メインコンテンツへスキップ
見出し画像

プレゼンテーションスライドのためのデザイン入門

    最近、論文を基にしたプレゼンを求められる機会が少しずつ増えてきて、他の人の作ったプレゼンスライドを目にする機会も増えました。論文・研究紹介にもライトなものからヘビーなものまでいろいろなものがあると思いますが、特に専門家ではない人たちに向けたプレゼンにおいては、そのプレゼンテーションの要旨をきちんとつかんでもらい、まずは何が重要で面白いのかということを理解してもらうことが大切です。

    グラフィックデザインには、感性的な要素が多かれ少なかれ存在します。しかし、プレゼンテーションスライドのデザインにおいては、まずもってわかりやすくて美しいデザインを作ることが優先されます。したがって、実用的な必要性に迫られている人はもちろんのこと、デザインの勉強を始めてみようかなという人にとっても、プレゼンスライドはとても良い勉強材料なのです。今回は、プレゼンスライドを美しくデザインする、実践的に役に立つポイントをいくつかご紹介しながら、デザインの基本的なことがらをまとめてみようと思います。

    美しいスライドが作れると、なんとなくいい気分になりますし、この機会にデザインに関心を持ってくれる方が少しでも増えると嬉しいです。

    情報伝達には音声情報より視覚情報の方が適していることは明らかですから、プレゼンを見て大枠をつかんでもらい、口頭でそれをなぞりながら補足をする、という方法が有力です。また、最近ではZoomなどを使ったオンラインでのプレゼンも増えてきていて、スクリーンに写すことを前提としたプレゼンスライドとは、求められる内容や許容される情報量に変化が見られます。こうしたことも工夫していけるとよりよいスライドになるのではないかと思います。

    制作ツールの選択

    みなさんはどのようなツールでプレゼンテーションスライドを作りますか? 私が使ったことがあるものだけでも、王道のMicrosoft PowerPointから、数学・物理系にはおなじみのLaTeX、情報系の人がよく使うかもしれないMarkdown、そしてデザイナー御用達のAdobe XDやAdobe InDesignが挙げられます。私はアニメーションをつける必要を感じていないので、印刷屋さんおなじみの組版ソフトウェアであるInDesignを使ってスライドを作ることが多いです。聴衆の反応などを見ながら内容を入れ替えたい場合、スライドを行ったり戻ったりする必要がある場合などには、UIデザインソフトウェアであるAdobe XDを使っています。

    しかし、Adobe製品は有料ですし慣れるまでは操作が難しいという欠点もありますので、最もメジャーであるPowerPointを使う前提で話を進めようと思います。そもそも、デザインの能力と、ソフトウェアを使う能力は別のものです。私はAdobeに慣れてしまっているのでPowerPointを使わないといけないというだけで頭痛がしてきますが、PowerPointであっても基本的な事柄を抑えていればそれなりに美しいデザインを作ることができる、という実例になれるように少し頑張ってみたいと思います。

    余談 Adobe製品を推すコーナー: Microsoft PowerPointと比べてAdobe IllustratorやInDesignが圧倒的に使いやすい理由の一つは、配置したオブジェクトの位置や大きさが絶対に変化しないことが挙げられます。なんでこのオブジェクト動いちゃうのかなぁ、という場面がMicrosoft Officeシリーズのソフトウェアには多く、レイアウトを緻密に検討して調整したいデザイナーという人々にとってはとても使えたものではありません。また、画像ファイルを外部からリンクすることでファイルを軽量化し、使用する図表のバージョン管理をしやすくする機能もあり、直接埋め込まれてしまうOffice製品と比べて利便性が高いです。

    外枠を固める:マージン

    スライドの各ページに対して、その外側からいくらかの部分は、余白として残し、少なくとも文字は配置しないのが普通です。この余白の部分をマージンといいます(マージンは「余白」を意味する英単語なのでそれはそう)。Web開発をやったことがある人は"padding"といったほうが伝わるかもしれませんね。とにもかくにも内側のエリアのことです。

    すぐできるデザインのコツで最も簡単なのが、このマージンをしっかりと意識することです。すなわち、スライドを通してマージンの広さを変えないことが大切になります。したがって、作業に取り掛かる前にまずガイドを引きましょう。

    PowerPointでの操作:上に並んでいるタブのうち、「表示」をクリックすると、「ルーラー」と「ガイド」のチェックボックスがある。どちらも便利なのでチェックするのがおすすめ。ガイドの位置は自由に変更でき、Ctrlキー(Win)/ optionキー(Mac)を押しながらドラッグすることで複製できる。マージンを決めるためのガイドは、上下左右で4本引くことが基本になる。ガイドを消した見た目が大丈夫そうか見たい時だけチェックを外し、基本的にはガイドを表示した状態でデザインするのがおすすめ。

    スクリーンショット 2020-11-27 19.48.35

    図1:
    ガイドを引き、各要素をきっちりと合わせるだけでデザインは綺麗になる。特に理由がなければ左右のマージンの広さは同じにする。プレゼンスライドの場合、上下のマージンもあまり差がない方がきれいだ。例のようにヘッダーをつける場合には、ヘッダーの幅を差し引いて、本文を書くエリアのマージンを考えるとバランスがとりやすく、初めての方にはおすすめできると思う。

    スクリーンショット 2020-11-27 19.48.38

    図2:
    上の例でガイドの表示を外した場合。整列することを意識していれば、自然とガイド表示を外してもマージンの線が見えるようになってくる。なお、マージンは広い方が落ち着いた印象、狭い方が動きのある力強い印象になりやすいとされている。少し専門的なことだが、マージンの選択はデザインの与える印象を大きく左右する重要な要素とされる。


    区切りを明確化する: 見出し

    プレゼンの内容をいくつかのセクションに分けて考えます。序盤・中盤・終盤といった大まかなものではなく、細かめに分けてみましょう。聴衆にそのセクションわけをきちんと伝え、プレゼンテーションの流れ、すなわち文脈を意識しながら聞いてもらうことが大切です。そのためには見出しを工夫する必要があります。

    初心者から上級者まで、見出しのデザインのポイントはひとつだけであると私は考えています。それは見出しとそれ以外のコントラストの付け方です。見出しをどの程度そのほかと差別化するのか、ということを意識することで、大抵のプレゼンスライドの出来はグッと良くなると思います。

    見出しとその他のコントラストをつける最も基本的なテクニックは、文字の大きさ・文字の太さ・文字の装飾の3つです。当たり前のようですが、大切なことなので順番に丁寧に解説していきます。

    まずは文字の大きさです。デザインの世界では、見出しと本文の文字の大きさの違いのことをジャンプ率と呼ぶことがあります。名前がついているほど、見出しと本文の文字サイズの差は大切な要素なのです。当たり前すぎますが、大きくすることで見出しを差別化することができます。

    アートボード 1@4x

    図3:
    フォントウェイト(文字の太さ)は同じで、大きさだけを変えた例。シンプルなデザインだが、十分見出しと本文を区別できており、もっとも基本的なコントラストの付け方であると云える。


    次に大切なのは文字(フォント)の太さで、これをデザイン用語ではウェイト(weight: 重さ)と云います。フォントウェイトを変えて太字にすることは、強調の意味で使うことが多いかもしれませんが、太くするだけでもれっきとした見出しを構成することができます。

    アートボード 1@4x

    図4:
    今度は大きさを揃え、太さ(ウェイト)だけを変えた例。やはりシンプルな工夫だが、見出しと本文を区別するには十分だ。サイズを変えずに太くする見出しのデザインは、小見出しや中見出しによく使われる。


    最後の要素は文字の装飾です。もっともシンプルな装飾は下線を引くことですが、そのほかにも色をつけたり行頭記号をつけたりと、いろいろな装飾方法があります。凝る方向にはいくらでも発展させることができますが、あまりごちゃごちゃとしたデザインはスライドでは好まれないでしょう。基本的な例を以下に示します。

    アートボード 1@4x

    図5:
    見出しの装飾の基本的な例。もちろん、下線を点線にしたり文字に色をつけたりと、いろいろな工夫がある。ただし、色を使うときにはその色が十分読みやすいかを意識しなければならない。背景色との差が弱い、淡い色を使うとかえって見出しとして機能しなくなってしまう。


    実際には、こうした手法を組み合わせて見出しのデザインを作ることになります。ページのタイトルになるような最も強い見出しには大きくてウェイトの高い文字を、小見出しには下線のみをという具合です。あまり見出しの種類を増やすのも考えものですが、2つくらいはデザインを決めておいても良いでしょう。

    大抵のプレゼンスライドにはページごとに見出しが必要です。なぜなら、大抵のプレゼンスライドは1ページに1セクションくらいの情報量であると考えられるからです。聴衆に現在のトピックを理解してもらうという意味では、ヘッダーを作り、全てのページに大見出しをつけるというやり方が効果的であることもわかります。現在位置が把握できることは大切です。


    読みやすさに直結: フォント選び

    PowerPointで作られるスライドでは、高確率で游ゴシックという書体が使われています。字游工房という書体メーカーのフォントで、美しいフォントなのですが、PowerPointではLightとRegularという細めの2ウェイトしか入っていないという問題があります。特にRegularの游ゴシックは、スライドの本文には少し細すぎます。またグラフィックデザインの観点からいえば、書体はそれだけで印象を大きく左右する重要な要素です。スライドでは明朝体(セリフ体)は避けるのが無難ですが、読みやすさを損なわない範囲でゴシック体(欧文書体ならサンセリフ体)から書体選びをしてみてはいかがでしょうか。その際、太いウェイトから細いウェイトまで揃っているものを選ぶとなお良いと思います。理科系であれば英語の論文を紹介する機会も多いでしょうから、日本語フォントから選ぶ必要もなく、さらに選択肢が広がります(欧文書体のほうが圧倒的にバリエーションが豊富です。作るべき文字の数の次元が違いますから仕方ないとも云えるのですが……)。

    書体は値段が高く、手を出すのが憚られるものではありますが、そんな方にはまず Google Fonts がおすすめです。残念ながら日本語書体の数は多くないですが、欧文については申し分ない種類が揃っています。全てが無料で利用できるのがとてもありがたいところなので、英語でプレゼンする機会がある方は、自分のお気に入りの書体を探してみてはいかがでしょうか。

    スクリーンショット 2020-11-27 22.54.36

    図6:
    冒頭の例をPowerPoint附属の游ゴシックRegularで組んでみた例。特に本文については、もう少し太い方が視認性の観点から優れている。ちなみに冒頭に示した例は Mukta Mahee というフォントで、Google Fontsから無料で利用できる欧文書体で、私のおすすめ書体のひとつ。手書きの要素を残した自然なストロークが特徴的な読みやすい書体だ。これは専門的にはヒューマニスト・サンセリフという種類に分類されるが、リアリスト・サンセリフ(例えば游ゴシック附属の欧文書体など)に比べて、遠くからでも文字の形が見分けやすいとされている。


    兎にも角にも整列

    先ほど、マージンのガイドを引いて要素を整列するということを書きましたが、そもそも整然としたデザインの基本は整列であり、様々な要素の両端をどこかしらに揃えることが大切です。

    注意点としては、中央揃えは揃っていることがわかりにくいということが挙げられます。できるだけ左揃え・上揃えを中心とし、大きな図表を使うときのみは中央に揃えるといった工夫が大切です。

    スクリーンショット 2020-11-27 23.18.24

    図7:
    すべての要素がどこかしらに揃っている
    こと、そして二つの要素が並んでいるときには、その二つの端も揃えることが基本だ(図ではマージン以外にも整列の基準となったガイドを説明用に描きたし)。マージンの取り方にもよるが、文字のサイズを十分に確保しようとすると、画像が入りにくいことがあり、無理やり押し込むと整列も難しくなってくる。読みやすさを優先するなら、ページを分けたり、文字で説明する情報量を減らすのが得策だ。


    アートボード 1@4x

    図8:
    整列は要素同士の位置関係のみに止まらない。たとえばテキストを枠で囲むときには、その内部のマージンにも気を配るべきである。上下・左右の内部マージンはそれぞれ共通にするべきだ。上下左右全ての内部マージンを全て共通の値にすると、さらに整った印象になる。これはフレームにテキスト全体を中央揃えしていると云えるが、しかしこの場合であってもテキスト自体は左揃えであるべきであり、そのバランスを取りながらフレームのサイズなどを決めることになる。


    また、テキストの下に色付きの長方形を敷きたい場合などに、長方形とテキストボックスを別々に作るのは、それぞれ個別に整列しなければならず、文字の量が変わったときにずれてしまう原因にもなります。テキストボックスを作り、そのテキストボックス自体を塗って、テキストボックス内マージンで文字の位置を調整するほうが効率が良いし簡単なので、是非覚えてもらいたいテクニックです。

    PowerPointでの操作: テキストボックスを選択した状態で、右クリック(Macであれば二本指でクリック)します。図形の書式設定に進み、「文字のオプション」内の「テキストボックス」("A"が長方形に囲まれているアイコン)に進む。テキストをテキストボックス内のどこに整列するか、またテキストボックスの内部のマージンを上下左右それぞれどれくらい取るかを設定できます。実は文字サイズの自動調整もここでオフにできるので、自動調整によって整列が崩れてしまうことを防止するためにオフにすることをお勧めします。「自動」の挙動を把握することは難しいので、文字が溢れてしまったら手動で調整する方が、結果的には近道だと私は思います。

    スクリーンショット 2020-11-27 23.29.23

    図9:
    例として作成したスライドのヘッダー部分(オレンジの帯)は、実はひとつのテキストボックスで作られている。こうすることで文字の左側が絶対にずれないし、大きさを変更したくなったときにもひとつのテキストボックスだけをいじれば良いので、手間が半分以下に減る。


    当たり前だが……文字サイズの確保

    当たり前すぎて後回しにしてきたこととして、文字サイズの確保、すなわち文字は一定以上大きく保つということがあります。これは単に読みやすくなるだけではなく、1ページに収まる情報量を適正に保つという効果もあるので必ず守るべきです。

    最近はオンラインでのプレゼンも増えてきていますが、オンサイトで、スクリーンに映し出す形のプレゼンであれば、会場の大きさによって文字の大きさを選択するべきです。一般的な教室であれば目安は本文で36px程度かなと私は思っています。小さな文字に慣れている人は「全然情報が入らない、スペースが足りなすぎる」と感じると思います。しかしその情報過多こそが悪いデザインを生み出す原因です。授業であればメモを取ったり調べたりとできるかも知れませんが、一発で終わってしまうプレゼンにおいては、いかに伝え切るかということが重要です。そのようなプレゼンにおいて、スライドで説明できることはたかが知れていると割り切ることで、むしろデザインの工夫が活きてくると思います。プレゼンに限らず、優れたデザインは優れた情報策定から始まっているのです。「官庁スライド」と揶揄されるような、情報がぎっしり詰まったプレゼンスライドがわかりにくいのは、デザイン以前に情報策定が崩壊していることが原因なのです(追記すると、官庁ではスライドを印刷して配るのが一般的でありあの形が好まれていると聞いたことがあります)。

    オンラインで、画面共有をしてのプレゼンであればもう少し文字は小さくても大丈夫ですが、個人的には26pxを下回ると少し小さいかなと感じます。そもそも文章を読ませるということとプレゼンで口頭発表を聞いてもらうということの相性はそこまで良くありません。印刷して配布するのならまだしも、口頭発表の資料として使うのであれば、プレゼンを読むことに必要な労力は極力削減するのがよいデザインとされます。英語では特に単語数が多くなりがちですから、そもそも完全な文章を避けて、重要な単語を並べることでスライドが簡単に頭に入るようにする、という工夫がなされることが多いです。


    番外編:各ページに共通な要素を作る

    これまで例として挙げてきたスライドには、上部にオレンジのヘッダー(帯)がありました。ヘッダーが典型的ですが、このような各ページに共通な要素を作ることで、ページが切り替わったときに、まずそこに無意識的に目を向けてしまうという視線誘導を実現しやすくなります。ヘッダーつきのデザインでは、ヘッダーの中にページのタイトルを入れることも多いと思いますが、このときにもマージンを意識することが必要です。冒頭ではヘッダーを除いた白い部分にマージンを適用していましたが、それはヘッダーにあまり情報量がなかったからと云えます。ヘッダーにページタイトルというかなり重要な要素を配置するのであれば、マージンの設定の際に、ヘッダーの内部の領域も考慮に入れるべきだと思います。

    スクリーンショット 2020-11-28 0.10.18

    図10:
    ページタイトルをヘッダーに含める例。このようにヘッダーが重要な情報を含むのであれば、あまり上に詰めすぎず、適正なマージンを取ることを心がけるべきである。


    番外編:色の利用

    ひとつのページの中で色が氾濫するのはよくないことですが、内容の区切り目と色の区切り目を合わせることはときに効果的です。そもそもどの程度区切りを意識させたいかという状況によって違うと思いますので、番外編としました(私は時間が短めのプレゼンをするときには色分けによるセクション区切りを使うことにしています。「さっきまで話していたことと違うんだけど……」という混乱が特に起きやすいと感じるからです)。極端な例を以下に挙げておきます。

    スクリーンショット 2020-11-27 23.49.49

    図11:
    私が課題で制作したプレゼンスライド(持ち時間10分)。各セクションごとにテーマカラーをひとつ決め、背景を薄く塗った上で、見出しの付近にもその色を使うことで、あまり意識することなく区切りを認識できるようにした。これはかなり極端な例だが、一方で長いスライドが全て同じような見た目だとそれはそれでメリハリがなくなってしまうので、ここまで極端でないにしろ、色を使い分けることは効果的であることが多い。


    なぜデザインが必要か

    プレゼンスライドにおけるデザインとは、いかに意識されないかが重要です。無意識でも、すっと論旨にそって聴衆を誘導するためのツールとして捉えれば、いわゆる「ビジュアル」の工夫はそこまで必要なく、こうした基本的な事柄を意識することで劇的にデザインが改善できることがわかるかと思います。

    このような切り口からでもデザインに関心を持ってくださる方が増えると嬉しいです。

    プレゼンのように、「情報伝達」を目的としたデザイン(ポスターのようなアーティスティックなものではなく、という意味です)を、もう少しビジュアルデザインの方向から学びたいなら、以下の書籍がおすすめです。一読するだけでも価値があると思います。

    入門にしては長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました……!

    あなたへのおすすめ