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京伝憂世之酔醒②~次々願いがかなう不思議な世界

     こんなことがしたい、あんなことができたらいいなと夢見る大人の夢をかなえる江戸の絵本作品。
     「京伝きょうでん憂世之酔醒うきよのえいざめ」は、山東京伝さんとうきょうでん作、兎角亭亀毛とかくていきもう画の黄表紙きびょうし(1790刊)。全三巻の二巻目の現代語訳の紹介。 

     仙術せんじゅつを身につけた京伝は、女郎遊びをしたいと深川にやってくる。

     


    中巻
    六

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     ほどなく深川へ着き、新尾花屋おばなやへ行き、有名な遊女を呼び遊びければ、日頃ひごろの思いを晴らす。ちと座敷ざしきがさみしく思い、またまた、「なったりなったり」と手を打つと、たちまち太鼓持ちたいこもち、流行の芸者がやってくる。
    芸者「芸者の小吉こきちは、今はどういう名前で出ているの。そうそう、八幡屋やわたやの千蝶せんちょうも呼んだらいいね」
    女「きれいな子なら、おかつさんあたりがいいんじゃないの」
    男「旦那だんなのおしゃれはきついものきついもの」
    京伝「これこれ、あんまり旦那だんな旦那と言うな。今まで旦那と言われたこともねえ」

     


    七

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     深川で二三日居続いつづけして遊びつくし、ちょいと家へ帰ろうと思い、「なったりなったり」と手を打つと同時に、二階まで猪牙舟ちょきぶねが来て、ひらりと乗ると、たちまち家の前へ着く。仙術せんじゅつとは奇妙きみょうなものなり。そのあと、もちっと気分をかえて、今度は品川で遊ぼうと思い、「なったりなったり」と言うと、芝しばの駕籠屋かごや、初音屋はつねやから駕籠かごが来て、縁側えんがわから乗ると、またまた急いでかつぎ出す。
    駕籠かき「旦那だんな、雨が降り出してお悪うござります」
    京伝「雨に濡ぬれて乗るのもドラマのようだ。これ、おれは腰が痛いので、静かにやってくれよ。急いで行くのは野暮やぼなもんだ。はてさて、仙術せんじゅつというのは怖こわいものだ。腰が痛くなったり通つうな病やまいを覚えてしまった」

     


    八

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     ほどなく品川に到着し、大松坂屋の其朝そのあさ、新松坂屋のうららか、村田屋の松山、新叶屋かのうやの大滝おおたき、そのほか有名な遊女を呼んで、ここにてもぜいたくな遊びをして、二三日居続いつづけをしたけれど、だれひとり代金を払はらえと言う者もなく、心おきなく日頃ひごろの望みをかなえる。
    男「穴の稲荷いなり(鮨ずし)が流行はやりだしております。一つ召めし上がりませ。もうすぐ江戸でも流行はやりましょう」
    京伝「大和屋の圧坊しょうぼうは元気かな。さたつ、そうが、うゆう、なんぞも今年は伊勢参りをしたそうだのお。男芸者の惣介そうすけと栄蔵えいぞうと、高輪たかなわの稲本いなもとを呼んでくだせえ」

     


    九

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     京伝、品川にも飽あきて、今日はちと芝居に行こうと、「なったりなったり」と言えば、たちまち中村勘三郎かんざぶろうの芝居小屋しばいごやから迎むかえの人がやって来た。桟敷席さじきせきも用意してあり、茶屋からはさまざまな食べ物を運んで、何不足なにふそくなく見物する。ちと桟敷さじきに花がほしいと思えば、美しい江戸芸者、有名な芸能界の少年まで来たりけるこそ、不思議ふしぎともなんとも言いようがない。
    京伝「桜田治助さくらだじすけの作品は、時代の好みをよくわかった芝居だ」
    客「大坂市山座の芝居で、吾妻藤蔵あづまとうぞうの七変化、市川八百蔵やおぞう、中車ちゅうしゃの演技が大当たりで、嵐雛介あらしひなすけの芝居がすごいらしいですぞ」
    客「あれ、向こうで見学しているお屋敷の女性方は、たしか松平出羽守まつだいらでわのかみ様(出雲松江藩主)のお屋敷だ。どの女性も美しい。衣装もすてきだ。あれを見れば、お屋敷の女性もまんざらじゃあねえな」

     


    十

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     それから京伝は、テンションがあがって、今日は相撲すもう、明日は向島むこうじまで観光、あさっては萩寺はぎでらで萩見物、そのあくる日は吉原の遊郭ゆうかくで居続いつづけと、日頃こうしたい、ああしたいと思っていたこと、すべてしつくす。これ、みな仙術せんじゅつの徳とく、現代の奇怪きかいというべし。
    京伝「おお、見える見える」
    船頭「お危あぶのうござります」
    女「おお、恐こわ」

     


    十一

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     京伝、つくづく思うに、今まで日頃ひごろの望のぞみ、みんなかなった。これからは、ちと家でも楽しむために、よい妾めかけを求めようと、またまた「なったりなったり」と手を打つより早く、熟女、二十代、十代の振り袖ふりそで姿と、三人まで美しい女性が、ほうふつとしてあらわれる。
    京伝「さてさて、みんな美しい。喜瀬川きせがわ、花扇はなおうぎ、常磐津ときわず、花紫はなむらさきといった有名な遊女みたいだ。早くいっしょに寝てみたい」
    女「わっちは、泣き声がすばらしいさ」
    女「私わたくしはタコのように吸い付きますよ」

     


    次々願いをかなえた京伝は、このあとどうなるか。最終回につづく。 


     
     
    神戸からの風。 歓怒の文字は「歓喜」「怒り」「喜怒哀楽」を示し、「かんど」は漢字では「神戸」とも書ける。「感動」とも書ける。 毎週、日曜日、木曜日更新。

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