの画面の構図にも表われています。
久米宏は美術や映画にも造詣が深かったようで、スタッフにそういったものを観て参考にするように、具体的な指示をしたことも書かれていました。
その中に「レンブラント」の絵画があり、『ニュースステーション』のスタジオの陰影の印象を思い出すと、「確かに!」と唸らされます。
おそらく、当時、リアルタイムで観ていた人はそんなことには気が付かなかったと思います。
しかし、その「さりげなさ」が大事なんですよね。
本書にも「神は細部に宿る」という見出しがありますが、一見、どうでもいいようなところにまで神経を使って工夫するのです。
今は YouTube なども通じて、素人が気軽に映像を配信できる時代になりましたが、こういった細部への配慮ができるかどうかは、コンテンツにとって大きな影響をもたらすでしょう。
そういう意味では、今のあらゆるコンテンツに携わる人が読むべき内容です。
古い話と侮るなかれですね。
いいコンテンツ=コンセプトが細部まで行き届いているのは、いつの時代も変わらないはずですから。
【作品情報】
発行年:2017年(文庫版:2023年)
著者:久米宏
出版社:世界文化社、朝日新聞出版
【著者について】
1944年、埼玉県生まれ。
フリーアナウンサー、ニュースキャスター。
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