
【突発即興企画】ホワイダニット #ミステリー #異母兄弟 #天使
天使のよう、と言われる異母兄がいた。
俺が小学校に上がってすぐ本物の天使になってしまった人だけど、思い返してみれば正しく天使のような人だった。
一般的には“天使のよう”という形容は、美しい、無垢で慈悲深い、あるいはもっと単純に優しそう、なんて場合に使われる言葉だと思うが、兄の場合はーー勿論一般的な表現として天使と例える人も大勢いたけどーー“聖書に出てくる天使のような”人、と俺は思っている。
聖書に描かれる天使は誰も彼も美しい。美しいが、生首に直接羽根が生えた人外だったりと、不敬を承知で言わせてもらえば化け物寄りの生き物だったりする。
また内面も過激で、「神に仇なす者は滅ぶべし」が基本。一度悪とみなせば都市ごと滅ぼしたりも平気でする。一方的に悪と見なされた方はたまったものじゃない。
美しい顔の裏に熾烈で傲慢な正義感を秘めた人。
事実、天使のようと持て囃される一方で、兄は何人もの人間を破滅に追い込んでいたようだ。
建前上は「良かれと思って」。無知な善意が人を傷つける事例など履いて捨てる程にあるが、あの人の場合は確信犯だったに違いない。父や祖父程も年の離れた大人が、恥もなく泣き喚いて未成年の兄に跪いて許しを乞う姿は、今でもちょっとしたトラウマだ。
「そこでちょっとしたとか言えるんだから図太いよね君も」
週刊誌のライターを名乗ったオネーサンはそばかすの散った素朴な顔をニヤリと歪め、メモを取っていたペンをとめる。
すっかり冷めたコーヒーに映った俺の顔は、死んだ異母兄とは似ていない。
未解決事件の謎を追う、とかいう週刊誌の取材とやらで話を聞かせてほしい、と連れてこられた駅裏の喫茶店は貸し切りかと思う程に静まり返っていて、少し落ち着かない。
今更何を聞きたいのだろう。
「異母兄は継母……後妻である俺の母親に刺され、出血多量で死亡しました。それ以上も以下もない、解決済みの事件ですよ」
「いやいや、何も終わっちゃいませんよ。ミステリー小説なら炎上確実」
悪魔のように彼女は笑う。
「ホワイダニットのない小説はないんだ、人生にだってね」
以上、856文字。こちら参加させて頂きました。
お題が天使で、「天使みたいって言われるカワイコちゃんのこと書ーこう」とだけ決めていざストップウォッチスタート!……としたはずが、最初に浮かんだのが、天使のような悪魔のおにーさん(しかも故人)だった時点でお察し案件。
現実には動機のよく分からない事件なんてなんぼでもありますけどね、小説だとそうはいかないというね。
#太宰になろう系企画