
エッセイ😌|オープンカーの幌に手をあてると、雨の感触がした
その頃、マツダのロードスターに乗っていた。
手動の幌が装備されたコンパクトな二人乗りのオープンカー。
オレンジマイカの車体が気に入っていた。
幌をあげた状態で、風景の中を移動するのは楽しかった。
でも、雨の日には、雨の日の楽しみがあった。
路肩に車を寄せて、エンジンを切った瞬間が好きだった。
ボンネットの上に小さな湯気が立ち上がって、
静かになった車内に、幌を打つ雨の音が響く。
雨が雨らしい音をしている。
幌の内側からそっと手をあてると、
布を打つ雨の感触が伝わってくる。
布一枚を隔てて、雨が手のひらで、ぽつぽつと跳ねている。
シートを倒すこともできない車だったけど、
小さな車の中は、雨に集中できる空間だった。
空の上から落ちてきた雨粒を、幌が受け止めている。
濡れることなく、手のひらで雨の感触が楽しめる場所。
さっきまでフロントガラスに流れていた街の映像は、
ワイパーが止まると、すぐに雨垂れに崩れていく。
波ガラスの向こうで、風景が現実から離れていく。
雨の日に傘をさしながら、そんなことを思い出していた。
傘の内側に手のひらをあてると、雨の感触がした。
でも、違うんだよ。
雨に集中できる空間が好きだったんだ。