
好きな作家の心がポッキリ折れないうちに、もっと愛を伝えなきゃ。──『スロウハイツの神様』を読んだ感想
愛の言葉って、照れくさくてなかなか言わない。言わなくても分かるでしょっていう気持ちにもなってしまう。
好きな作家さんが有名だと、自分の声はどうせ届かないんじゃないかという諦めもさらに入って、直接伝えることもやめてしまう。
でも『スロウハイツの神様』を読んで、もっともっと好きな人に愛を伝えていかねばならないなあと、気持ちを新たにした。

派手な事件を起こして、死んでしまわなければ、声を届けてはもらえませんか。生きているだけでは、ニュースになりませんか。
この文章は、作中に出てくる人気作家、チヨダ・コーキのファンである1人の少女が新聞社に送った手紙の一部だ。
チヨダ・コーキは、自分の小説がきっかけで人が死んでしまったという過去があり、世間から激しいバッシングを受けていた。集団自殺の首謀者が、チヨダ・コーキの小説を参考にしていたのだという。
しかし、かつて自殺を考えていたファンの少女は、チヨダ・コーキの小説を読んで逆に命を救われた1人だった。そこで、作品が人を死なせてしまったということばかりがクローズアップされているが、自分のように救われた人間もいるのだと新聞社に訴える。
何か大きな問題が起こった時と比べて、何も問題が起きずに平和でいられること、チヨダブランドがただただ面白いからっていう理由だけで今日も私や、他のファンの人たちが生きていられるという、チヨダ先生の功罪の功の方は、ほとんど表に出ることがありません。
彼女の手紙での訴えは連日に及んだというが、ついにはこの手紙が新聞に取り上げられて、チヨダ・コーキの目にとまることとなる。
そして、事件を機に廃人のようになっていたチヨダ・コーキは、この手紙をきっかけに再び創作への意欲を取り戻していく。
この文章を読んで、ただでさえ否定の言葉が届きやすい世の中で、私は人生を救ってくれた作者への愛を伝えきっただろうかと振り返っていた。
ファンレターという形ではなくてもいい。せめてネットのこうした海に、自分の愛を浮かべきったと言えるだろうか。
作品を買う、見るという形では応援していたし、感想もポツポツとnoteに書いていたけれど、きっと、まだまだ足りない。心に秘めて、自分の日記帳の中でしか完結させていなかった思いも多い。
愛はニュースになりにくいのかもしれない。SNSが浸透し、多くの人が言葉を届けやすくなった一方で、トゲのある否定の言葉が注目を集めやすいのも事実だ。
そんな今だからこそ、作者さんへの愛の言葉を叫び続けたい。私も、自作ZINEを作ったときにかけてもらったたくさんの言葉に、どれほど心を救われたか分からない。
愛の言葉をはっきりと伝えきること。それが、好きな作家さんがもしポッキリと心が折れそうなとき、その心が立ち直るための水を少しでもあげられるのかもしれない。

本の帯には、「“20代の辻村深月はこれが書きたかった”という小説だと思っています」という作者の辻村深月さんの言葉が書かれていた。
24歳でデビューした辻村さんが、27歳のときに発売されたこの本。駆け出しの作り手としての辻村さんの叫びが、この本には詰まっているような気がする。