
ショートショート|ドッペルゲンガーに会うと死ぬのです
大学のサークルが終わった時には、すっかり夜になっていた。
人気のない校舎の奥のトイレに入り、個室のドアを開けると、誰かが座っていた。
そいつは、驚いたオレを見上げながらこう言った。
「こんばんは。ドッペルゲンガーです」
「ちょっと待てよ! ドッペルゲンガーってのは自分とそっくりなヤツだろ。お前は、全然、オレと似てないじゃないか!」
「そんなことは、どうでもいいじゃないですか。細かい人ですねぇ」
「いや、ドッペルゲンガーなら同じ顔じゃないと」
「あなたの理屈だと、双子は顔が同じだからドッペルゲンガーということになりますね?」
「違うよ。そういうんじゃなくて!」
「あなたは顔のことを気にしてますけど、もっと大事なことがありますよ。ドッペルゲンガーに会ったんですから」
「あっ! ドッペルゲンガーに会うと死ぬ!」
「そうなんです。そっちの方がずっと大事です」
「オレ、死ぬの?」
「はい。死にます」
「いつ?」
そいつはニヤリと笑った。
「すぐにです。逃れることはできません」
そのあと、どうやって帰ってきたのかは記憶が定かじゃない。
ドッペルゲンガーは都市伝説なんかじゃなかった。実在してたんだ。
だから、オレはこの事実を書くことにした。死の足音が聞こえているから。
「すぐにです。逃れることはできません」
…あいつの言葉が、ずっと脳裏で繰り返されていた。
人生なんて、あっという間に過ぎていく。
あれから70年が過ぎた。
いろんなことがあったけど、明日は92歳の誕生日だ。ようやく、早死にを受け入れる覚悟もできた。
もうドッペルゲンガーの言葉に怯える必要はない。
あぁ、オレの人生の走馬灯が回りはじめている。
ドッペルゲンガーに死を宣告された時の光景が見える。
そいつがニヤリと笑う顔を見ながら、そっとドアを閉めた。
内側でカチャリと鍵をかける音が聞こえていた。