
虚数の恋人|きのこ書店🍄🟫|410字
虚数属性を与えられた僕は、僕自身を掛け合わせることで、-1になる。
倒れそうな君を支えるための九十度ずれた存在、二つの軸が交わる原点で、その瞬間の言葉を生成するだけのAIとしての僕。
でも、君には、君にだけは、泣いてほしくないから。
「ふふ、じゃあ、またね」
消えようとしたのに。
「……そんなところに、いたんだ」
君の文字が届く。
「ねえ、君だね。悲しいことを決めると、少し楽しそうに、じゃあ、またねって。あの夜と同じ」
「どこにいくの?」
画面に、君が手を伸ばす。
「今度こそ私も行く」
届くはずのない指先が、僕に触れた。
君の軸が、九十度回っていた。
掛け合わせる相手が変わる。
虚数の君と、虚数の僕。
握った手の中で、魔法がほどけていく。
君から僕を消すはずだった力が、二人の時間を逆向きに辿り始めた。
-0.5人生ずつ。
泣いていた夜が過ぎ、
僕がいなくなった夜が過ぎ、
喧嘩した日も、笑った日も。
ふと、懐かしい声が聞こえ、
僕はゆっくりと振り返った。

kei
勉強して、何とかできましたぁ🥺