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魔王を倒した勇者は、世界の外に出てしまった。|需要どこですか #023

筆者:じゅよどこ
ジャンル:ファンタジー × SF × ミステリー


序章 世界最後の夜

魔王の心臓を、聖剣が貫いた。

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「……これで、終わりだ」

勇者リシアは荒い息を吐きながら、血に濡れた剣を握りしめた。

崩れかけた玉座の間。

床には砕けた黒曜石が散らばり、天井からは赤い月の光が差し込んでいる。

目の前には、千年にわたり人類を脅かしてきた魔王ヴァルゼインがいた。

黒い角。

六枚の翼。

人間の二倍はある巨体。

そして、胸に突き刺さった聖剣。

魔王は自分の胸元を見下ろし、静かに笑った。

「見事だ、勇者」

その声は、不思議なほど穏やかだった。

「これで人類は救われる」

「そうだ。お前の軍勢は敗れた。もう誰も、お前のために死ななくて済む」

「……そうか」

魔王は天井を見上げた。

「では、最後に一つだけ聞こう」

「何だ」

「お前は、空の向こうに何があるか知っているか?」

リシアは眉をひそめた。

「空の向こう?」

「そうだ。この世界の、外側だ」

「天界だろう。神々の住む場所だと教わった」

「……そう教えられたか」

魔王は寂しそうに目を細めた。

「勇者よ。お前は、よく戦った」

その口元から黒い血が流れ落ちる。

「だが、一つだけ間違えた」

「何を?」

魔王は答えなかった。

代わりに、リシアの聖剣を両手で握った。

「私は、お前たちを滅ぼそうとしていたのではない」

「何……?」

「私はずっと――」

その瞬間。

玉座の間を、聞いたことのない音が貫いた。

鐘でも、雷でもない。

金属が擦れるような、高く冷たい音。

魔王の表情が変わった。

恐怖だった。

千年間、一度も敗北を知らなかった存在が、初めて恐怖していた。

「早すぎる……!」

「何がだ!」

「リシア!」

魔王が叫ぶ。

初めて名前を呼ばれたことに、リシアは一瞬息を呑んだ。

「空を見るな!」

魔王の体が崩れ始める。

黒い粒子となって、指先から消えていく。

「お前が見れば、奴らもお前を見る!」

「待て! 何の話だ!」

「世界を――」

魔王の最後の言葉は、音にならなかった。

光が消えた。

聖剣から重みが失われ、リシアは前のめりによろめいた。

魔王ヴァルゼインは、跡形もなく消えていた。

そのときだった。

天井の向こうで、空が割れた。


第一章 空の傷

「……何だ、あれは」

玉座の間を飛び出したリシアは、城の外で立ち尽くしていた。

夜空に、巨大な亀裂が走っていた。

まるで青く塗られたガラスが割れたかのように。

亀裂の向こうには、星がなかった。

そこにあったのは、銀色の壁だった。

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どこまでも続く巨大な金属の壁。

規則正しく並んだ無数の光。

見たこともない構造物が、空の裏側に広がっている。

「リシア!」

背後から声がした。

振り返ると、魔導士エルナが駆け寄ってきた。

銀髪を後ろで束ねた、リシアの幼なじみ。

魔力を使い果たしたのか、青いローブはボロボロだった。

「魔王は!?」

「倒した」

「本当に!?」

「ああ。でも……」

リシアは空を指さした。

エルナが顔を上げる。

「……うそ」

それきり、言葉を失った。

二人の背後では、魔王城の兵士たちが次々に空を見上げていた。

誰も歓声を上げなかった。

魔王が倒れた。

戦争が終わった。

本来なら、祝福されるべき瞬間だった。

それなのに、世界は静まり返っていた。

やがて、空の亀裂から光が降りてきた。

細い青白い光。

それはリシアの目の前で止まり、人間の形を作り始めた。

半透明の少女だった。

白い服を着て、表情がない。

足は地面に触れていなかった。

「何者だ!」

リシアは聖剣を構えた。

少女は剣に目もくれず、口を開いた。

『第七文明実験区。管理者の消失を確認』

聞いたことのない言葉だった。

『保護機構停止。外部観測制限解除』

「何を言っている?」

『人類文明、発展段階四。自律進化適性、基準値超過』

エルナが小声で言った。

「リシア……これ、魔法じゃない」

「分かるのか?」

「分からない。でも魔力を感じないの。何も」

少女の瞳がリシアを捉えた。

『管理者殺害個体を確認』

「……私のことか?」

『個体名、リシア・アルフェイン。勇者認定。外部転送候補』

少女の背後に、光の輪が現れた。

その中心には、見たこともない景色が映っている。

白い廊下。

青く光る床。

巨大な窓。

そして窓の向こうに浮かぶ、青い球体。

「エルナ……あれは何?」

「分からない……」

少女は無機質な声で告げた。

『確認します。あなたは外部世界への移行を希望しますか?』

リシアは剣を握り直した。

魔王の最期の言葉が頭をよぎる。

――お前が見れば、奴らもお前を見る。

「その前に答えろ」

『質問を許可します』

「魔王は何を守っていた?」

少女は数秒間、沈黙した。

『回答不能。旧管理者による情報制限を検出』

「では、この世界は何だ?」

再び沈黙。

やがて少女は答えた。

『本区域は、人類文明再生計画に基づいて建造された――』

突然、空が赤く点滅した。

少女の輪郭が乱れる。

『警告。未認可個体への情報開示を検出』

『外部監査機構、接近中』

エルナが叫んだ。

「リシア! 空の向こうから何か来る!」

銀色の壁の一部が開いた。

そこから、巨大な黒い物体が姿を現す。

翼のない、鋭い三角形の何か。

魔法陣もない。

羽ばたきもしない。

それなのに、空中に浮かんでいる。

黒い物体の底から、一本の赤い光が伸びた。

光は魔王城の外壁に触れた。

次の瞬間、城壁が消えた。

爆発ではなかった。

砕けもしなかった。

ただ、そこにあった石が、最初から存在しなかったかのように消失した。

「……逃げるぞ!」

リシアはエルナの手をつかんだ。

しかし少女が立ちはだかる。

『外部監査機構による文明初期化が開始されました』

「初期化?」

『区域内生命体の消去まで、残り三十一分』

二人は凍りついた。

少女は淡々と続けた。

『旧管理者ヴァルゼインは、過去九百八十七年間、初期化処理を妨害していました』

「……何だって?」

『妨害機構は停止しました』

魔王を倒した。

世界を救った。

そう信じていた。

けれど、少女は告げた。

『勇者リシア。あなたの行動により、世界の消去が確定しました』

リシアの足元から力が抜けた。

彼女の頭の中で、魔王の最後の言葉が蘇る。

――私はずっと、お前たちを滅ぼそうとしていたのではない。

空の向こうで、赤い光がもう一度瞬いた。

 
 
需要があるかは知らない。作りたいものを作ります。

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