
となりの月│シロクマ文芸部│月を見る
こちらに参加させていただきました。
夜中の二時に目が覚めると、私はまず月を探す。 今夜も出ていた。すぐ隣に、ぽっかりと。
結婚した頃、この月はなかった。三十代で薄雲がかかりはじめ、四十代で三日月になり、還暦のころには見事な満月になった。 「見るなよ」と本人は嫌がる。でも私は、この月がいちばん好きだ。
去年の冬、三週間、月が昇らなかった。 病院の白いカーテンの向こうに、月は隠れていた。私はひとりの布団で、窓の外の本物の月を睨んだ。あんなもの、ちっとも綺麗じゃなかった。
春になって、月は帰ってきた。前より少し、痩せて。
今夜も隣で、すうすうと寝息を立てている。 そっと手を伸ばして撫でると、つるりと温かい。
「……なんだよ」
寝ぼけた声がした。
「月が綺麗ですね」
「なに言ってんだ、ばあさん」
夫は枕に顔をうずめた。 耳まで、赤かった。
_____了