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Photo byde_miyukichi

チャレがや企画/めざめ


    「こちらのウェディングプランには、エステ無料券を10枚、お付けしておりす。式まで半年間ありますので、お時間のある時に是非ご利用下さい」

    担当のコーディネーターから差し出された契約書に付いてきたそのチケットは、式場と提携したグループ企業のエステの無料券だった。

    フェイスケア。スキンケア。脱毛。痩身。リンパマッサージ。ネイルケア。
    いくつかあるメニューから、自分の希望する施術を10回まで受けられる。

    「エステなんて行ったことないから嬉しい。この際だから色んなこと体験してこよう。ウェディングドレス、肩と背中が出てるのを着たいから、見える部分だけでも綺麗にしておかなきゃね」

    同棲する部屋に戻ると、若菜が嬉しそうにパンフレットを開いた。

    「いいじゃん。行ってきなよ。無料でエステに行けるなんてこれきりないよ。ま、おれは、今のままの若菜でも充分に綺麗だと思うけどね」

    「やっぱりい?健ちゃん分かってるねえー」

    健二と若菜は、半年後の挙式に向けて幸せの絶頂にいた。優しい性格の健二と、しっかり者の若菜。自他共に認める仲良しカップル。こんなやり取りが、いつも二人を笑顔にしていた。

    しかし若菜が二回ほどエステに通ったところで、彼女の勤める会社から急な海外出張を命じられた。期間は三ヶ月。結婚式間近だったが、重要な商談で、語学が堪能な若菜が適任だと白羽の矢が立った。会社にとっての大きなプロジェクトのために、断れなかった。

    「もったいないから、健ちゃんが行ってきなよ。メンズエステもやってるみたいだし」

    出発前に若菜は冗談交じりに言った。はは、と笑った健二だったが、若菜が帰ってきた時のネタにできるかもと思い、軽い気持ちで会社帰りにサロンに寄った。どこもかしこも真っ白の、光沢ある壁。やたらゴージャスなインテリア。くらくらするようなアロマの香り。ひっつめの髪の、真珠みたいにつやつや肌のエステティシャンに迎えられ、健二は緊張しながらも、勧められるままにフェイシャルケアを受けてみた。

    初めての施術は、驚きの連続だった。温かいスチームに包まれ、プロの手で顔の筋肉をほぐされる。それがとてつもなく気持ちいい。ジェルを塗られ、電気を当てられ、最後にはヘッドマッサージもしてくれた。なんとも言えない解放感。帰宅中に自分の頬に触れると、ふわふわのもちもち。まるで作りたての豆大福のよう。すげえな、と呟きながら何度も感触を確かめた。

    ♢♢♢

    翌朝、会社に出社すると、後輩の女性社員が「あれ」と目を大きくさせた。

    「真島さん、今日顔色いいですね。なんか肌がすごくピカピカしてます」

    ホント?と尋ねると「はい。いつもよりワントーン明るくなった気がします。スキンケアしてるんですか?」と、にこにこと答えた。

    さすが女性はめざとい。だがたった一度でそんなに変わるだろうか。半信半疑でトイレに行き、鏡を覗き込むと、確かにくすみが取れ、毛穴も目立たなくなっていて、肌も輝いている気がした。見た目にも効果が出ていた。

    …なんか、嬉しいな。

    その喜びは、健二を翌週もサロンへと向かわせた。二度目の施術で、彼は自分でもはっきりと変化を感じた。指先で感じる頬のなめらかさが、昨日までとは明らかに違う。吸い付くような弾力。目の下のクマも消えて、顎のラインもシャープになっていた。やるほどに結果につながる美容の力に感動した彼は、お勧めされた五万円分の基礎化粧品セットを迷わず購入した。

    そこからの健二の変貌は凄まじかった。毎晩、一時間をかけて入念にスキンケアを行う。導入液、化粧水、美容液、乳液、クリーム。さらに週に二回のパックも欠かさない。鏡を見るたびに気になる箇所が増えていった。青々と残るひげの跡、整っていない眉毛の濃さ。回数券を使い尽くすと、自費で全身脱毛のプランを契約し、眉サロンにも通い始めた。

    三ヶ月後、帰国した若菜は、自宅の洗面所を見て絶句した。そこには、見たこともない海外ブランドの化粧水や乳液が十種類以上、整然と並んでいた。
    高そうなものばかりで、メンズ用のコスメやパック、通販で人気の美顔器まであった。

    「…健ちゃん、これ何?」

    「おかえり、若菜。ああ、それ? 保湿用と美白用、あとは夜用のナイトリペアだよ」

    健二は美顔ローラーをコロコロ滑らしながら振り向いた。その顔は、三ヶ月前の彼よりも遥かに白く、陶器のようにつるんとしていた。驚く彼女をよそに、健二は若菜の顔をじっと見つめた。

    「若菜、ちょっと肌荒れてない? 海外の乾燥のせいかな。毛穴も開いてるよ。おれが気に入ってるこの導入液、使ってみなよ。浸透力が全然違うから」

    良かれと思って放ったその言葉は、長旅で疲弊していた若菜の逆鱗に触れた。

    「何それ。私は仕事で必死だったのよ! 男のくせに何よ、パックなんかしちゃって。気持ち悪い」

    「なんでだよ。今時誰だってスキンケアをしてるじゃないか。男とか女とか関係ないだろ。男の自分磨きはもはや常識。マナーだよ」

    二人は激しいケンカになり、一時は破談の危機さえ漂った。しかし、共通の友人の仲裁もあり、なんとか仲直りをして当日を迎えることとなった。

    ♢♢♢

    結婚式当日。控室から現れた新郎の姿に、参列者はどよめいた。
    健二の肌は、純白のタキシードに負けないほど発光していた。耳元には繊細なデザインのピアスが揺れ、指輪を交換する彼の手の爪には、上品なクリアのマニキュアが光っている。正直なところ、新婦よりも隣に立つ新郎の肌の方がつやつやで、大理石のように真っ白であった。

    披露宴の最中、若菜がお色直しのために中座した。一人残された健二は、そっと懐から手鏡を取り出し、照明の下で自分の肌に崩れがないか、入念にチェックした。

    せっかく仕上げたアイラインが滲んでいないか、乾燥で毛穴が開いていないか。彼は涙を拭う代わりに、ポケットから取り出したハンカチで余計な皮脂をそっと抑えてから、保湿用のミストを顔全体に吹きかけた。

    「…よし、これで大丈夫だ」

    シュッと霧に濡れた彼の肌はスポットライトを浴びて、きらびやかな会場内で、誰よりも美しく輝いていた。


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    こちらの企画に参加させていただきました。
    エステに10万円課金。意識の高い大人の女性~✨✨
    私は10万円あったらsuicaペンギンちゃんグッズに全ベットしちゃいます。
    もう置き場がないってのに、止められません。
    最後までお読みくださりありがとうございました😊🐧
    コッシーさん。みくまゆたんさん。宜しくお願いいたします。

    #チャレがや
    #エステ
    #みくまゆ会



     
     

    渡鳥

     
     
    形式にこだわらずなんでも書きます。 短編・中編・長編それぞれで公募に挑戦中。 公募ガイド小説でもどうぞ 第17回 第26回 最優秀賞 ペンギン好き。創作し続ける人でありたい。

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