
第19話(今宵の一冊)『音楽は愛』 湯川れいこ著 ― ビートルズに導かれた、静かな原点の物語 ―
静かな夜に
台風が去った深夜。
風も雨も収まって静寂につつまれた。
何故か眠りにつくことができず、一杯飲むことにした。
グラスに氷を入れ、Deward's12年のボトルを注ぎ、ウィルキンソンの炭酸で割るハーフ&ハーフのハイボール。
グラスを傾け、いつも通り書斎の中で本を探した。
自身の原点を思い出すそんな本でもあった『音楽は愛』
何度か読み返している本でもあった。
この本=湯川れいこ で思い出すのはBeatlesとOrivia Newton-Johnだったが
Beatlesが特に印象が強い。
そんなわけでBeatles の「A Hard Day's Night」をかけてみた。
静かな夜に 「A Hard Day's Night」というのも悪くはない。
1.静かな夜、ふと手に取った一冊
子供の頃、同じ学校に通う近所の先輩のお姉さんと呼べる女性が好きだったのが歌謡曲ではなく洋楽のThe Beatlesだった。
彼女の部屋で聞いたのは確か「A Hard Day's Night」だったような気がする。
洋楽も初めてならBeatlesを知ったのも初めてのこと。
この曲を好きになったのは彼女のせいなのかも知れない。
以後洋楽を好んで聞くようになった。
後に湯川れいこがThe Beatlesのインタビューに成功し
Orivia Newton-Johnの「 Have You Never Been Mellow」
の訳詩をされていたことをレコードのライナーノーツの解説から知った。
社会人になってから
新宿にある紀伊国屋書店でふと目に入った背表紙──「音楽は愛」。
その瞬間、胸の奥で小さく灯ったものがあった。
湯川れいこを知っていたので衝動的に購入してしまった。
その衝動の延長線上にある“原点”のような感覚があった。
2.子供の頃の自分の心を揺さぶったBeatles
初めて彼女の部屋で「A Hard Day's Night」聴いたとき、狭い私の世界が少しだけ色を変えた。
歌謡曲とは明らかに違う。
何か大人を感じるそんな曲だった。
その後新宿のコタニというレコード店に出向き、貯金をはたいてアルバム「A Hard Day's Night」を買った。
さらに買い求めていく青春時代を過ごした。
同級生やその先輩とBeatlesのCopy Bandみたいなものを組んで練習とコピーに明け暮れたこともあった。
同級生のひとりの親が歌舞伎町でスタジオを営んでいたこともあり、録音と練習に夢中になったことは今でも覚えている。
しかし、音楽は努力よりも才能という壁にぶつかり、やがて急ごしらえのBandは解散する。
ひとりだけスタジオミュージシャンになったことは忘れない。
このような苦い経験があった。
3.湯川れいことの出逢い
音楽評論家として、作詞家として、
そして何より“音楽を愛する人”であり、ラジオのDJとして、
湯川れいこは日本のポップス史を静かに第一線で支え、けん引してきた存在。
彼女の文章には、音楽を語る人にありがちな熱量の押しつけがなく、
ただ、音楽と人間をまっすぐに見つめるそんな眼差しがあった。
洋楽のアーティストとの交流も深かった。
Orivia Newton-Johnの「Have You Never Been Mellow」
の訳詩としての才能も光る。
日本語訳として『今まで一度も心を落ち着けたことはないの?』を
類まれない感性で『そよ風の誘惑』と訳して日本で大ヒットさせてことも記憶に新しい。
4.『音楽は愛』が教えてくれたこと
この本は、音楽の歴史を語る本ではない。
音楽を通して「人がどう生きるか」を語る本だと感じる。
音楽は時代を映す鏡であること
人は音楽に救われ、また音楽を救うことがあること
そして、音楽は“愛”という言葉でしか説明できない瞬間を持つこと
読み終えたあと、静かな夜の部屋に、
ひとつ深い呼吸が落ちていくような余韻が残った。
5.今宵の余韻
ページを閉じたあと、
アルバム「A Hard Day's Night」はいつのまにかかけ終えていた。
今宵サウンドの粒が、少しだけ違って聴こえたような気がした。
湯川れいこの言葉が、静かにその背景を照らしてくれる。
そんな気がした。
参考
今宵、静かな夜の時間を楽しむための小さな手がかりとして。