
初学者が作るDCDCコンバーター〈回路設計と素子選定〉
DCDCコンバータをつくるのは初めてなので、こうして記録することで同じような考えを持つ人の参考になればいいなと思い書きました。この記事では回路設計と素子選定、次の記事では基板レイアウトを行います。このDCDCコンバータは今作成途中のスピーカーの一部になるので、投稿したらそちらの記事も見ていただけると嬉しいです。(大学が始まるので少し遅くなるかもです….)
24V入力5V出力を作りたいので電源ICはTexas InstrumentsのTPS54202を採用しました。
TPS54202は4.5〜28V 入力、2A 出力の同期整流型ステップダウンコンバータで、 スピーカーの 24V 電源から 5V を作る用途に適しています。
また、Texas Instrumentsのデータシートはとても親切かつ日本語訳されたものまであるので非常に便利です。
では回路設計から始めましょう
回路設計

上に簡単な回路図を作りました、基本の動作説明を①~⑤に分けてしていきます。
①Cin:入力コンデンサ
入力コンデンサは、入力電圧Vin を安定化し、スイッチングで発生する高周波パルスを吸収し、電流ループを最小化することでノイズと発熱を抑える、DCDC の中でも最重要部品のひとつです。
②IC:電源素子
IC は内部のスイッチング素子を高速でオン・オフし、入力電圧 Vin をパルス状の電力に変換します。 このパルスは後段のインダクタとコンデンサで平滑化され、安定した DC 電圧として取り出されます。
出力電圧は FB ピンに戻され、IC 内部の制御回路が 「目標電圧との差」を見ながらスイッチングの ON/OFF の比率(デューティ比)を調整し、出力電圧を一定に保ちます。
③Lo:インダクタ
インダクタは、IC が作り出すパルス状の電力をなめらかな電流に変える部品です。 スイッチが ON のときにエネルギーを蓄え、OFF のときにそのエネルギーを放出することで、出力側の電流が途切れずに流れ続けるようにします。この「エネルギーをためて、ゆっくり放出する」という性質によって、 SW ノードのパルスが連続した電流に変換され、後段のコンデンサと組み合わさって安定した DC 電圧が作られます。
④フィードバック分圧
フィードバック分圧は、出力電圧の一部を取り出して IC に「今の出力電圧」を知らせるための回路です。二つの抵抗で出力電圧を分圧し、その電圧が FB ピンに入力されます。
IC はこの FB 電圧を基準値と比較し、
高ければデューティ比を下げる。低ければデューティ比を上げる という調整を行い、出力電圧を一定に保ちます。この分圧回路によって、IC は常に出力電圧を監視しながら制御ループを回しています。
⑤Cout:出力コンデンサ
出力コンデンサは、インダクタから流れてくる電流を受け取り、出力電圧の揺れを抑える役割を持っています。 インダクタの電流はゆっくり変化するため、負荷の変動やスイッチングのタイミングによって電圧が上下しようとしますが、コンデンサが電荷をためたり放したりすることで、その揺れを吸収します。この働きによって、インダクタだけでは作れない安定した DC 電圧が得られます。

簡略化した回路を実際に使えるようにしたものをKiCadで作製しました。
先ほどの回路では説明できていない部分の補足をしていきます。
回路を見ると、入力コンデンサや出力コンデンサ、フィードバック分圧がごつくなってる部分に目が行くと思いますが、そこは素子選定の部分で解説します。
EN ピン周り(EN、R4、R5)
EN ピンは IC のオン・オフを決める入力で、一定以上の電圧になると IC が動作を開始します。 今回の回路では、EN ピンに抵抗を入れて Vin からゆっくり電圧が立ち上がるようにしており、電源投入時の急激な変化で誤動作しないように安定した起動をさせる役割があります。この構成により、電源が入った瞬間にノイズや瞬間的な電圧変動があっても、IC が意図せずオン・オフを繰り返すことを防ぎ、確実に起動できます。
BOOT ピン(ブートストラップ)
BOOT ピンは、IC のハイサイド MOSFET を駆動するための小さな補助電源を作るための端子です。 BOOT と SW の間に入っているコンデンサ(Cboot)が、スイッチングのタイミングで充電・放電し、ハイサイドを確実にオンさせるための電圧を供給します。この仕組みによって、IC は入力電圧に対して安定してスイッチングを行うことができます。
では回路が完成したので、素子選定に入りましょう。今回使うICはTIのTPS54202なので、データシートの式を参考に素子の値を決めていきます。
素子選定
Cin:入力コンデンサ

まず、データシートにある入力リップル電圧の式を使って、 入力リップルをおよそ 0.1V に抑えることを目標にしました。入力リップル電圧 ΔVIN は、ESR を無視するとおおよそ
式変形すると
で表されるので、ΔVIN=0.1V、fsw=500kHz、Iout(max)=2Aを代入して計算すると、Cbulk≈10uFになります。
使うコンデンサは CL31B106KBHNNNE(10µF, 50V, セラミック, SAMSUNG)です。ただし、このコンデンサは 24V を印加すると DC バイアス特性によって実効容量が約 3µF 程度まで下がるため、 1 個だけでは計算上必要な 10µF に届きません。そこで、同じコンデンサを 3 個並列にすることで実効容量を約 9〜10µF相当まで引き上げ、並列接続による ESL 低減 も同時に狙っています。10uFMLCCは容量が大きく、周波数特性があまりよくないので、0.1uFのMLCCを別に置くことで高周波パルスを吸収します。
Lo:インダクタ

まず、データシートの式を使って最小インダクタ値Lmin を求めています。
この式に、Vout=5V、Vin(MAX)=24V、Iout=2A、fsw=500kHz、Kind=0.3(リップル比 30%)を代入すると Lmin≈13.2 μH 程度になるので、 安全側を見て15µHを採用しています。使う部品は LSRNJ10145GL150MNYです。次に、選んだインダクタに流れる電流が熱的にも飽和的にも安全かを確認しています。
RMS 電流
なので、熱的に余裕を見るために 2A 以上の定格電流を持つインダクタを条件にしています。
ピーク電流
飽和しないように、Isat はマージンを取って 3A 以上のものを選定する必要があります。
さらに、ノイズ対策でシールドタイプ、DCR低めのものが好ましいです。
LSRNJ10145GL150MNYはこれらの条件をすべて満たすので、安全であるとわかります。
Cout:出力コンデンサ

まずはデータシートにある「負荷変動に対する出力電圧変動」から、 必要な出力容量Coutを見積もっています。許容する出力電圧変動 ΔVoutに対して、 必要な容量はおおよそ次の式で求められます。
D:ディーティー比は、次のように計算できます。
Iout=2A、fsw=500kHz、ΔVout=20mA、D=0.21を代入すると、C≈22uFになるが、TIのリファレンス設計では44uFが採用されているため、Cout=44uFを使用します。使う部品は GRM32ER71E226ME15L(22µF, 25V, MLCC)を 2 個並列にして、合計 44µF相当としています。
リップル電圧と ESR 条件の確認
出力リップル電圧は、 コンデンサの容量成分と ESR 成分に分けて考えられます。容量成分は
ESR 成分は
許容する出力リップル電圧を ΔVOUT=20mV とすると、 ESR に対しては次の条件になります。
インダクタのリップル電流を ΔIL≈0.3〜0.4A とすると、
となります。
実際に使う MLCC(GRM32ER71E226ME15L)は ESR が 0.01Ω 以下の領域なので、 リップル電圧 20mV に対して十分な余裕があることがわかります。
出力電圧設定(フィードバック分圧)

TPS54202 の出力電圧は、R2・R3 の分圧で決まります。データシートの式は
Vref=0.596 V
目標 VOUT≈5 V
なので、理想的な抵抗比は
標準値から
R2=100 kΩ
R3=13.3 kΩ(1%)
を選ぶと、比率は
これを式に戻すと、
となり、5V に対して約 +1.6% の誤差。 1% 抵抗の誤差や IC のリファレンス誤差も含めて考えると、十分許容範囲の 5V 設定と言えます。
R1 は FB ライン直列の 49.9Ω で、
制御ループの安定性評価時にループを切る“測定ポイント”
高周波ノイズのダンピング要素
として入れているものです。 値は小さいので DC の出力電圧にはほぼ影響しません。
EN ピンの起動電圧を決める分圧

TPS54202 の EN ピンは
1.21〜1.28V で起動
1.10〜1.19V で停止
するため、VIN を分圧してこの電圧になるように設定します。
EN ピン電圧は次の式で決まります。
起動電圧を VEN(START)≈1.22 V とすると、 必要な抵抗比は次の通り。
VIN を 19V 付近で起動させたいので、
標準値から
R4=1.5 MΩ
R5=100 kΩ
を選ぶと、比率は
この分圧比だと EN 電圧は
起動電圧(EN ≈ 1.22V)
停止電圧(EN ≈ 1.16V)
EN ピンは内部しきい値が約 1.2V のため、VIN が約 19V になったときに EN が 1.22V になるように分圧比を設定しました。 理想比は R4/R5 ≈ 14.57 ですが、標準値から R4 = 1.5MΩ、R5 = 100kΩ(比率 15)を採用しています。 この構成では約 19.5V で起動し、約 18.6V で停止する UVLO として動作します。
これで素子選定は終わりです。ここまで読んでくださりありがとうございます。今回はDCDCコンバータの回路設計と素子選定を行いました。次回は、KiCadを使用してプリント基板のレイアウト設計を行いながらレイアウトで気を付ける部分をまとめていきます。
余談
今はんだ付けまで終わって完成したDCDCコンバータが手元にあるんですが、これを評価するためにオシロスコープが必要なんですよね、、、
一応大学でオシロ使える場所はあるのですが時間も17時までだし平日しか空いてないので買おうかなと思っています。RIGOLの6万くらいのやつにしようかなと思っているのですが、大学生には痛い出費ですね。おすすめあれば教えてください!