
ショートショート|ドッペルゲンガーがいたんだけど
家賃が相場よりも、妙に安い部屋というのは、曰くがあるものだ。
オレが借りた部屋は、前の借り手が失踪したらしい。
だが生活のためには、そんなことは気にしてられない。
ある日のこと。
夜中にトイレを開けるとドッペルゲンガーと目があった。
オレが口を開くより先に、彼が話し出した。
「こんばんは。ドッペルゲンガーです」
「うそつけ! オレと似てないじゃないか!」
「そんなことはどうでもいいじゃないですか。ちょっと失礼」
ドッペルゲンガーは落ち着き払ってトイレのドアを閉めた。
内側から、カラカラとトイレットペーパーのロールが回る音がして、ドアが開いた。相変わらず、座ったままでこちらを見上げている。
「お前、ちゃんと水を流せよ! 流す音が聞こえなかったぞ!」
「そんなことはどうでもいいじゃないですか。細かいですねぇ」
またトイレのドアが閉まって、水の流れる音がした。
しばらく待ってもドアが開かないので、ノックした。
「おい! なにやってんだよ。開けろよ! こっちは漏れそうなんだよ! ドッペルゲンガーでもなんでもいいから早くでてくれ!」
ドアノブを引くと、そのままドアが開いた。
誰もいない。どうなってるんだ?
まぁ、考えるのは、あとでいい。
まずはやるべきことを済ませてからだ。
オレはしゃがんでコトを終わらせると、ペーパーに手を伸ばした。
その時、突然、ドアが開いた。
「誰だよ、お前は!」男が叫んだ。
オレは間抜けな顔でのぞき込んでるそいつに言ってやった。
「こんばんは。ドッペルゲンガーです」