
JTBが挑戦する越境EC「47storey」。デジタルな領域に生の温度感を。
「地域の魅力的な商品を世界に向けて発信したい」。そんな想いを抱きながらも、言葉やコストという壁を前に、海外への一歩を諦めてしまう事業者は少なくありません。
そんな地域の切実な声に応えるべく、JTBは新たな挑戦として越境EC事業「47storey」をスタートさせました。
事業者の海外進出を支援するプロジェクトの担当者に、事業に込めた想いと、JTBだからこそできる「人の力を生かした支援」について話を聞きました。

ツーリズム事業本部 大阪第三事業部、2020年入社。2023年より現在のクロスボーダー事業チームにて事業者の海外販路や訪日外国人観光客対応のサポート、プロモーションやマーケティング支援を行う。

ツーリズム事業本部大阪第三事業部、2025年入社。香港に6年間居住した経験やアメリカ留学の経験を持つ。海外生活で培った語学力や国際的な視点を生かしながら、事業者の海外販路開拓支援や訪日外国人観光客への市場調査、プロモーション展開などに携わる。
海外進出をあきらめないために。JTBが越境EC運営に挑む理由

――日本の商品を海外のお客様へ届ける「越境EC」に、なぜJTBが挑戦することになったのか。その理由を教えてください。
尾江:JTBは「交流創造事業」を軸に、実に多くの地方自治体の方々とお仕事をさせていただいております。そんななかで「地域特産品の魅力を海外にも発信していきたい」という声に触れる機会が多くありました。しかし、いざ海外への販路開拓を進めようとすると、さまざまなハードルに直面し、最初の一歩を諦めてしまう方が非常に多かったんです。
例えば、言語の壁や高額な輸送費、海外のお客様への対応ができる人材の確保など、自社で賄うにしても外部委託するにしても、多大なコストと負担がかかります。さらに、越境ECは文化圏の異なる方々を対象とするため、出店したからといってすぐに効果が出るものではありません。2〜3年と根気強くプロモーションやブランディングを続けてようやく手に取ってもらえるようになる。情報が溢れるインターネット上でお客様の目に留まるには、それなりの時間と努力が必要というのは国内のECと変わりません。
こうした厳しい現実を前に、「やはりやめておこう」となる事業者が多いのは当然ですよね。せっかく始めてみても一定の成果を出し継続できるのは全体の約10%程度と言われるほど、とても厳しい業界です。

――成果継続ができるのは10%…! 想像以上に狭き門ですね。
尾江:はい。その一方で、歴史的な円安や訪日外国人観光客増加の影響もあり、越境EC市場はコロナ禍以前の2019年から2026年で6倍以上に拡大、2030年までには年平均26.2%の成長が見込まれるなど、海外進出には絶好のタイミングを迎えています。
この機会を生かしたい自治体や事業者が数多くいらっしゃるなかで、先述した課題を解決し、僕たちが海外進出への一歩をサポートできないか。そう考えて、事業パートナーであるBEENOS Solutions株式会社との協業によって誕生したのがJTBの越境EC事業「47storey」です。
追加の費用や稼働は「ゼロ」。国内ECと同じフローで世界へ
――47storeyの名前の由来は?
尾江:「47storey」と書いて「フォーティーセブン」と読みます。日本人であればピンと来るように「47」という数字は都道府県を表しています。「storey」はカタカナで読むと「ストーリー」つまり「物語」と読めますが、綴りは「story」ではなく、建物の「階」や「層」を意味する「storey」としています。

ロゴには窓が付いたビルが描かれていて、例えば1階は北海道、2階は秋田県……といったように、47都道府県それぞれのフロアにお客様をお招きして、その魅力を発信する場をイメージしました。「日本」と一括りにするのではなく、それぞれの地域が持つ異なる側面を知っていただきたい、という想いを込めています。

――「47storey」の特徴を教えてください。
尾江:「47storey」の最大の特徴は、初期費用や月々の運用費、さらに販売手数料もすべて無料で始められる点です。海外決済やカスタマーサポート、多言語翻訳などもすべて僕たちの方で対応するため、出店における負担や課題を心配いただく必要はありません。
――すべて無料というのは驚きです。どのような仕組みで実現しているのでしょうか。
尾江:自治体や事業者は楽天市場やAmazonなどすでに国内向けのECサイトはお持ちの場合が多いです。そのなかから海外へ販売したい商品を商品登録フォームに日本語でご記入いただければ、僕たちが「47storey」内に多言語の商品ページを作成します。
海外のお客様から「47storey」を通じて注文が入ったら、まず僕たちのほうで事業者の国内ECから該当の商品を購入します。その後事業者は、お客様へ直接ではなく、海外配送のノウハウを持つBuyeeが指定する国内の倉庫へ発送。それをBuyeeが海外のお客様へお届けするという流れになります。
ちょっと複雑でわかりにくいかと思うのですが、事業者の方々からすれば「国内に発送するのと全く同じフロー」でBuyeeの倉庫に送るだけです。追加の稼働や負担はゼロで、世界約120か国に販売できる仕組みになっています。

――負担も課題もゼロで始められるのはすごいですね。一方で、JTBがビジネスとして成立させられるのかは気になるところです。
尾江:越境ECサイトに掲載しただけでは買ってもらえないという厳しい現実があることは先ほどお伝えしたとおりです。もちろん「47storey」自体の知名度を上げることも重要ですが、現状のビジネスモデルとしては、商品の魅力が海外のお客様に伝わるようブランディングやプロモーション、市場調査といった「伴走支援」の部分で収益を得ています。
例えばある自治体との施策では、大阪・関西万博の会場を訪れた海外の方々へ、地域産品を購入できるQRコードの配布や抽選会を行い、対面でのコミュニケーションを通じて魅力を紹介しました。他にもSNSプロモーションや、県産品のブランディングのための市場調査など、各地域の課題に合わせた需要喚起の施策を提案・実施しています。
――サイトの運営だけでなく、その前段階の「売るための仕掛け」を支援しているのですね。
尾江:「47storey」のサイトを見ると、日本の一般的なECサイトとは違い、非常にシンプルなデザインだと感じると思います。日本では「検索」や「おすすめ商品」から商品を探す文化が根強いですが、海外ではSNSや広告、イベントなどを通じて、すでに欲しいものが決まっている状態でECサイトに辿り着くケースが8〜9割にのぼります。サイト内で商品を探す人はほとんどいないと言われています。

そのため、サイト自体のデザインはシンプルに抑え、そのぶんブランディングやマーケティングに力を注ぐ必要があります。JTBからそれぞれの自治体や事業者の課題感に合わせて、こうした施策をご提案させていただきます。
ただ、どれだけマーケティングを強化しても、最後に「購入できる場所」がなければ意味がありません。「47storey」はお客様がお目当ての商品にアクセスできる「お店」として置いておく、というイメージです。掲載自体はずっと無料ですので、リスクゼロで海外への販路開拓に挑戦できる。それが大きなメリットになると考えています。
デジタルな領域でも「生の温度感」に喜びがある

――立ち上げにあたって、苦労した点はありましたか?
尾江:事業パートナーであるBEENOS Solutions株式会社とは以前からお取引があったため、スキーム作り自体はスムーズでした。むしろ苦労したのは、サイトの知名度を上げ、実際に利用してくださる自治体や事業者を募るプロセスだったかもしれません。展示会でチラシを配ったり、事業者向けのセミナーを開催したりと、地道に認知を広げてきました。
その結果、現在は大変多くの事業者に「47storey」をご利用いただけるまでになりました。足を使っての営業活動は大変な面もありますが、確かな需要があることを実感できているので、同時に大きなやりがいも感じています。
――吉野さんは2025年にJTBへ入社し、この事業に携わっています。配属を聞いたときはどう感じましたか?
吉野:同期の多くが法人営業へ配属されるなかで、私だけ全く予想外の部署だったので驚きました。ただ、もともと「日本の魅力を世界に発信すること」を軸に就活をしていたので、日本を旅行してその魅力を知った外国人の方々が、帰国後も日本の商品を購入できるプラットフォームを提供しているこの事業は、自分のやりたいことにぴったりだと感じています。
「47storey」は少人数でやっている事業ということもあって、入社直後から本当にたくさんのことにチャレンジさせてもらっていて。例えば入社3ヶ月の頃、訪日外国人観光客向けのイベント企画・運営を任されました。四国の酒造メーカーにご協力いただき、訪日外国人観光客の方々に試飲をしてもらいながら「四国のお酒を飲んだことはありますか?」「帰国後もECで購入したいですか?」といった市場調査を行ったんです。

――入社3ヶ月で...すごいですね!
吉野:しかも準備期間はわずか1か月しかなくて...(笑)。事業者との調整やアンケート作成、会場の許可取りなど、右も左もわからないなかで必死にやり遂げました。終了後、実際に「47storey」を通じて海外から購入してくださった方がいて「イベントに来てくれた方が買ってくれたのかな」と思うとすごく嬉しかったですね。
尾江:本当にタイトなスケジュールでしたが、よく頑張ってくれました。入社直後ということもあり少し心配していたのですが、イベント中に吉野さんがボソッと「いいイベントですね」と呟いたのを聞いて、肝が据わっているなと(笑)。とても頼もしく感じましたね。

――ECというデジタルな領域にかかわらず、非常に「現場感」のあるお仕事ですよね。
尾江:外国人観光客の方や事業者の皆様の「生の声」や「温度感」に触れられる瞬間がこの仕事の楽しさですかね。JTBは「デジタルの力」と「人の力」の掛け合わせを大切にしています。どれほど便利なプラットフォームがあっても、それだけで事業者の課題がすべて解決できるわけではありません。
競合も多い越境ECという領域のなかで「47storey」を選んでもらうためには、やはり「人の力」が必要で、そここそが僕らJTBがやる意味だと思っています。JTBには各都道府県に、地域に精通した支店の担当者がいますし、ホテルや旅館など観光客とのタッチポイントとなる場所とのネットワークもありますから。「47storey」という「売る場所」を用意するだけでなく、そこへお客様を呼び込むための多角的な施策を打てるのが、僕たちの最大の強みだと考えています。
海外への「0.5歩」をサポートしたい

――お二人が今後取り組んでいきたいことはありますか?
吉野:「47storey」を通じて、日本の良さをより多くの方に知っていただきたいです。そのために、まずは私自身が商談やセミナーを安心して任せてもらえるよう、早く一人前にならなきゃなと思っています。
また、観光客の方と事業者をつなぐ役割を担えたら嬉しいです。私は6年間の香港生活とアメリカ留学の経験があるのですが、高松駅でのイベントの際、語学力を生かして観光客の方の生の声を直接事業者の方々へお届けできたことがすごく嬉しかったです。「お酒の背景にあるストーリーをもっと知りたい」「英語の説明もほしい」といったご意見をお伝えした際、事業者の方が「すごく貴重な意見だね」と肯定的に受け止めてくださったのが印象的でした。
この仕事は、今日は商談をしたかと思えば、明日はアンケート調査のデータ分析をしている、というように、毎日やっていることが違うので正直大変なことも多いです。でも、JTBにおける「王道」のキャリアではないからこそ、ここでしかできない貴重な経験ができているなと感じています。

尾江:僕は最初は旅行の法人営業配属でしたが、2020年のコロナ禍入社だったため、思うように成功体験を積めない時期が続き、3年目に現在の新規事業開発やEC、プロモーションを担う今の部署へ異動になりました。
ここは、従来の旅行事業とは異なる分野ですが、だからこそ越境ECや訪日インバウンド市場のマーケティングについての専門知識をしっかり蓄えてこられたと思っています。今後はその知見をよりJTBや世の中に還元していけたら嬉しいです。
あとは、やはり「47storey」をより多くの方に知っていただくこと、そして意味のある使い方をしていただけるよう支援していくことですね。ECサイトへの「出店」はゴールではなく、ほんの始まりに過ぎません。一過性の施策で終わらせず、ちゃんと自治体や事業者の未来につながる本質的なお手伝いをしていきたい。皆様の海外への一歩目、いや「0.5歩」でも踏み出すためのサポートを、これからも続けていきたいと思っています。