メインコンテンツへスキップ
見出し画像

観葉植物のハイドロカルチャーは、虫が減って洗う手間が増えます

    「土を使わないなら、虫も出ないし世話も楽そうだ」

    店先に立っておりますと、そうおっしゃってハイドロカルチャーを始めようとされる方に、よくお会いします。

    気持ちは、たいへんよく分かります。部屋の中に土を持ち込むことに抵抗がある方にとって、透明な容器に入った清潔なボールは、とても手軽に見えるものでしょう。

    ですが、育てる前にひとつだけ知っておいていただきたいことがあります。

    ハイドロカルチャーは、楽になる育て方ではありません。世話の中身が入れ替わる育て方です。

    土の手間が減る一方で、土の鉢にはなかった別の手入れや置き場所の縛りが生まれます。

    枯れるのには、必ず理由があります。

    失敗を防ぐために、何が減って何が増えるのか、その仕組みを順にお話ししていきましょう。


    水やりは、量ではなく水位で決めます

    ハイドロカルチャーの水位の目安の図。容器の断面で、底に根腐れ防止剤、ハイドロボールは容器の3分の2程度まで、水は底から4分の1から5分の1までと示し、満杯にしない理由と次に水を足す時期を添えている。
    ハイドロカルチャーの水位の目安の図

    ハイドロカルチャーは、土を使わない植物の栽培方法です。なかでもハイドロボールという植え込み材を使うものを指して、そう呼ぶことが多くあります。

    始めるにあたって、真っ先に覚えるべきなのは水の与え方です。土の鉢では「鉢底から水が流れ出るまでたっぷりと」が基本ですが、底に穴のない容器を使うハイドロカルチャーでは、まったく別の物差しが必要になります。

    見るべきなのは、注いだ水の量ではなく、容器の中に溜まった「水位」の高さです。

    ここは、カルテに書いておきましょう。注ぐ水の目安は、容器の4分の1から5分の1の高さです。

    透明なガラスやプラスチックの容器を使っていると、つい上までなみなみと水を注ぎたくなります。ですが、容器が満杯になるほど水を加えるのは避けましょう。資料は理由もはっきり書いています。根が水につかりっぱなしになると呼吸ができず、根腐れしてしまいます。 水は多いほど安心、という感覚がここでは逆に働きます。底から容器の4分の1から5分の1。この高さを守ってください。

    次に水を足すタイミングも、土の鉢とは大きく異なります。土の鉢であれば「土の表面が乾いたら」が合図ですが、ハイドロカルチャーで水を足すのは、容器に水がなくなり、2〜3日経ってからです。

    底に溜まっていた水が消えた直後も、まだ足しません。乾いている数日を、そのまま置いておく。水が切れたらすぐ足したくなりますが、そこを2〜3日待ちます。

    もし目測を誤って水を多く入れすぎてしまったときは、容器を傾けてこぼしておきましょう。その際は、容器の中の苗が水と一緒に飛び出ないように、株元を手でしっかり押さえながら静かに傾けるのが失敗しないコツです。

    ここで、水を受け止める資材についても正しく知っておきましょう。使われている茶色い丸い粒は、一般にハイドロボールと呼ばれています。粘土を高温で焼いて発泡させたボール状の石で、発泡煉石(はっぽうれんせき)とも呼ばれる資材です。一つ一つの石には細かい穴がたくさん空いていて、その中に取り込まれた空気が植物に酸素を供給してくれます。劣化しにくく、洗って繰り返し何度でも使える点も大きな特徴です。手元に無ければ、1リットルの小袋から売っています。小さな器ひとつなら、これで足ります。



    植えつけは、根の土を落としてから

    画像

    苗を植えつける実際の手順も、順を追って整理しておきましょう。土で育っていた苗をハイドロカルチャーへ移行させるには、事前の準備と丁寧な手作業が必要になります。

    まず、底に穴のない清潔な容器を用意します。その底に、根腐れ防止剤を敷きます。根腐れ防止剤とは、一緒に容器へ入れておくと、根腐れが起こりにくくなる資材です。敷く量は、容器の底面が隠れる程度が目安となります。

    次にハイドロボールを入れますが、植えつけに使うボールは、あらかじめ軽く水洗いしておきましょう。そうしておくと、あとから水を注いだときの濁りを軽減できます。軽く洗ったボールを、容器の3分の2程度の高さまで入れておきます。

    主役となる植物のほうは、ポットから抜いたら、まず根に付いた土をよく払い落とします。ただし、無理に引っ張って根をちぎってしまっては本末転倒です。根を傷めないように、水を張った容器につけて優しく洗ってあげましょう。水の中でそっと揺らすようにすると、根を傷めずに土がきれいにほぐれて落ちていきます。

    根の周りの土がきれいに落ちたら、容器の中央に植物を据えます。そして、ピンセットを使い、ハイドロボールが根の隙間にしっかりと入るように位置を調整していきます。指先だけでは届かない根と根の間の空間を、ピンセットを使ってボールで丁寧に埋めていくことで、株がぐらつかずにしっかりと固定されます。

    最後に、はじめにお伝えした高さまで水を注げば、植えつけは完了です。

    植えつけの手つきは、映像のほうが早く伝わります。ホームセンターが、土を落として容器に植えるところをひと通り見せています。



    減るのは虫とにおい、増えるのは洗う手間

    ハイドロカルチャーに替えると減るものと増えるものの図。土の鉢から替えると虫やにおい、土の汚れ、水やりの迷いが減り、半年から1年に1回の洗う手間、根腐れの起こりやすさ、置き場所の制約、肥料が増え、あまり大きく育たないことを左右に並べている。
    ハイドロカルチャーに替えると減るものと増えるものの図

    ハイドロカルチャーに切り替えることで、日々の管理の何が減り、何が増えるのか。得られる利点と引き換えになる手間の両面を、公平に並べてみます。

    まず、減るものは日々の不安や室内ならではの不快感です。資料では、ハイドロカルチャーの利点として次の4つが挙げられています。

    1つ目は、水の管理のしやすさです。透明な容器を使っていれば、水がどれくらい残っているのか、減っているのかが目で見てすぐに分かります。土の中の湿り気は見えにくく、乾いたかどうかの判断に迷うことがありますが、ハイドロカルチャーならその迷いがなくなります。

    2つ目は、清潔感です。ハイドロボールは粘土を高温で焼き固めた無機質な石ですので、資料には「基本的に無菌で清潔」と書かれています。有機物を含まないため嫌なにおいが発生せず、虫がほとんど寄ってこない環境を保てます。コバエをはじめとする土の虫を部屋の中に持ち込みたくない方にとって、この清潔さは大きな安心材料となるでしょう。ただし、あくまで「ほとんど寄ってこない」のであって、絶対に湧かないわけではありません。また、無菌ではあっても管理の仕方によっては白いものが付着することがあります。その見分け方については、最後の質問のところで詳しく触れることにしましょう。

    3つ目は、インテリアとの合わせやすさです。底に穴のない容器を使うため、専用の植木鉢を用意する必要がありません。空き缶やガラス瓶、使わなくなったコップなど、身近にあるお気に入りの器を使って自由に植物を飾ることができます。

    4つ目は、費用の節約のしやすさです。ハイドロボールは劣化しにくく、植物を植え替える際にも捨てずに洗って繰り返し何度でも使えます。植え替えのたびに新しい土を買い直す必要がありません。

    その一方で、増える手間や受け入れなければならない制約もあります。資料が挙げている難点は主に2つあります。

    1つ目は、あまり大きく育たないという点です。ハイドロカルチャーで育てると、植物の生長は緩やかになります。資料は、あまり大きく育てることはできない、とはっきり書いています。

    ただし、これは室内栽培においては利点とも捉えられます。大きく育ちすぎないということは、最初に置いた机の上や棚のスペースを圧迫せず、お気に入りの器に入ったコンパクトな姿を長く維持できるという意味でもあるからです。

    2つ目は、根腐れを起こしやすいという点です。穴のない容器の底に水が溜まる構造であるため、水やりの間隔を誤ったり老廃物が溜まったりすると、土の鉢以上に根が腐りやすい弱点を抱えています。

    ■ 減るもの → 水やりの迷い、土の汚れ、におい、虫の寄りつき
    ■ 増えるもの・制約 → 定期的な洗浄、大きく育たないこと、根腐れへの注意

    「楽になる」と期待して替えると、洗う手間のところで面食らいます。入れ替わるのだと分かったうえで迎えれば、どちらも受け入れやすくなります。

    土を使った室内栽培で虫を抑える工夫については、「虫がわかない土のカルテ」でも詳しく書きました。土の育ちやすさを保ったまま虫を遠ざけたい方は、こちらも参考にしてみてください。



    根腐れしやすいのは、微生物がいないからです

    画像

    底に穴のない容器で育てていると、どうして根が腐りやすくなってしまうのでしょうか。その理由は、容器の中に「微生物がいないから」です。

    植物は生きているかぎり、呼吸を行いながら、根の先端から老廃物を外へ排出しています。

    通常の土栽培であれば、根から出された老廃物は、土の中に無数に存在する微生物たちが分解してくれます。微生物の働きによって老廃物は浄化され、土の中の環境は自然に循環していきます。

    ところが、高温で焼き固められた人工の石であるハイドロボールには、そうした微生物が存在しません。分解してくれる相手がいないため、根から出た老廃物は行き場を失い、容器の底に溜まり続けてしまうのです。

    行き場のない老廃物が溜まり続けたところで、根が傷む。これが、資料の言う「根が排出する老廃物が容器内に溜まり根が腐ることも」という一文の中身です。

    ええ、枯らしました。堂々と枯らしました。水やりが楽になったと思って油断すると、ここでつまずきます。

    この老廃物の蓄積を防ぐ手当てが、定期的なボールの洗浄です。

    手入れの目安として、半年から1年に1回、容器からハイドロボールをすべて取り出して洗う作業が必要になります。

    取り出したハイドロボールをざるにあけ、水道の水できれいに洗い流します。そして、容器の底に敷いていた根腐れ防止剤も、古いものを捨てて新しいものへ交換してください。半年から1年ごとに石を洗い、防止剤を入れ直す。微生物のいない容器の中では、この入れ替えが土の代わりを務めます。


    向くのは、ポトスやガジュマルなど少しの光で育つ5種です

    画像

    ハイドロカルチャーには、どんな観葉植物でも植えてよいわけではありません。適しているのは、日光が少なくても生育できる耐陰性の高い植物です。

    耐陰性とは、日当たりの悪い場所や薄暗い室内でも耐えて育つ性質のことです。もともと熱帯のジャングルで大きな木の足元などに自生していた植物は、わずかな木漏れ日を効率よく使って生きる力を持っています。そうした性質を持つ品種であれば、光が届きにくい室内でも弱りにくく、元気に育ってくれます。

    資料の中で、ハイドロカルチャーに向いている植物として名前が挙げられているのは、次の5種類です。

    ■ ポトス
    ■ デコラゴム
    ■ テーブルヤシ
    ■ ガジュマル
    ■ モンステラ

    これらはどれも少しの日光でもすくすくと育つため、ハイドロカルチャーに向いています。最初の一鉢には、実績がはっきりしているものを選ぶのが確実です。資料に名前が無い品種は、向くかどうかの裏付けがありません。

    光合成に必要な光の要求量が穏やかな品種を選ぶことが、ハイドロカルチャーを長く楽しむための堅実な出発点となります。

    室内の日陰で植物がどう変化していくかについては、「日陰の3段階をまとめたカルテ」で詳しく書きました。光の量と株の体力の関係を知りたい方は、こちらも合わせてご覧ください。



    置き場所は、土の鉢より狭くなります

    画像

    ハイドロカルチャーを部屋のどこに置くかという問題には、特有の難しさがあります。実は、土の鉢よりも選べる場所が狭くなってしまうのです。

    一般に観葉植物は「日当たりが良い場所ほど元気に育ちやすい」と考えられがちです。土の鉢であれば、窓際で日光をたっぷり浴びせる管理が好ましい場合も多く見られます。

    しかし、ハイドロカルチャーを日光に当てすぎると、容器の中に苔や藻が発生してしまいます。透明なガラスの内側に緑色の藻がびっしりと生えてしまっては、せっかくの清潔な見た目が損なわれます。

    さらに深刻なのが水温の上昇です。強い光が透明な容器や溜まった水に当たり続けると、水温が上がり、根が傷みやすくなります。直射日光が当たり続ける場所では、植物の葉焼けだけでなく、ハイドロボールの劣化などが起こってしまうこともあります。

    こうした弊害を防ぐため、ハイドロカルチャーでは日光を最小限に抑える必要があります。

    だからといって、光が入りにくい玄関のような暗い場所では育ちません。ハイドロカルチャーといえども植物ですから、光合成をして生きるための明るい場所に置いてあげることが大切です。

    では、どこに置けばよいのでしょうか。適しているのは明るい半日陰です。レースカーテン越しの窓辺や、リビングの奥にあるキッチンのような、直射日光は当たらないものの比較的明るい場所を選んでください。

    「育つための明るさは必要だが、直射日光が当たり続ける場所は避けなければならない」「水温の上昇や藻の発生を防ぐために、日照を最小限に抑える必要がある」。土の鉢なら置ける明るい窓辺も、暗い玄関も、ハイドロカルチャーにとっては不向きな場所になります。この条件を満たす場所を探すと、部屋の中で置ける範囲は土の鉢よりもかなり限られてきます。


    水だけでは育ちません

    画像

    清潔な器にハイドロボールを敷き、透き通った水を注ぐ。その姿を見ていると、水だけでずっと瑞々しく育ってくれるような心地になります。

    しかし、植物は水だけでは健全に育つことができません。

    高温で焼き固められたハイドロボールは、無機質の石です。そこに養分はありません。水を足しているだけでは、株に渡るものが何もない、ということになります。

    そのため、資料では「すばやく根から吸収できる液体肥料や活力液を与えましょう」と書かれています。

    ここでひとつ知っておきたいのが、液体肥料と活力液の違いです。この二つは同じように見えて、法律上の区分から中身が異なります。植物に必要な三大栄養素(チッソ・リンサン・カリ)を補給するのは液体肥料です。一方の活力液は肥料ではなく、微量要素やアミノ酸などを補うための資材ですので、肥料の代わりにはなりません。健やかに育てるための養分を補うなら、液体肥料を選んでください。

    与える量は、その製品に書かれている使い方のとおりに。多いほうがよく育つ、ということはありません。

    ハイドロボールに養分が無いことと、肥料を与えるかどうかで資料が割れている点は、別の記録にまとめてあります。



    まとめ — 替えるかどうかの決め方

    画像

    ハイドロカルチャーがご自身の暮らしや部屋に合っているかどうかは、次の基準で判断してみてください。

    ■ 替えてよい人 → 虫やにおいを防ぎ、卓上でコンパクトに楽しみたい方
    ■ やめたほうがよい人 → 株を大きく育てたい方や、石の定期的な洗浄を手間に感じる方

    ハイドロカルチャーは、楽になる育て方ではありません。世話の中身が入れ替わる育て方です。

    土の汚れや虫を遠ざける清潔さを手に入れる代わりに、定期的な石の洗浄や、置き場所への配慮といった別の手入れを引き受ける。その仕組みをあらかじめ納得して迎えてあげれば、不意に根を腐らせて枯らしてしまう失敗は防げます。


    よくある質問

    Q1. ハイドロカルチャーに向いている品種は何ですか?
    A. 結論:少しの日光でも育つ耐陰性の高い植物です。 資料ではポトス、デコラゴム、テーブルヤシ、ガジュマル、モンステラの5種類が挙げられています。これらは光が少ない室内環境でも持ちこたえる力を持っています。まずはこの5種類の中から選んでみるのが確実です。

    Q2. ハイドロカルチャーの最大のデメリットは何ですか?
    A. 結論:大きく育ちにくく、根腐れを起こしやすい点です。 土と違って老廃物を分解してくれる微生物がいないため、容器内に老廃物が溜まります。半年から1年に1回、ボールを取り出して洗い、根腐れ防止剤を交換する手入れが欠かせません。

    Q3. なぜあまり大きく育たないのですか?
    A. 結論:資料は生長が緩やかになると書いていて、理由までは書いていません。 大きく育てたいなら土の鉢のほうが向きます。ハイドロカルチャーはあまり大きく育たない性質があるため、コンパクトな卓上サイズのまま姿を保ちたい方に向いています。

    Q4. 水やりの頻度は何日おきが良いですか?
    A. 結論:日数ではなく、容器の水が完全になくなってから2〜3日後です。 気温や季節で水の減り方は変わるため、日数で決めることはできません。底の水が消えてから2〜3日待ち、容器の4分の1から5分の1まで注いでください。

    Q5. ハイドロボールに白いものが付いてきたのですが大丈夫ですか?
    A. 結論:ミネラル分の結晶なら問題ありませんが、白くふわふわしたカビならすぐ取り除きます。 水に含まれるミネラル分が結晶化して付着しているだけであれば害はありません。ただし、白くふわふわしている場合はカビの可能性があるため、見つけたらすぐに取り除いてください。風通しの良い環境で管理し、水の与えすぎに注意することが予防につながります。


    三十年、この商売をやってまいりまして、枯れてしまった鉢の相談を数多く受けてきました。

    植物が調子を崩すとき、そこには必ず理由があるものです。

    理由さえ正しく掴んでおけば、不必要に悩むことも、過剰に手をかけすぎて根を腐らせることもなくなります。

    土には土の育ちやすさがあり、ハイドロカルチャーにはハイドロカルチャーの清潔さがあります。ご自身の暮らしや部屋の環境に合う形を、ゆっくり選んでみてください。

    では、よい緑を。

     
     
    枯れるのには、必ず理由があります。観葉植物の店を三十年やってきた常盤です。症状から原因を切り分けて、品種ごとに、測ってから書きます。 楽天のアフィリエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

    あなたへのおすすめ