不動産価格下落
住み替えを真剣に検討してみて、最終的に行き着いたのは、拍子抜けするほどシンプルな結論だった。
あれこれとシミュレーションを重ね、住み替えに伴う出費を計算する。それを眺めているうちに、ふと肩の力が抜けたのだ。結局のところ、自分が狙う「日暮里圏内」において、どのマンションを選ぶかという問題は、利便性や資産価値を計算するような話ではない。単に「お気に入りか否か」という個人的な趣味の問題に過ぎないのではないか。
もっと極端に言ってしまえば、「駅まであと数分? それくらい歩けよ」という一言で、すべての迷いは雲散霧消してしまう。
しかし、一歩引いてマクロの不動産市場を眺めると、そんな個人の健脚をあざ笑うかのように、冷徹な地殻変動が起きている。
市場の炭鉱のカナリアは、いつも湾岸の晴海だ。あそこは全体のトレンドに先駆けて、真っ先に値が動く。今回の調整局面でも、晴海の下落は早かった。そして、その引き波は今や確実に、私の主戦場である日暮里へと波及してきている。
不動産市場の波及方程式は、いつも同じだ。まず湾岸や下町エリアが動き、その後を追うように新宿や池袋といった大都市圏が揺れ、最後に郊外へと伝播していく。
何より、時代が変わった。長く続いた金融緩和が終わりを告げ、「金利のある世の中」が幕を開けたのだ。これによって市場は完全に調整局面に入った。では、一体どこまで下がるのか。
長年、不動産市場を定点観測してきた経験から言えば、都内には「ここを見れば全体の潮目がわかる」という指標物件が何箇所か存在する。それらの値動きをじっと観察していると、山手線沿線のダイナミックなエリアでは、すでに大幅な値下げが始まっているのが見て取れる。
一方で、郊外の数字はまだそれほど動いていない。だが、それも時間の問題だろう。中心地で起きた地殻変動は、いずれ必ず外周へと波及する。
だから、リスクを背負ってまで落ちてくるナイフを掴む必要はない。
市場が底を打ち、完全に下げ止まるまで、今はただ「様子見」を決め込む。それが正解なのだろう。
日暮里の街を歩きながら、私は自分の足取りを確かめる。駅までの距離を、あえて少し遠回りしてみる。それくらい歩けば済む話なのだから。
住み替えという問題を考え続けてきたけれど、結局、今すぐ答えを出す必要はなかった。市場が静かに凪ぐのを待つ間、私の住み替え論争は、ひとまず心地よい保留の時間を迎えている。