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団塊の世代の趣味

    母親はブランド物が大好きである。ただし、エルメスやヴィトンのような、誰でも知っているブランドを持ちたがるというのとは少し違う。イタリアの、一般にはあまり知られていない高級ブランドを好む。僕からすると、そんなブランドがあるのかと思うようなものまで身につけている。いったいどこで見つけてくるのだろうと思う。

    ブランド品を買うことには、いろいろな意味がある。誰もが知っているブランドを持つことで、自分の豊かさを周囲に示すこともできる。エルメスやヴィトンなら、ブランド名を聞いただけで価値が伝わる。しかし、あまり知られていない高級品を選ぶとなると、話は違ってくる。ブランドの名前を周囲に見せるだけではなく、自分が何をよいと思うかという好みそのものが、買い物に反映されるからだ。

    母親の場合、ブランド品は単なる実用品ではない。自分が欲しいと思ったものに金をかけ、手に入れる。そのこと自体に意味があるのだろう。値段が高いから買うというだけでもなければ、誰もが知っているものを持っていれば満足するというわけでもない。自分なりの基準で高級品を選んでいる。

    そして、ブランド品だけではない。家具にもイギリス趣味がある。これがまた、僕からすると「マジかよ」と思うようなものなのだ。少女漫画の背景画に出てくるような、装飾的で重厚な家具である。この世代の人たちにとって、そういう家具が憧れの対象だったことは知っている。洋館の応接間のような空間に、立派な家具が置かれている。そういう暮らしが、豊かさのイメージと結びついていたのだろう。

    ただ、実際にそこに住むとなると、話は別である。家具は大きいし、存在感もある。正直なところ、なんだか邪魔なのだ。しかし、他人の家なのだから、文句を言うつもりはない。自分が好きなように住めばいいのである。

    考えてみれば、ブランド品も家具も、同じ価値観の延長線上にあるのかもしれない。何を身につけるか、どんな家具を置くかによって、自分が望む暮らしを形にする。機能性や合理性だけではなく、憧れてきたイメージを現実の生活に持ち込むことに意味があるのだ。

    母親は自動車にも金をかける。これも、単純に見栄を張りたいからだと考えると、少し違うのだと思う。女性だからといって、軽く見られたくないのである。高級車に乗ることは、社会のなかで自分の位置を守るための手段にもなる。人は相手の服装や持ち物、乗っている車から、その人がどういう人間なのかを勝手に判断する。そういう社会で生きてきた人にとって、金をかけることは、単なる浪費ではなかったのだろう。

    こうした価値観は、高度経済成長期を経験した世代のものなのだと思う。何もないところから出発し、働いて金を稼ぎ、家を買い、車を買い、欲しいものを手に入れる。豊かになるとは、具体的に何かを所有することだった。金は銀行口座に数字として積み上げておくためだけのものではない。自分の生活を変え、自分の社会的な位置を変えるために使うものだった。

    今の時代には、そうした消費を虚栄心だと批判する見方もある。高級ブランドを持つことに何の意味があるのか。車にそれほど金をかける必要があるのか。もっと合理的に考えればいいではないか。そういう批判には、それなりの理屈がある。

    しかし、消費の意味は、物の機能や価格だけでは決まらない。人は物を買うことで、自分がどういう人間でありたいかを表現することもある。周囲からどう見られるかを意識し、その社会のルールに合わせて自分を演出することもある。もちろん、そのために金を使うことが常に賢明だとは思わない。それでも、そうした行動を単なる見栄の一言で片づけるのは、少し雑ではないか。

    母親のブランド趣味や家具の好みを見ていると、豊かさに対する感覚が、今の若い世代とは違うのだろうと思う。物を所有することに対する執着があり、金を使うことへのためらいが少ない。欲しいものがあれば、それを手に入れる。自分が豊かになったことを、具体的な生活や持ち物によって実感する。そういう人生観があるのだろう。

    僕自身は、必ずしも同じように金を使いたいとは思わない。少女漫画の背景画のような家具に囲まれて暮らしたいとも思わない。しかし、母親の好みを見て、単に趣味がいいとか悪いとか、金遣いが荒いとかいう話で終わらせるのも違う気がする。そこには、その人が生きてきた時代と、豊かさを手に入れることに対する考え方が表れている。

    ブランド品も家具も、ただの物ではない。何を選び、どこに金をかけ、どんな暮らしを実現したいと思うのか。その選択には、その人の価値観が出る。母親の買い物や家具を見ていると、物の好みというのは、思っている以上に、その人の人生そのものと結びついているのだと思う。

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