
ハネムーンで南極へ。先入観や思い込みを解く力が旅にはある。旅好きの社員が語る「忘れられない旅」
「忘れられない旅は?」
と聞かれたら、どんな思い出が浮かびますか?
そこでしか見られない美しい景色、おいしいご飯、お世話になった人の顔など、世界は広く、思い出もさまざまです。
旅好きが集まるJTBグループ社員が「忘れられない旅」のエピソードを語る、本企画。第5回目に登場するのは、昨年ハネムーン旅行で南極を訪れたというJTBグローバルマーケティング&トラベルの 塚本裕昌です。
2人あわせて70カ国以上訪れたことあるほどの“旅好き”夫婦。そんな2人の「忘れられない旅」となった南極ハネムーンの思い出を語ります。

株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル(以下、GMT)。2014年新卒入社。MICE営業部にて、サッカーの海外チーム対応などの国際スポーツ案件に従事。2016年度から研修員として、ブラジル派遣、リオ五輪担当。終了後はJTBUSAでアメリカ発のアウトバウンド事業を担当。2017年度GMT帰任後、ラグビーW杯、東京オリンピックなどを担当。経営企画を経て、現在は北米・オセアニア営業部において、主に北米市場における訪日観光客の受け入れを担う。
旅で出会うハプニングこそサプライズだと気づいた

――塚本さんはこれまでに30カ国以上を訪れているそうですね。旅を好きになったきっかけを教えてください。
家族で海外旅行を頻繁にする家庭で育ったわけでもなく、留学の話を耳にしても「絶対に嫌だ。日本で十分」と言い返すほど、実は全然海外に興味がありませんでした。ところが、大学生になって友人と2人で行ったバルセロナ旅行をきっかけに、どんどん旅行にハマっていったんです。
「世界をもっと広げたい」という思いが芽生え、大学3年生の時にカナダのトロントへ1年間留学しました。その間、スイスやトルコ、グアテマラなど、語学学校やインターンシップで出会った友人たちの国にたくさん遊びに行きました。

――「日本で十分」と思っていた塚本さんがここまで旅行好きになるとは、大きな変化ですね。バルセロナ旅行で感じた旅の魅力とはどのようなものだったのでしょう?
旅行中に本当にたくさんのハプニングに遭遇したんです。念願のサッカーの試合を観に行ったのに友人がチケットを忘れてきたり、当時は地図アプリも今ほど発達していなかったので、予約したホテルが見つけられず夜のバルセロナをさまよったり。帰りの便は遅延するし、オーバーブッキングで席がないと言われるし、「どうしよう」の連続でした…(笑)。
でも運よくビジネスクラスに空席があって乗せてもらえたり、友人と席がバラバラになりそうだった時も隣の方が譲ってくれたり。ハプニングがあったからこそ“幸運”に恵まれたなと感じることがたくさんありました。
旅の最中は焦りましたが、振り返ってみると、そのハプニングこそが楽しい思い出として心に刻まれています。そう思うと、「ハプニング」じゃなくて「サプライズ」って言葉のほうがぴったりなんじゃないかなって。日本での日常生活では決して出会えない「サプライズ」をもっと自分の肌で感じたいという気持ちが、このバルセロナ旅行をきっかけにどんどん大きくなっていきました。
アルゼンチン発。10日間の南極クルーズツアー

――ハネムーンの行き先として南極を選ぶとは、なかなかめずらしいですよね!どのような経緯で決まったのですか?
南極は妻の発案でした。妻も僕と同じ旅好きで、お付き合いする前から旅は僕たちの共通の話題だったんです。何気ない会話の中で「行ってみたい国ある?」と聞いたところ、「南極に行きたい」という答えが。まだプロポーズする前でしたが、妻から「ハネムーンでもいいよ」と言われ、「じゃあハネムーンで行くなら、結婚しないとね」と。こうして南極旅行が結婚の後押しをしてくれました(笑)。
――面白いですね(笑)。ハネムーン先として南極を提案されたときは驚きませんでしたか?
最初は本当にびっくりしましたし、全く知識がなかったので「南極って、ペンギンと氷山以外に何があるの?」って思わず言ってしまったんです。でも、雄大な自然や動物が大好きな妻からすると「ペンギンと自然が見られたらそれで十分でしょう!」と。「ハネムーンで行けないなら一人で行く」というほど妻の意気込みが高かったので、僕には行かない選択肢はないと思いました(笑)。

――南極旅行の具体的な内容を教えてください。
私たちは、アルゼンチン最南端の都市ウシュアイアから出発する10日間のクルーズツアーに参加しました。お客さんは200人くらい。初日にウェルカムブリーフィングで顔合わせをし、翌朝出航。2日かけて荒波で有名なドレーク海峡を渡り、南極に到着します。南極では4日間滞在し、小型ボートでの上陸や野生動物の観察などのアクティビティを楽しみ、その後また2日かけてウシュアイアへ戻るという行程でした。
面白いのが移動中や空いている時間に、海洋学や地質学などの専門家による講義を受けられることです。南極の環境保護や生態系についての講義は必修で、それ以外は自由に出入りできます。その内容が結構おもしろかったので、僕らはほとんど全部の講義に出席しました。

――南極に着いてからの4日間はどのようなことをしましたか?
小型ボートに乗って氷山や島に上陸したり、ペンギンやクジラ、アザラシを見たり、南極の海に飛び込んだり、いろんなアクティビティに参加しました。ペンギンを前に妻はめちゃくちゃ喜んでいましたね。南極上陸1日目は天気にも恵まれて、クルーズ船の客室から見える景色は言葉にならないほど綺麗でした。
帽子のポンポンも切られるほど。環境保護の徹底ぶりに驚いた

――南極ハネムーンで一番思い出に残っていることはありますか?
いろいろありますが、まず一番驚いたのは南極の環境保護に対する意識です。船から大陸に降りる前に、全員が手荷物を持って集合し、スタッフが服の裏地まで丁寧に掃除機をかけて糸くずを取り除きます。
僕らはてっぺんにポンポンが付いたニット帽を持って行ったのですが、スタッフに「これもダメ」とポンポンをハサミで切られてしまいました。「そんなにポンポンが大事ならあとから縫えばいい」と言われて(笑)。
さらに、上陸前には必ず長靴の裏を消毒するのですが、消毒されているのは長靴の裏だけなので、氷に触れたり座ったりするのは一切禁止。ペンギンとは最低5メートルの距離を保ち、もし向こうから近づいてきた場合は、私たちの方が離れなければならないというルールもあります。

――かなり厳しいんですね。
これらのルールはすべて南極の生態系を守るため。たとえば、観光客が持ち込んだ糸くずをペンギンが誤って食べて病気になれば、それが他の動物たちにも広がってしまう危険性があります。
ただ楽しいだけではなくて、上陸前に生態系についてしっかりと勉強して、その知識を持ってアクティビティに参加するという教育的な設計がとても興味深く、大変勉強になりました。
多国籍から来る参加者同士での交流も

――ツアーの参加者はどういった方が多かったですか?
シニア層が多い印象でしたが、全体の約半数がアメリカ人、20〜30人がカナダ人、イギリス人、残りはオーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ、アジアからがちょこちょこいて、日本人は私たちを含めて6人だけでした。
ニュージーランドから1人で参加した83歳のおばあちゃんや、クラウドファンディングで資金を募って初めての海外旅行でやって来た日本人の若者もいて驚きましたね。例え高齢であっても、海外未経験であっても、「やってみたい」という気持ちに素直に従う姿勢に感銘を受けました。

――他の参加者たちと交流する機会もあったのでしょうか?
結構たくさんありましたね。大晦日のカウントダウンパーティーでは、83歳のおばあちゃんがフロアのセンターで踊っていて、みんなで盛り上がりました。本当にパワフルですよね!
帰航時には、南極の環境保護に取り組む非営利団体への寄付を目的としたオークションが開催されて、それもすごくおもしろかったです。みんな寄付という感覚もあるので、どんどん金額が釣り上がっていくんですよ。
出品されたのは、アーティストが描いた南極の地図や使用済みのゴムボートのスクリューなど。特に人気を集めたのが、船内の全客室へのモーニングコール権と、船長と一緒に1時間船を操縦できる権利でした。
どちらも同じ60歳くらいの男性が落札したのですが、終盤でかなり盛り上がっていたので、モーニングコールだけで4000ドルという値段に。日本円だと60万円くらいでしょうか(笑)。
翌朝のモーニングコールで彼は「このモーニングコールに4000ドル払うのは、さすがにクレイジーだった」とスピーチしていておもしろかったです(笑)。

――モーニングコールに4000ドルはすごいですね(笑)。
でも、海外の方ってこういう「みんなで盛り上がる場」を求めているんだなと感じましたね。国籍も年齢も異なる参加者たちが、音楽に合わせて踊ったり、お酒を楽しんだりして交流する姿が印象的でした。ツアー会社のスタッフも一緒になって楽しんでいました。
日本だとツアー会社のスタッフたちは「あくまで仕事」という線引きがあると思いますが、海外では距離を縮めて一緒に盛り上がった方がお客さんも喜ぶんです。
環境保護について真剣に学ぶ時間もあれば、こうしていろんな国のいろんな世代の人たちと一体になって盛り上がる時間もある。このツアーにしかない魅力がたくさんあって、旅行会社で働く身として持ち帰る学びがたくさんありました。
旅を通じて先入観や思い込みを手放す

――ハネムーン旅行としてはいかがでしたか?
お互いこれだけ旅行経験があっても、実は2人で海外に行くのは南極が初めてだったんです。日常的に「行ってみたいこと・やってみたいこと」の情報をLINEで送り合い、週末には2人でカフェに行って南極について調べる時間を作っていました。
1人で調べていると自分の興味関心だけに偏りがちですが、妻の視点が加わることで「そういう楽しみ方もあるのか」と新しい発見もありましたね。
旅の情報収集をしながら、お互いが旅に求めているものや価値観を共有できたのも良かったと思います。この旅のおかげで、妻のことをより深く知ることができたし、僕のこともより知ってもらえたんじゃないかな、と。この先もずっと2人の話題になるような、一生ものの思い出ができました。
――夫婦旅だからこその魅力かもしれませんね。
はい。そもそもハネムーンで南極に行くなんて発想は、僕からは絶対に出てこなかったと思います。
僕は普段から「先入観を持たないこと」を心がけているのですが、それでも最初は「ハネムーンなのに南極で本当にいいのか?」という気持ちが拭えませんでした。「ハネムーンといえばリゾート地のイメージなのに、南極なんて周りに変なやつだと思われないだろうか」とか、いろいろ考えちゃって…。いつの間にか自分の旅行でさえも先入観を持っていたことに気づかされました。

――たしかに「ハネムーンといえば〇〇」というイメージがありますもんね。
ハネムーン以外にも、実際にものを見ることなくイメージだけで片付けてしまっていることって意外と多いんじゃないかなって。例えば、僕が南極に行ったと話をすると「シロクマとペンギンいた?」とよく聞かれます。でも、シロクマは北半球にしか生息していないし、ペンギンは南半球にしか住んでいないので、シロクマとペンギンが同じ場所にいることはあり得ないんです。
今では「シロクマは北極だよ」と当たり前のこととして説明できるのは、南極を実際に訪れたことで「知識」が「経験」に裏付けられたからだと思います。旅行には、こうした先入観や思い込みを解く力があるのではないでしょうか。自分の目で見て、その場所を体感してこそ、本当の意味でその土地のことを語れるようになると思います。

――今回の「忘れられない旅」の経験から今後に生かしていきたいことはありますか?
年齢を重ねると「いつも通り」を求めがちです。お客様を見ていてそう感じることもありますし、僕自身もそうなりかけていたと今回の旅で気づきました。
でも、83歳で南極一人旅をしていたおばあちゃんや、初めての海外旅行で単身南極クルーズに飛び込んだ若者に会って、本当にやってみたいことにチャレンジすることの大切さを改めて実感しました。
自分自身がチャレンジすることはもちろん、お客様に対しても「いつも通り」を求める気持ちに寄り添いながら、小さくてもいいので新しい体験を提案し、背中を押せる存在でありたいです。それこそがお客様の本当のニーズかもしれませんし、その新しい体験がお客様の世界を広げるきっかけになるかもしれません。
