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『月を見る』 怪談

    私たち4人の間では、生理が来た日をそう呼んでいた。誰が言い始めたのかは覚えていない。たぶん美咲だったと思う。

    「今月、もう月見た?」

    そんなふうに言えば、男子が近くにいても分からないし、なんとなく可愛かった。

    私たちは高校1年の春から、ほとんど何でも一緒だった。休み時間になると4人でトイレへ行き、昼休みは窓際の同じ机を囲んだ。放課後は駅前のカフェに寄った。期間限定のフラペチーノが出れば全員で同じものを頼み、写真を撮るときは同じ角度で顔を傾けた。

    2年に上がったとき、4人ともスマホを同じ機種に替えた。色まで同じだと分からなくなるから、透明のケースにそれぞれ違う色のストラップをつけた。でも、そのストラップも同じ店で買ったものだった。夏には細いシルバーのブレスレットも揃えた。

    「うちら、家族より一緒にいるよね」

    美咲がよくそう言った。本当にそうだったと思う。

    生理の周期まで似ていた。

    最初に気づいたのは玲奈だった。体育の前、更衣室で美咲が「今日無理かも。お腹痛い」と言うと、玲奈が笑った。

    「私も昨日きた」

    真帆も「あ、私一昨日」と言った。私はそのとき、ちょうど生理3日目だった。

    「え、じゃあ全員じゃん」

    誰かが言って、みんなで笑った。

    それから毎月、誰かが「月見た?」と聞くようになった。不思議なくらい近かった。1日、2日のずれはあっても、だいたい同じ週に来た。

    「やっぱ一緒にいると生理って揃うんだね」

    医学的に本当なのかは誰も知らなかった。でも、私たちはそれを嬉しがっていた。

    高校2年の秋くらいから、少しずつずれ始めた。最初は3日だった。次の月は5日。その次は1週間。みんなが「来た」と言っているのに、私だけ来ていなかった。

    別におかしいことではない。周期なんて毎月きっちり同じじゃない。それでも、言えなかった。

    昼休み、美咲がスマホを見ながら、

    「今月、昨日だった」

    と言った。

    「私、今日」

    玲奈が言った。真帆も「朝きた」と笑った。

    3人が私を見た。

    ほんの数秒だったと思う。

    「私も今日」

    そう言うと、美咲がすぐに笑った。

    「あ、やっぱり。今回めっちゃ揃ったね」

    それだけだった。

    その日は4人でトイレへ行った。私はポーチからナプキンを1枚出して制服のポケットに入れ、個室に入って袋だけ開けた。粘着テープを剥がす音が思ったより大きかった。誰かに聞かせるためみたいで、自分でも嫌だった。ナプキンは使わず、そのまま丸めて汚物入れに捨てた。

    次の日も同じことをした。「お腹痛くない?」と玲奈に聞かれれば「ちょっと痛い」と答えた。美咲が鎮痛剤をくれたので、飲む必要はなかったけれど、水筒のお茶で流し込んだ。

    その月は、みんなの生理が終わるころになってから私だけ来た。誰にも言わなかった。

    翌月もずれたので、また「来た」と嘘をついた。今度は少し慣れていた。ナプキンをポーチに入れて持ち歩き、トイレに行くたび1枚ずつ捨てた。体育の持久走も「2日目だからきつい」と言って見学した。

    真帆が「私も」と言って隣に座った。校庭を走るクラスメイトを見ながら、

    「今回、量多くない?」

    と聞かれた。

    一瞬、返事が遅れた。

    「多いかも」

    「だよね」

    真帆は安心したように笑った。

    そういう質問が増えた。「今日何日目だっけ?」「夜用まだ使ってる?」「もう茶色くなってきた?」。全部、今までも普通にしていた話だった。だから余計に嫌だった。嘘をついている私だけが、ひとつひとつ試されているように感じた。

    ある日の昼休み、トイレへ行こうとすると、美咲が私の腕を掴んだ。

    「ナプキン持った?」

    「持ったよ」

    ポーチを見せると、美咲は中を覗き込んだ。

    「それ昨日も同じくらい入ってなかった?」

    冗談みたいな声だった。玲奈と真帆も笑ったので、私も笑った。

    「朝、補充したから」

    「ああ、そっか」

    美咲はすぐに手を離した。

    その日の放課後、3人は駅前のカフェへ行った。私は誘われなかった。グループLINEに、3つ並んだカップの写真が上がった。同じ新作のドリンクだった。

    『今日行ったの?』

    と送ると、美咲からすぐ返事が来た。

    『うん』

    続けて、

    『今日3人とも生理だし』

    意味が分からなくて、しばらく画面を見ていた。私も来ていることになっている。そう送ろうとして、やめた。

    次の日から、少しずつ変わった。休み時間、3人だけでトイレへ行くことが増えた。昼休み、私が教室へ戻る前に机が3つだけ寄せられていた。写真を撮るときも、誰も「入る?」とは言わなくなった。

    露骨ないじめではなかった。話しかければ普通に返してくれるし、笑ってもくれる。ただ、3人でいる時間が増えただけだった。

    それが一番きつかった。

    ある日、玲奈に聞いた。

    「なんで最近、3人なの?」

    玲奈は少し困った顔をした。

    「だって、なんか違うじゃん」

    「何が?」

    「なんか」

    それ以上は言わなかった。

    私はもう合わせるのをやめた。グループLINEの通知を切り、休み時間は図書室へ行った。放課後も一人で帰った。揃いのブレスレットを外し、スマホケースも替えた。

    それだけで、ずいぶん楽になった。


    翌月。

    朝、下腹部の鈍い痛みで目が覚めた。トイレへ行くと、下着に血がついていた。

    生理だった。

    予定より11日早い。

    しばらく便座に座ったまま動けなかった。たまたまだと思った。そういうこともある。

    洗面所で手を洗い、部屋へ戻った。制服に着替えて、机の上のスマホを手に取る。

    グループLINEの通知が1件だけ来ていた。

    美咲からだった。

    送信時刻は、私が目を覚ます3分前。

    まだ誰にも言っていない。

    メッセージには、一言だけ書いてあった。


    「一緒に月見れたね♥」





     
     
    読む人の価値観を少しだけ揺らす文章を書いています。