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時間をかける少女~ アマノ文筆クラブ~

    こちらに参加させていただきました。

    彼女は、何をするにも時間をかける。

    給食の牛乳を、昼休みいっぱいかけて飲む。黒板を写すのはいつもクラスで最後で、日直に「消していい?」と聞かれるたびに首を横に振る。

    けれど、いちばん時間をかけるのは帰り道だ。

    学校から彼女の家までは、普通に歩けば十分で着く。その道を、彼女は一時間かけて歩く。道ばたのたんぽぽの綿毛を数え、数え終わるまで吹かない。塀の上の猫と見つめ合い、先に目をそらしたほうが負けだと決めている。信号が青になっても、一度は見送る。

    僕はその隣を、同じ速さで歩く。それが僕たちの決まりだった。

    「なんでそんなに遅いの」

    一度だけ聞いたことがある。彼女は前を向いたまま答えた。

    「急いだら、早く着いちゃうでしょ」

    答えになってないよ、と僕は笑った。

    クラスの連中は、彼女を少し気味悪がっている。帰り道にひとりごとを言っている、と噂しているのも知っている。誰も僕たちに話しかけてこない。それでよかった。二人きりの一時間に、ほかの誰かはいらなかった。

    横断歩道の前で、彼女はいつも半歩だけ左に寄って立つ。誰かの分の場所を空けるように。

    交差点の角まで来ると、彼女は必ず立ち止まる。ガードレールの根もとに、小さな花が供えてある。彼女は毎日そこで手を合わせ、しおれた花を新しいものに取り替える。

    誰のための花なのか、僕は聞かない。

    去年の秋、僕はこの交差点を、信号を待たずに渡ろうと走った。約束の時間に五分遅れていて、彼女を待たせたくなかったのだ。

    制服の校章は、今も二年生の色のままだ。

    彼女の胸の名札は、この春から三年生の色になった。

    「ねえ」

    花を替え終えた彼女が、誰もいない左隣に向かって言う。

    「急いで大人になったら、置いていっちゃう」

    それから、小さな声で続けた。

    「だから、ゆっくり行くの」

    信号が青に変わる。彼女は一度、それを見送った。

    僕は彼女の横顔を見ていた。去年より少しだけ大人びた横顔を。

    もう待たなくていい、と言うべきなのだろう。でも、言ってしまったら、この一時間が終わる。

    二度目の青で、僕たちは歩き出す。

    十分の道を、一時間かけて。

    ____了

    #アマノ文筆クラブ

     
     
    沖縄在住のアラ還の素人で、重度訪問介護の介護士です。2年程の駆け出しです。自慢できる人生は送れてません。履歴書の職歴も一枚目で終わりませんし、職務経歴書なんて書こうものなら、徹夜の作業になります。小説、エッセイなんでも書いてます。恥さらしですが、笑って頂けると救われます。