
オリジナル短編小説『分裂した日本』
「日本は終わった。政治は誰に任せても変わらない。これまで、様々な声に耐えてきました……」
突如始まった総理大臣の緊急記者会見。
言葉を失う記者たちの前で、総理は深い沈黙のあと、あり得ない発言を続けた。
「えーー、これから国民の皆様は、ご自身の出身地で生活をしてください。結婚している場合は、夫、もしくは妻の出身地を選択して生活をしてください」
静まり返っていた会場が一気にザワつく。
「旅行の場合は最長で6ヶ月間までとする。仕事は、拠点となるご自身の出身地で勤めることとする。
これからは自分の出身地である47都道府県を大切にし、守ってください。日本を、皆さんの手で守ってください」
会見の模様をテレビで見ていた佐伯家のリビングでは、呆れたような声が漏れていた。
「本当かな、これ」と夫の満。
「いやー、無理でしょ」
妻のしずくが鼻で笑う。
「国民全員が言うこと聞くなんて、できるわけないよな」
「うん、無理無理」
人々は、発表から3日も経てば誰もが忘れて元通りの日常に戻るだろうと考えていた。
しかし、その思惑はすぐに打ち砕かれた。
国民一人ひとりのもとに、郵便物やメール、LINEが一斉に届いたのだ。
そこには『あなたはいま、どこに住んでいますか?』という問いとともに、厳格な通知が記されていた。
——3ヶ月以内に指定の場所へ引越しをすること。
——実家などがない者は、県営住宅や市営住宅に入居すること。
——仕事がない者、転職をする者は、速やかにハローワークへ向かうこと。
国家の強制力は本物だった。
夜の公園。
ベンチに腰掛けた清武は、葵に切り出した。
「俺の親父の地元が島根だから……来週には島根に引っ越すことになった」
「島根だったの? 聞いてないよ……」
葵の顔が曇る。
「普段、わざわざ親の地元の話なんてしないもんな」
「じゃあ……さよならなの?」
「さよならじゃないよ。少し距離が離れるだけだ」
「無理だよ、寂しいよ……」