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ニューヨークで大勢の黒人たちに囲まれた話

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    90年代に撮影した昔の写真。この笑ってくれた子も今はもう立派な大人でしょうね。

     ちょいちょい話たりしてるんですが、懐かしい思い出として、書いておこうかな、と。

     私は90年代後半、ニューヨークマンハッタンの会社でカラオケ機材のデリバリーの仕事をしてました。当時は通信カラオケなんかないので、CDやLDの新譜を毎月お客さんに配布したり、カラオケ機材のレンタルの依頼があると、それらディスクやプレイヤー、スピーカー、アンプ、モニターなどをレンタルでデリバリーするんです。

     なかなか楽しい仕事でした。おそらくですが、当時ニューヨーク市内で一番運転してた日本人は私かもしれません。

     市内はあちこち行きました。マンハッタン内はもちろん、ブロンクス、クイーンズ、ブルックリン等々。お客さんは個人の場合もあるし、企業の場合もあります。今は亡きワールドトレードセンターに入ってる企業なんかもレンタルしてくれてましたね。企業の場合はいったん機材の設置が終わったら、景気付けに一曲歌うみたいなこともしてました。

     そんな仕事なわけですが、ある日私ともう一人の二人組でデリバリーすることがありまして、ブルックリンまで行くわけです。届け先は学校でした。デリバリー途中で、もう一人の人に連絡があり、急用で今からその車で別の場所に向かわなければならん、と。

     学校は近いから、車から機材一式出して歩いて運ぼう、ということになりました。その運ぶ役が私です。当時若かったし、割とニューヨークにも慣れてたし、昼で明るかったし。まあ危ないことはないだろう、と。

     そんなわけで、紙の地図を見ながら(当時スマホはおろかガラケーだってアメリカでは普及前でした)、スピーカーやらプレイヤーやらをゴロゴロ押してブルックリンを歩き始めました。レンタル用にコンパクトになってるものの、機材一式はまあまあの量で、モタモタ運んでるわけです。
     「ヘイ、お前一人で何してる?」と声をかけられました。
     黒人のお兄さんたちがゾロゾロ集まって来て、私を珍しそうに囲みました。怖い人たちか?と思ったけど、何となくフレンドリーな雰囲気だ。その中のボス的なお兄さんが私に話かけてきました。
     「お前はミュージシャンか?」
    「ノー、俺は配達人だ。カラオケの機材を配達中なんだ」
    「ひとりで、そんな荷物も持って? クレイジーだな」と笑うボス。
    「そうなんだ。ちょっとトラブルがあって、歩いて運んでる」
    「どこまで行きたいんだ?」
    「◯◯っていう学校だ」
    「そこなら、よく知ってる。でも歩いてこの機材を運ぶには距離ありすぎるぜ?」
    「まあ仕方ない。歩いて運ぶよ」
    「ふーん。もしよかったら、俺の車で、お前の機材運んでやるぜ? どうだ?」
    (マジかよ。大丈夫かな、こいつら。自分は人種にそんなに偏見ないタイプですが、ビビりなので、むやみやたらに冒険するタイプでもありません。)
    「いや、せっかくだけど、自分で運ぶから大丈夫だよ」
    「そういうなって。俺にまかせろ。ちょっと待ってろ」と言ってボスは仲間を残していなくなり、私は仲間に囲まれてボスを待つ展開に。
     ボスはすぐにSUVを運転してきて、仲間に機材をSUVに積んでしまいました。
    (まいったな、こいつら。悪い奴じゃなそうだけど、大丈夫かよ、これ)と思いつつも、機材を放り投げて逃げるわけにもいかず、車に乗ることに。今思えば機材は捨てて逃げるが正解ですね。あと、このボスには小さい子供を連れてて、それが車に乗る判断材料のひとつになりました。ただその子供は仲間預けられる予想外の展開になります。

     その頃には、私はもう車の中。どうしようもありません。
    (ままよ! いざとなったら、走行中でも車のドア開けて脱出したらぁ!)と自分に気合を入れました。
     機材を車に乗せてから5〜10分。まぁまぁ緊張してた私ですが、ボスは正直に私と機材を学校まで送り届けてくれました。車で5〜10分だと、確かにちょっと距離あるな、と思いました。車と徒歩の感覚がちょっとズレてましたね。
     ボスは学校の人とも知り合いみたいで、学校に入るのもスムーズです。
     疑って悪かった、ボスよ。でも大勢で囲まれたらやっぱり疑うよね。そして「俺無事で良かった」と思いました。
     「帰りも乗って行くか?」とボスに聞かれたのですが、
    「いや、ちょっと学校の人にサインとか書類の手続きあるので、待たせちゃうと悪いから。サブウェイで帰る」と全力で断りました。私はボスに「これ少ないけど」と言って20ドル札を渡しました。
     その後、このてんまつを職場に報告したら、やはり怒られました。
    「機材の責任、私自身の安全、その状況での勝手にチップ。でも無事で何より」
     でもそのチップ代も、私のあまりにものバカさ加減を同情してくれたようで精算してもらいました(若い頃の20ドル=約2000円ははした金じゃない大金です)。
     自分でも今思うとなんとバカなことを。と思います。仮にいま職場で同様のことを部下がしたら、相当怒るでしょうね。「機材の責任、身の安全、チップの判断」と何もかも普通の判断基準が欠落してます。
     という思い出でした。

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