
大丈夫|ちゃんと文芸部
久しぶりに晴れた、秋の空。
少し遠くの公園まで足を伸ばした。
五歳になったばかりの私は、
野原を夢中で駆けていく。
あっ、と思った瞬間には転んでいた。
「ママー!!」
泣きながら呼ぶ声に駆け寄ってきた母が、
私の背中をトントンと叩く。
「大丈夫よ」
抱きしめながら、呪文を唱えた。
「いたいのいたいの、とんでいけー!」
*
母は、病室の天井を見つめていた。
ベッドの脇で、私は涙を堪えながら、
「お母さん……」
何度も呼びかける。
母は、自分よりも大きくなった私の手を
トントンと叩き、
「大丈夫よ」
そう告げて、静かに目を閉じた。
*
母の一周忌。
私はまっすぐ家に帰る気になれず、
少し遠くの公園まで足を伸ばした。
野原では、
子どもたちが元気に駆け回っている。
ひとり転んだ子どもが、
痛いのを我慢しながら言った。
「ボク、泣かないもん!」
私は秋の空を見上げ、
胸をトントンと叩いて唱えた。
「お母さん、私はもう大丈夫よ」
『同じ言葉を、ちょうど3回使う』
というルールのもと、
初めての掌編小説を書きました。
使った言葉は、
「大丈夫よ」と「トントン」です。
hell_homeさん、よろしくお願いします。